2020年電子工作部品売上ベスト100ランキング
スイッチサイエンス2020年のヒット商品トレンド分析と2021年の注目
激動の年となった2020年。Makerや電子部品業界にはどのような変化が起きたのか? 2019年に引き続いて、今年も電子工作関連の部品を扱うスイッチサイエンスにリモート取材を行い、2020年売上ベスト100商品の分析、そして2021年の注目商品について担当の安井良允氏と牧井佑樹氏に話を伺った。(取材日:11月25日)
AIに特化したNVIDIA Jetsonは安定の強さ
——まず、2020年のランキング上位からトレンド商品を教えていただけますか
-
安井氏
-
「1位の『NVIDIA Jetson AGX Xavier 開発者キット』、そして2位の『Jetson Xavier NX 開発者キット』は、画像認識、AI、ディープラーニングに特化したシングルボードコンピューターです。単価はそれぞれ96800円(税込)、50490円(税込)と高いので、ホビーユースというよりも法人のニーズに応えた製品です」
-
牧井氏
-
「18位『Jetson Nano 開発者キット』は2019年の1位から大きくランクダウンしているように見えますが、これは19位にランクインした後継機の『Jetson Nano 開発者キット B01』に年度途中で切り替わったためです。この2機種を合わせると7位程度に上がります。やはりJetsonは強いですね」
快進撃のM5Stack、次世代モデルもランクイン
-
牧井氏
-
「3位は『M5Stack Basic』。ついにArduinoを越えました。2020年はM5Stackが特別伸びた年ですね。既存の製品も軒並み売れており、2021年もこの勢いは続くと思われます。種類も多く、新製品はどんどん出てくるのですが、ドキュメントなどの整備が追いついていない状態です」
-
安井氏
-
「47位『M5Stack Core2 IoT開発キット』は9月に販売開始したものですが、わずか2カ月で3位にランクインしました。このモデルからタッチパネルディスプレイになり、今までのボタン式とインターフェースが大きく変わりました、まずはこれまでのファンが買った感じですね。」
-
牧井氏
-
「まったく別物になりましたね。M5は常に新しいものに挑戦していますね。11月に発売した『M5Paper』は電子ペーパーディスプレイを搭載しているため、Kindleみたいです。スマホと勘違いするようなデバイスでした。どんどん新しいものを出してきて止まれないようです(笑)」
-
安井氏
-
「20位の『M5StickV』も、3500円でカメラとディスプレイが付いて画像認識ができるというとんでもない製品ですね」
-
安井氏
-
「M5拡張キットである、44位の『ATOM Matrix』と67位の『ATOM Lite』は安いですね。ATOM Liteはインターネットにつながる小さな作品を作れるマイコンボードです。しかもプラスチックのケースが付いて税込で1000円を切るは驚愕です」
ランクダウンしたIntel、リピーターの少ない深度カメラ
-
牧井氏
-
「4位の『Intel RealSense Depth Camera D435i』は、2019年の2位に続いて上位にいますが数量ベースで見ると実はダウンしています。Intel系は右肩下がりの印象がありますね」
-
牧井氏
-
「15位の『Intel RealSense Depth Camera D435』もランクダウンしており、2019年ほどの勢いはなくなっています。D435は息の長い機種で、これが出た2018年はKinectが終わって代替の深度カメラに飢えていたので一気に人気が出ました。16位の『Intel RealSense LiDAR Camera L515』も思ったより上に来なかったですね。値段も約5万円で、個人向けには若干高かったかもしれません。」
-
安井氏
-
「25位の『Intel RealSense Tracking Camera T265』も順位は落ちていますね。リピーターが続かないようです。ArduinoやM5Stack、micro:bitなどのマイコンボードは何度も買われますが、深度カメラは一度買うと満足して終わってしまいます」
-
牧井氏
-
「エッジが強くなったのもランクが下がった理由のひとつかなと思っています。深度カメラはカメラの中で処理をして情報を出しますが、例えばエッジにあたるJetsonにカメラをつなぐことで、用途によっては同じことができます。画像処理についての選択の幅が広くなったことが影響したようです」
