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数千年の寿命の秘密——MIT、ローマンコンクリートが持つ「自己修復性」を解明

Credits: Courtesy of the researchers

MITを中心とする研究チームが、ローマ時代のコンクリート構造が数千年に渡る耐久性を維持しているメカニズムについて解析し、コンクリート中に分散する「ライムクラスト」の存在が主要な役割を果たしていることを明らかにした。この知見を活用することにより、耐久性の高いコンクリート成分設計が可能になり、構造物を長寿命化させることで、温室効果ガス排出の8%を占めるセメント製造の環境負荷を軽減できると期待している。研究成果が、2023年1月6日の『Science Advances』誌に公開されている。

コンクリート材料は圧縮強度が高く維持管理も比較的容易であり、社会インフラや建築構造の主要材料となっている。セメントと水を練り混ぜて水和反応を生じ、さまざまな骨材を結合する機能を発揮するが、水和反応に伴う自己収縮や乾燥収縮によって0.3mm以下のひび割れを生じることが多い。ひび割れが発生すると、雨水や海水の浸透により鉄筋の腐食が進行し、構造安定性を低下させるので、コンクリート構造物の寿命は一般に50~100年と言われている。

ところが古代ローマにおいてコンクリートで建造された巨大な道路網や水道橋、港湾、建築物は、遺構として2000年後も残存しているものがある。A.D.128年に完成したローマのパンテオンは世界最大の無筋コンクリートドームだが、今も無事に残っている。幾つかの水道橋は、現在もローマに水を送っているものさえある。このようなローマンコンクリートがなぜ高い耐久性や長寿命を保っているのかは、長年の謎とされてきた。

謎の解明にチャレンジした研究チームは、ローマンコンクリート中に「ライムクラスト」と呼ばれるミリメートルサイズの小さな白い石灰岩塊が遍在することに着眼した。従来は、ローマ時代の原料品位や混合プロセス管理が雑であったためと考えられていたが、現代のコンクリート材料には含まれてないことに注目し、高精度画像解析や化学成分マッピング技術を用いて詳細に解析した。

その結果、ライムクラストの中心部は酸化カルシウム(CaO)だが、表層はいろいろな形の炭酸カルシウム(CaCO3)によって覆われるとともに、CaOが水和する際に生じる発熱反応のように、非常に高温で形成されていることが判った。そこで、ローマンコンクリートにおいてはCaリッチなCaOを直接的に用いることで、ライムクラストがモルタルマトリックス中に分散して残されると考えた。そして、小さな割れがコンクリート中に発生する場合、内部界面面積の大きいライムクラスト中を伝播し、水分と反応するとカルシウム(Ca)リッチな溶液が生成され、最終的にCaCO3として再結晶して割れ部分を充填することで、それ以上の伝播を止めるという仮説を立てた。反応は自発的に発生し、割れが拡大する前に自動的に修復すると考えたのである。

この仮説を検証するために、古代と現代の混合成分を持ったサンプルを各々作成し、意図的に割れを導入して水を流す実験を行った。その結果、古代成分では2週間以内に割れが完全に修復され、水が流れなくなる一方、CaOを直接的に含まない現代成分は修復することなく、水はサンプル中を流れ続けるだけとなり、仮説が実証された。

研究チームは、「得られた知見によって耐久性の高いコンクリート成分設計が可能になり、コンクリートの使用寿命を長くできる。これによって世界の温室効果ガス排出の8%を占めているセメント製造の環境負荷を軽減できるだろう」と期待している。

fabcross for エンジニアより転載)

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