カニの殻が原料——生分解性のあるサステナブルな電池材料を開発
2022/11/18 07:00
メリーランド大学の研究チームは、カニの殻を原料とする電解質を開発し、亜鉛電池を作製した。この電解質はカニの殻に含まれるキトサンで作られていて生分解性があるため、電池の3分の2が有害物質を残すことなく微生物により分解される。この電池は1000サイクル後もエネルギー効率99.7%を維持しており、風力や太陽光で発電したエネルギーを貯蔵して電力網に送電するための有力な選択肢になるという。研究成果は『Matter』誌に2022年9月1日付で公開されている。
リチウムイオン電池は、その優れたエネルギー密度とサイクル安定性により、エネルギー貯蔵デバイスとして広く使われている。しかし、論文の責任著者であるメリーランド大学のLiangbing Hu教授は、「電池の大量生産、消費により環境問題の可能性は高まっています。例えば、リチウムイオン電池に広く使われているポリプロピレンやポリカーボネート製のセパレータは、分解に何百年、何千年とかかり、環境負荷を高めています」と、その問題を指摘する。またリチウムイオン電池を構成するリチウムやコバルトは希少な元素であり、材料不足というリスクを抱えている。
電解質は、電池において正極と負極の間のイオン輸送を担う物質だ。液体、ペースト、ゲルなどさまざまな種類があるが、多くの電池は可燃性または腐食性の化学物質を使用している。
今回開発したキトサン電解質は、ゲル電解質だ。キトサンは、自然界に最も多く存在する高分子であるキチンが脱アセチル化した誘導体で、カニ、エビ、ロブスターなど甲殻類の外骨格に豊富に含まれている。食品産業では、年間600万トンから800万トンの甲殻類の殻を産業廃棄物として処分しているため、キトサンは簡単かつ低コストに入手可能だ。
キトサンは微生物により分解されるので、この電解質は5カ月で完全に分解される。そして残った亜鉛もリサイクルして利用できる。亜鉛はリチウムよりも地殻に多く含まれており、安価で環境負荷も低く、サプライチェーン上の問題も発生しづらい。
研究チームは、将来的には、すべての部品を生分解性材料とするだけでなく、製造工程も含め、より環境に優しい電池の実現に取り組みたいとしている。
(fabcross for エンジニアより転載)