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MIT、長距離信号電送が可能な水中通信システムを開発——既存手法の約100万分の1の電力で稼働

Image: Courtesy of the researchers

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが、キロメートル規模の長距離を信号伝送できる、超低消費電力水中通信システムを初めて実証した。この研究に関する2つの論文は2023年9月10〜14日に米コロンビア大学で開催された国際会議「ACM SIGCOMM 2023」と、2023年10月2〜6日にスペインのマドリードで開催された国際会議「ACM SIGMOBILE MobiCom 2023」でそれぞれ発表された。

この技術は研究チームが数年前から開発しているもので、使用電力は既存の水中通信手法の約100万分の1だ。今回実証されたシステムは、電波の反射を用いる後方散乱通信(バックスキャッタ通信)を採用している。水中後方散乱通信デバイスでは、機械的な力が加わると、電気信号を発する「圧電」材料で作られたノードのアレーを利用し、音波を受信して反射する。

音波がノードに当たると、ノードは振動して機械的エネルギーを電荷に変換する。ノードはこの電荷を利用して、音響エネルギーの一部を散乱させて発信源に戻し、受信機が一連の反射に基づいて解読するデータを送信する。しかし、後方散乱信号はあらゆる方向に伝わるため、発信源に届くのはごく一部で、信号強度が低下して通信範囲が制限されるという問題があった。

そこで研究チームは、約70年前に登場した「バン・アッタ・アレー」と呼ばれる無線装置を活用した。このアレーは、左右対称のアンテナのペアを接続したもので、入射したエネルギーがやって来た元の方向に向けてエネルギーを反射させる。

しかし、バン・アッタ・アレーを作るために圧電ノードを接続すると効率が低下する。そこで、接続されたノードのペアの間に変圧器を配置すると、ある回路から別の回路へ電気エネルギーを伝達する変圧器によって、ノードは最大限のエネルギーをエネルギー発生源へ向けて反射できるようになった。この「逆指向性(retrodirectivity)」により、誤った方向に散乱する信号が減り、より効率的で長距離の通信が可能になる。

さらに、反射信号のバイナリデータをエンコードするため、2つのノード間の極性を交互に変える技術を使用した。2つのノードの正極同士、あるいは負極同士を接続するとその反射信号は「ビット1」に、正極と負極を接続すると「ビット0」になる。

また、接続されたノードが近すぎると互いの信号を妨害してしまうため、どの方向からでも信号がアレーに届くようにするため、ノードを互い違いに配置した新しい設計を考案した。この設計は拡張可能で、アレーのノード数が多ければ多いほど通信範囲が広くなる。

研究チームは、米ウッズホール海洋研究所と共同で、米マサチューセッツ州の河川と同州ファルマス沖の大西洋で、1500回以上、このアレーの実験を実施した。その結果、通信距離は300メートルに達し、研究チームが以前実証した距離の15倍以上となったが、ドックの長さが足りず実験を中断せざるを得なかった。

そこで、研究チームは、この新しい水中後方散乱技術の理論的かつ実用的な通信限界を特定するため、圧電ノードのサイズや信号の入力電力などのシステムパラメーターが、水中での動作範囲に及ぼす影響を捉える解析モデルを構築した。このモデルを先の実験データで評価したところ、逆指向性音響信号の範囲を平均誤差1デシベル未満で正確に予測できることが分かった。そして、このモデルを使用して、水中の後方散乱アレーがキロメートル単位の通信距離を達成できる可能性があることを示した。

研究チームは、さらに長い通信距離を評価できるよう研究を続ける予定で、この技術の商業化に向けても動き始めているという。

fabcross for エンジニアより転載)

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