3Dプリンター活用技術検定試験を受けてみた——「ひとりで楽しむ」以上を目指すための良きガイド
3Dプリンターに関する唯一の資格試験である「3Dプリンター活用技術者検定」。2017年以来、年に2回のペースで試験が開催されていますが、いったいどのような内容なのでしょうか。3Dプリンター歴6年となる筆者が、試験に挑戦したレポートをお届けします。
3Dプリンターにまつわる知識を評価する
「3Dプリンター活用技術検定試験」は、一般社団法人コンピュータ教育推進委員会(ACSP)が2017年から実施している資格試験です。
3Dプリンター活用技術検定試験公式サイトによれば、“3Dプリンターを利用するエンジニアや学生が身につけておくべき知識を評価/認定する国内唯一の検定試験制度”であり、多くの分野で必要とされる“造形方法や材料、後工程、CADデータの取り扱いなど、さまざまな基礎知識”を習得して最先端のモノづくりで活躍できる人を育てることを目的にしているとのこと。
僕は6年前、大学2年生の時に初めて3Dプリンターに触れて以来、研究室や職場で幾度となく出力を繰り返してきましたが、正しい知識を持っているか? と問われると、少し自信が持てない部分もあります。幸か不幸か、市販の機材や素材は使いやすく作られているので、あまり知識がなくてもものを作れてしまうんですよね。
とはいえ、3Dプリンター関連の情報が多いfabcrossのライターとして活動している以上、正しい知識は持っているべきでしょう。あやふやな知識を矯正する良い機会だと思い、検定試験を受けてみることにしました。
fabcrossのライター仲間であり、同じ大学の先輩/後輩でもあるこちらの2人は、過去に試験を受けて見事に合格を勝ち取っています。ひとしんしさんいわく「1問か2問間違えたくらい」だったとのことで、良い具合にプレッシャーをかけてくれました。
ライターとして、同門の後輩/先輩として、そして何よりひとりの3Dプリンターユーザーとして、“絶対に落とせない資格試験”に挑みます。なお、今回の企画はASCPとのタイアップではなく勝手にやっているだけなので、試験費用も僕の自腹となっています。頑張らないと僕が損するだけなので、その意味でもまじめに取り組まざるを得ません。
公式ガイドブックで勉強しよう
試験を受講するためには、事前に公式サイトから申し込みをする必要があります。日付を確認し、全国6カ所のうちアクセスしやすい試験場所を選んで、受講料8000円(税抜)の支払いを済ませておきましょう。
申し込みを終えたら、あとはひたすら勉強あるのみです。3Dプリンターの関連書籍は数多くありますが、試験対策には公式のガイドブックが1冊あれば十分です。
170ページという盛りだくさんのガイドブックの内容は、
- 第1章 3Dプリンターのメリット
- 第2章 3Dプリンターの仕組みとプロセス
- 第3章 3Dプリンターの活用
の3部構成。試験もこちらの内容と分類に沿って出題されます。
巻末にはサンプル問題が収録されているため、まずは力試しでいきなり挑戦してみたところ、結果は18問中14問正解。正答率8割弱というまずまずの成績ですが、自信を持って判断できない問題もあり、あまり安心できませんでした。
間違えてしまった問題は、
「Web上で3D-CGを表現するためのファイル形式」
「少数の量産のために必要な型の種類」
「粉末床溶融結合で用いられる強度と耐久性が高い素材」
といったファイル形式や量産工程、素材の特性に関するもの。一般的な材料押し出し方式の3Dプリンターを普通に使っているだけでは必要にならない知識であり、この資格試験がカバーする範囲の広さを実感することになりました。
体系的なまとめがありがたい、丁寧なガイドブック
試験日までの約1カ月をかけ、ガイドブックを使って学習を進めていきます。一般的な参考書のような練習問題や演習は巻末のサンプルしかないため、ひたすら読んで分からないところに下線を引いたり書き出したりして覚えるというスタイルで進めていきました。それぞれの章の概要を簡単にお伝えします。
第1章 3Dプリンターのメリット
第1章の冒頭では、3Dプリンターの基礎知識が解説されています。Rapid Prototypingと呼ばれていた過去や、切削加工との比較、少量多品種生産への活用など、産業においてどのような立ち位置にあるかを大まかに把握することができます。
3Dプリンターの最も基礎的なプロセスとして、サポート材を外したり後処理が必要だったりという情報も掲載されていますが、普段から3Dプリンターを利用している人であれば、当たり前すぎると感じてしまうかもしれません。
第2章 3Dプリンターの仕組みとプロセス
第2章はガイドブック内で一番ボリュームが多く、かつ有用な情報がてんこ盛りのパートでした。
3Dプリンターの造形方法は、最もメジャーな材料押出(熱溶解積層)を含め、工業規格の国際標準化団体ASTM Internationalによって以下の7つに分類されています。
- 材料押出(material extrusion)
- 液槽光重合(vat photopolymerization)
- 材料噴射(material jetting)
- 結合剤噴射(binder jetting)
- 粉末床溶融結合(powder bed fusion)
