バイオガス、アンモニア、水素など、さまざまな種類のグリーン燃料で作動する新しいタイプの発電機
2023/05/21 07:00
米Mainspring Energyの共同創業者であるMatt Svrcek氏が、同社の新しいタイプの発電機について解説した記事が、2023年2月18日付で『IEEE Spectrum』に掲載された。2020年に商用提供開始されたこの発電機は、バイオガス、アンモニア、水素などさまざまな種類のグリーン燃料で作動し、必要であればさほどグリーンでない燃料も使用できるとしており、各種燃料を素早く切り替えられるという。
燃料電池は非常に効率的だが、エネルギーを放出する化学反応を引き起こすために触媒を使用する。一般的に、触媒はコストが高く、経年劣化し、負荷の急激な変化にもうまく対応できない。
しかし理論的には、空気と燃料の混合物を圧縮するだけでエネルギー放出を引き起こせる。この理論では、まず、燃料と空気を一方の端壁が可動式の密閉チャンバーに入れる。次に、端壁をチャンバー内側に向けて押し込むと燃料と空気の混合物が圧縮される。すると、この混合気体内の分子同士がどんどん速く衝突するようになり、最終的に分子が分裂し再構成されて異なる分子になる。この時、化学結合に蓄えられたエネルギーを放出する。そのエネルギーによって、新しくできた分子同士がより速く頻繁に衝突するだけでなく、チャンバーの壁にも衝突してチャンバー内の圧力を上昇させる。火花などの着火源がなくてもこの現象は起こる。
この圧力は、最初に可動壁をチャンバーの内側に向かって押し込む力よりも大きな力で、壁を外側に向かって押し出す。可動壁が初期位置に戻り、チャンバー内の圧力が初期状態に戻ると、新しい燃料と空気が流入してサイクル中に作られた分子をチャンバーから押し出し、工程サイクルを再び最初から始める。
このような炎を使わない圧縮による反応を利用した発電機を実際に作り、効率的に反応を起こすには、反応を起こすためにちょうど必要な分だけ混合気体を圧縮する必要がある。反応が起きてから圧縮を続けると、反応によって発生する圧力に抵抗されてエネルギーを浪費してしまい、圧縮を止めるのが早すぎると反応が起きないからだ。
しかし、最適な圧縮は条件によって変化する。燃料選択の点でいうと、例えば水素はアンモニアより少ない圧縮でも反応する。また、フルパワーで運転するのか、部分出力で運転するのか、暑い日なのか寒い日なのかによっても最適な圧縮は変わってくる。そのため、従来の燃焼エンジンの構造に基づいた装置では圧縮量が常に一定であることから、反応の制御が難しいという問題があった。
そこでMainspring Energyの研究者らは、エンジンを模倣するのではなく、圧縮と膨張の動きを発電に直結させることで、必要な反応制御をする新しい機械を設計した。その結果、従来のエンジンとは共通する部分がほとんどない機械が出来上がったので、同社は「リニア発電機(Linear Generator)」と呼ぶことにした。この発電機の外見は従来のエンジンとは全く異なっており、細長い箱状のフレーム内に5本の円筒形装置が一列に並んでいる。全長は約5.5m、高さおよび幅は約1mだ。
同社のリニア発電機には圧縮を自動的かつ迅速に調整する能力があり、2つの点で注目に値する。1点目は、需要に追従するために、アイドル状態からフルパワーまでの全負荷範囲において最適な反応プロセスを維持する点だ。例えば、電力需要が低下した場合、燃料はゆっくりと流れ、燃料分子が少し希薄になる。そのため、より圧縮する必要があるが、このシステムはちょうど良い量で圧縮する。
2点目は、必要な時に必要な分の圧縮ができることで、性質が大きく異なる燃料を用いて効率的に運用することも可能になることだ。このリニア発電機は、天然ガス、バイオガス、水素、アンモニア、合成ガス、さらにはアルコールなど、多様な燃料を使用しながら性能を損なうことなく運転できる。
2023年2月時点でこのリニア発電機は数十カ所に設置されており、それぞれ230~460kWの電力を生産している。2024年中には、さらに多くの場所で稼働開始する予定だという。この発電機は、化石燃料依存から脱却した電力システムを利用できるようにし、システムの信頼性を高めて、予測できない天候変動や燃料供給量変動に対しても強いものになる可能性を持つとしている。
(fabcross for エンジニアより転載)