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イメージ・センサ 見えないものまで見える時代に(下)
2013/12/06 11:00
真空管の一種である撮像管に代わって、1980年代半ばから半導体の技術を使って実現した固体撮像素子がイメージ・センサの主流になると、カメラの小型化が一気に加速します。いまでは、指先に乗るほどに小さくなり、携帯電話やスマートフォンにも内蔵できるようになりました。この背景には固体撮像素子の小型化が急速に進んだことがあります。
“小型化”をリードしたものとは?
1980年代から1990年代初めにかけて、固体撮像素子と呼ばれるイメージ・センサの小型化をリードしたのが、カメラ一体型VTRでした。磁気テープ方式のビデオ・レコーダーとカメラを一体にした製品です。最近のビデオ・カメラは切手大のメモリ・カードに映像を記録する方式が主流ですが、このころはカセット式ビデオ・テープが記録メディアに使われていました。
このためカメラ一体型VTRの本体は、いまよりもずっと大きく、重いものでした。この当時は、これを小さく、軽くすることが製品の付加価値につながったことからカメラ一体型VTRのメーカーは、小型軽量化にしのぎを削っていたのです。このとき焦点となったのが、構成部品の中でも特に大きかったレンズとイメージ・センサでした。
大手半導体メーカーはAV機器メーカーの要求にこたえる形でこぞって固体撮像素子の開発に注力しました。固体撮像素子を搭載したカメラ一体型VTRが一般向けに製品化されたのは、1980年代末のことです。中でも「パスポート・サイズ」をうたって1989年に登場したソニーの「CCD-TR55」は、当時としてはかなりコンパクトだったことから市場でヒット。これを契機にカメラ一体型VTRの小型軽量化競争に一気に拍車がかかりました(図1)。
この後、イメージ・センサの技術のけん引役は新しい映像機器の登場とともに代わりました。カメラ一体型VTRに続くけん引役となったのが、デジタル・カメラです。カシオが発売した液晶ディスプレイ搭載の小型デジタル・カメラ「QV-10」のヒットなどをキッカケにデジタル・カメラの市場が急成長しはじめた1990年代初めころからでした。2000年以降になると、携帯電話やスマートフォン、タブレット端末といったモバイル機器がイメージ・センサの技術をけん引する流れが生まれます。このキッカケを作ったのは2000年に日本で登場したカメラ内蔵の携帯電話でした。
高解像度と小型化を同時に追求
イメージ・センサの小型化を進めるうえで、一貫して大きな焦点となってきたのが、画質を維持したまま小型化を進める技術です。イメージ・センサの表面には、「画素」と呼ばれている光に反応する微小なセンサが縦横に並んでいます。一つの画素では点しか撮影できませんが、多数の画素を並べることで、1枚の画像が撮影できるようになります。この仕組みは、小さな点を打って1枚の絵を描く点描画と同じです。単位面積当たりの画素数が多いほど、解像度が高い高精細な画像を撮影できます。
イメージ・センサを小型にすると、レンズでとらえた画像を結像させる受光部の面積が小さくなります。このとき解像度を維持するには、受光部の面積が小さくなるのに応じて画素の面積を小さくしなければなりません。単位面積当たりの画素数を同じにするためです。
ただし、ただ画素を小さくしただけでは、特性が劣化します。例えば、それぞれの画素は、受けた光に応じた電気エネルギーを発生しますが、画素が小さくなると受ける光の量が少なくなるので、発生するエネルギーは小さくなります。これとともに光に対する感度は低下してしまいます。画素面積を小さくしてイメージ・センサの小型化を図るには、これを劣化した性能を補う技術が必要になります。実際に、製品では各画素の感度を高めるために、回路や構造など随所に様々な工夫が凝らされています。
応用の可能性が一段と拡大
イメージ・センサの小型化や高精細化、高感度化を追求する動きは、かつてに比べてスローダウンしているものの依然として続いています。この一方で、新しい方向を目指したイメージ・センサの開発も進んでいます。例えば、赤外線や紫外線など可視光以外の光に反応するイメージ・センサです。こうしたセンサを使うことで、人間の目では見えないものを可視化することができます。実際、皮膚の内側を観察できるイメージ・センサを開発し、応用の可能性を探っている企業もあります(図2)。
イメージ・センサと画像処理回路を一体化して、一段と高度な機能を備えた新しいセンサを開発する動きも始まっています。このようなセンサが実用化されれば、画像認識などを利用して、画像から特定の人やモノ、さらにその状態など様々な情報を検出して、自動的に動作するといった機能が、様々な機器に搭載されるようになるかもしれません。