- シート積層(sheet lamination)
- 指向性エネルギー堆積(directed energy deposition)
複数の造形方法があることは知っていても、その詳細をすべて説明できる人は多くないのではないでしょうか。英語でも表記にブレがあったり、日本語の漢字表記からイメージしづらかったりするのが原因かと思います。ガイドブックでは、7つの造形方法それぞれの日英語表記と特徴が図版や写真と共にまとめられており、理解の大きな助けになりました。
また、3Dプリンターで利用できる素材についても、他に類を見ないほど包括的に紹介されています。個人利用では選択肢に入りづらい、エンジニアリングプラスチックなどの特性を学ぶことで、実務での利用にも役立てることができそうです。各印刷方式に合わせた素材を網羅的に記載し、応用先まで言及している内容はたいへん読み応えがありました(その分、試験に向けて覚えるのも大変だったのですが……)。
第3章 3Dプリンターの活用
第3章では3Dプリンターの活用事例やプリントを外注する際の注意などがまとめられています。企業内のラピッドプロトタイピングや文化財保護などの活用事例が取り上げられていますが、2016年5月に発行された書籍であるため、少し古い印象を受けました。最新の活用事例を知りたいのであれば、どうしてもインターネットに軍配が上がりそうです。
いざ試験、そして合否やいかに
さて、ついに試験日がやってきました。東京会場は東京タワー隣の機械振興会館。僕が申し込んだタイミングでは会場が確定していなかったので、試験の前後に予定を入れる場合には余裕を持っていたほうが良いかもしれません。
こちらの会場では80人ほどが受験していました。30~40台の男性を中心に、学生や女性の姿も見受けられました。3Dプリンターのユーザーというよりは、業務で必要になった/必要になる人が多く受験しているような印象を受けました。
試験に必要なものは、受験票と筆記用具。そして確認用の証明写真も忘れずに。僕のように当日の朝にあわてて最寄り駅の証明写真機に駆け込む、なんてことがないようにしましょうね。
試験形式は全問マークシート形式で、真偽方式24問+多肢選択36問の合計60問となっています。ガイドブックの内容に準拠し、3Dプリンターのメリット、3Dプリンターの仕組みとプロセス、3Dプリンターの活用の3分野から出題されます。選択式ということもあり、複雑な思考を要求されるような問題はなく、ガイドブック全体から満遍なく知識を問うような内容でした。
試験時間には結構ゆとりがあり、僕の場合はゆっくりと全体を2周したところで終了となりました。自分で体験したことのない方式や量産の部分はやはり苦手で、自信を持って答えられない問題があったのが心残りでした。
結果発表にドキドキ&モヤモヤ
結果の発表は試験からおよそ1カ月後に、Webサイトで発表されます。一人で見るのは心もとないので、fabcrossの編集会議で一緒に見ることにしました。
終わってみれば、総合98.3%の高得点! ノー勉強で挑んだサンプル問題から格段に得点率がアップし、勉強の成果があったなぁとうれしい気持ちになりました。これで胸を張って今後もライター活動に精が出せるというものです。
こうして無事に試験に合格できたわけですが、ここまでくると失点した場所がどこなのかが気になります。試験では問題用紙を持ち帰ることができず、解答も発表されないため、正解不正解の振り返りをすることができません。偶然で正答していたパターンもあるでしょうし、間違った知識を修正しづらいというモヤモヤ感が気になりました。
活用試験に向いている人、向いていない人
情報の新しさや正誤の確認ができないことなど、多少スッキリしない部分はありますが、体系的な知識をまとめて学ぶ良い機会となりました。ガイドブックの網羅性が高いので、辞書のように手元に置いておくだけでも価値があるといえます。試験の内容が気になる方は、先にガイドブックだけ注文してみるのもオススメです。
最後に、僕が思うこの試験に向いている人、そうでない人を紹介します。
向いている人
- ファブ施設の運営者など、3Dプリンターについて他者に教える機会のある人
- 業務で3Dプリンターを使う予定がある人
繰り返しになりますが、日本語でここまで網羅的に3Dプリンターの種類や素材をまとめた資料は貴重です。個人での利用を超え、人に指導したり、業務レベルで3Dプリンターを活用したりする機会のある人であれば、試験を通じてこれらの知識を学んでおくことは大きな価値を持つでしょう。
向いていない人
- 3Dプリンターを一度も触ったことがない人
3Dプリンターを使って何ができるか/どのように使うべきかといった情報は、まずは自分で体感して学ぶことをお勧めします。その実感がないまま試験を受けようとしても、資料の中の画像や図版が無味乾燥な情報の羅列に見え、つらい道のりになってしまうでしょう。また、普段どれだけ3Dプリンターを使っているかが、試験の結果にも大きく反映されます。
なお、3Dプリンター活用技術検定試験は2019年度の開催も決定しており、8月6日まで前期試験(試験日は2019年9月8日)の申し込みを受け付けています。これからも長く3Dプリンターと付き合う予定のある方は、公式サイトから詳細をチェックしてみてください。