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慶應大、自動運転向けセンサーの新たな脆弱性を発見

慶應義塾大学理工学部電気情報工学科の吉岡健太郎専任講師らは2025年2月25日、カリフォルニア大学アーバイン校のアルフレッド・チェン助教授らと共同で、自動運転車両に搭載された「LiDARセンサーシステム」の新たな脆弱性を発見したと発表した。

急速に発展する自動運転技術において、車両の周囲環境を正確に把握するためのセンサー技術開発が重要となるが、中でもレーザーパルスを利用して距離や形状を把握できるLiDAR(Light Detection And Ranging:ライダー)センサーは、高精度な3D空間認識能力を持つことから、多くの自動運転システムに採用されている。

同研究チームは、このLiDARセンサーの安全性と信頼性が、自動運転車の普及における重要な課題と考え、以下の3点の課題「高速で走行する車両に対する長距離からのLiDAR攻撃の実現可能性」「最新のLiDARセンサーに搭載されている防御機構の有効性の検証」「実際の自動運転車に対するLiDAR攻撃の影響の実証」に取り組んだ。

まず、LiDARを攻撃できる装置として「MVS システム」を開発した。同システムは、IRカメラによるセンサー検出・追跡機構、高精度自動照準機構、そしてレーザー攻撃機構から構成されている。赤外線を捉えられるIRカメラを利用することで、LiDARセンサー自身が発する赤外線領域のレーザー光を正確に追跡し、110m以上離れた場所からでも車両に搭載された小さなセンサーを追跡できる。さらに、精密なサーボモーターと制御アルゴリズムにより、移動する標的に対して0.1度以下の精度で照準を合わせることが可能だという。

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このMVSシステムの評価実験として、管理された実験用コースで実車にLiDARセンサーを搭載し、走行時の攻撃性能を観測した。時速60kmで走行する車両に対して、110m離れた地点から攻撃を行ったところ、攻撃開始地点の110mから車両の制動ブレーキ距離である20mの地点までの広範囲にわたって、平均して96%の歩行者を構成するLiDAR点群データを消失させることに成功した。この高い消失率は、こうした攻撃によって自動運転システムが歩行者を見落としてしまう可能性があることを意味している。つまり、実際の交通環境でこのような攻撃が行われた場合、自動運転車が歩行者を検知できず、重大な事故につながる危険性があることを示唆するものだ。

また、最新の LiDAR センサーには「Pulse Fingerprinting」と呼ばれる防御機構が搭載されているが、防御機構が想定していない高周波(最大24MHz)で攻撃レーザーパルスを照射する「A-HFR攻撃」により、防御機構を回避できることを発見した。

そして、実際の自動運転車を用いた実証実験として、オープンソースの自動運転スタック「Autoware」を搭載した自動運転車両を使用し、管理された実験用コースで攻撃シナリオを検証した。図にある事例では、LiDARへの攻撃によってLiDAR点群を消失させ、前方の停止車両をLiDAR のデータから消去することで、自動運転車が障害物を認識できずに衝突させることが可能だと確認している。

本研究成果は、2025年2月24日~27日に開催中のセキュリティ分野のトップ国際会議「Network and Distributed System Security (NDSS) Symposium 2025」に採択され、2025 年2月21日付で論文がオンライン掲載されている。

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