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太陽を追尾せずに光を効率的に集められる太陽電池向け集光デバイス——入射光を集中させて3倍の明るさに

Image credit: Courtesy Nina Vaidya

あらゆる角度から入ってくる光を効率的に集め、固定位置に集中して出力できるレンズデバイスが設計製造され、シミュレーションと実験が行われた。このデバイスを活用すれば曇りの日でも、太陽電池アレイが太陽を追尾しなくてもより多くの光を取り込めるようになる。この研究は米スタンフォード大学によるもので、2022年6月27日付で『Microsystems & Nanoengineering』に掲載された。

ソーラーパネルは、太陽光が直接照射したときに最もよく機能するが、日の出から日没までさまざまな角度から降り注ぐ太陽光から、いかに効率よくエネルギーを取り込めるかが課題となっている。できるだけ多くのエネルギーを取り込むため、多くの太陽電池アレイは太陽が動くにつれて能動的に回転する。この方法ではエネルギーを取り込む効率は上がるが、固定式に比べて建設やメンテナンスが難しくなり費用も高くなるという問題がある。

そこで研究チームは、光源の向きが変わっても、あらゆる角度から入射する光を取り込み、常に同じ位置に集光するレンズを作ることを目指した。理論的には、屈折率をなだらかに増加させて、光を焦点に向かって屈折させるように設計された材料を用いることで、散乱光を集光させることが可能だろうと研究者らは考えた。

そうして作られたのが、「Axially Graded Index LEns(AGILE)」と名付けられた受動的集光装置だ。多くの材料を検討して新しい製造技術を開発し、複数のプロトタイプをテストした結果、市販のポリマーとガラスを使ってうまく機能するAGILEの設計にたどり着いた。プロトタイプでは、異なる角度で光線を曲げるさまざまなガラスやポリマーを層状に重ね、屈折率分布型(GRIN)材料として知られるものを作った。重なった層が光の向きを段階的に変化させることで、理想的なAGILEに近づけることができた。

プロトタイプの側面は鏡になっており、特定の出力箇所とは違う方向に向かう光は、全てはね返されて出力箇所へ集まるようになっている。このAGILEは、ピラミッドの頂点を切り落として上下を逆さにしたような形をしており、タイル上に配置可能な正方形の上面にどの角度から光が入射しても、じょうごに通すように下に向かって光が進み、集められた光は出力箇所に明るいスポットを作る。

プロトタイプでは、表面に当たった光の90%以上を捕捉し、出力箇所に入射光より3倍明るいスポットを作ることができた。太陽電池セルの上にAGILE層を重ねて設置することで、太陽電池アレイをより効率化でき、直射日光だけでなく、地球の大気や天候、季節によって散乱した光も取り込める可能性がある。

このシステムは完全に受動的で、光源追跡に要するエネルギーも、可動部品も必要ない。そのため、エネルギー生産に必要な太陽電池の面積を減らせるなどのメリットがあり、その結果コストも削減できる。

AGILEは、固体照明(SSL)、レーザーカップリング、ディスプレイ技術のような分野にも応用が期待されている。また、宇宙用太陽電池に使用すれば、AGILE層は太陽を追尾することなく集光すると同時に、宇宙空間に存在する放射線から太陽電池を保護できるようになるかもしれない。

fabcross for エンジニアより転載)

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