-
安井氏
-
「カメラだけあってもパソコンがないと使えないので、パソコン+RealSenseよりもJetson+カメラモジュールの方が、小回りが利く可能性があります」
-
牧井氏
-
「2位のJetson NX開発者キットはまさにそれを狙った製品で、小型化と性能が両立しているのでこれがRealSenseのニーズを食った印象がありますね」
減少傾向とはいえ売れ続けるArduino Uno
-
安井氏
-
「5位の『Arduino Uno R3』はランクダウンしたとはいえ、依然として売れているのが分かります。シリーズは2010年から出ているので、8ビットのマイコンボードでいまだに売れ続けているのはすごいことですね」
-
牧井氏
-
「Arduinoは新製品を出してはいますが、工事設計認証(いわゆる技適)を取得しておらず日本に入ってきていません。現行のArduino Unoの出荷数は減少傾向にあります。教育現場の先生方が今後も教材として使用するかというと、だんだん変わってきていると思います。しかし、88位『Arduino イーサネットシールド2』は去年よりも伸びています。これは驚きです」
-
安井氏
-
「8ビットのArduino Unoに追加して、イーサネットにつないで使いたい人がまだまだいるということですね」
-
牧井氏
-
「また、Arduino制御のロボット『Rapiro』(Rasberry Piも搭載可能)も49位にいます。スイッチサイエンス独占販売商品で2014年にリリースしたのですが、いまだにビジネスフェアなどの企業展示でよく見かけます。ずっと売れ続けていますね」
micro:bitは学校現場で安定した売れ行き
-
牧井氏
-
「7位の『micro:bit(マイクロビット)』、および8位の『micro:bitをはじめようキット』は、単価が安く教育用として大学、高専、小中学校に数百という単位で売れています。個人で買われているのは2~3割くらいですね」
-
安井氏
-
「プログラミング教育用の教材はすぐに買い替えることはせず、5年くらいのスパンで替えるので、長く売れ続けるのが特徴です。そういった目で見るとArduino Unoが売れ続けている理由のひとつもそこにありますね。micro:bitもロングセラーになる可能性がありそうです。micro:bitは新型のバージョン2.0が出ましたが、2021年度以降に置き換えが進むのかどうかが気になります」
-
牧井氏
-
「教育向けに関しては具体的な教材がないと売れないので、micro:bitも教育向けの商品がどれだけ頑張るか次第で売り上げが変わっていくでしょうね。」
需要予測を超えたMESH
——MESHも教育用ですが、どんな状況でしょうか?
-
牧井氏
-
「13位の『MESHひらめきラボセット』が順位を落としている原因は、2020年の8月ころから供給が追いつかず在庫がないためです。32位の『MESH GPIOブロック』、36位の『MESH Motion(人感)ブロック』、37位『MESH Brightness(明るさ)ブロック』は軒並み順位を上げていますね。38位『MESH アドバンスセット[Bundle 7]』はひらめきラボと同じく在庫がないので順位が落ちてはいますが、小学校理科の教科書で採用されたこともあって単品のブロックは好調です。新型コロナの影響で4、5月に売れ行きが鈍ったのですが、少し緩んだ途端に注文が爆発したようです」
-
安井氏
-
「予測をはるかに超える需要で在庫が足りなくなり嬉しい悲鳴となったようですね。MESHは単品で7000円前後なので、学校で何年も使う前提で買われるようです」
個性的な製品もランクイン
-
安井氏
-
「80位以下くらいからは特需品などいろいろありますね。グラフィックボードのないパソコンでもAI処理ができる87位『Coral USB Accelerator』や、キーを好きな位置に設定できる98位『DUMANG DK6 Ergo メカニカルキーボード 76キー』がランクインしています」
Raspberry Piが3から4に変わった2020年。Zero Wはコロナの影響で在庫切れに
-
安井氏
-
「2020年は9位に『Raspberry Pi 4 Model B / 4GB(Element14製)』が入ったことで、Raspberry Piの主力が3から4に移った、というのがすごく分かりやすい年でした」
-
牧井氏
-
「95位『Raspberry Pi Zero W』はランクダウンしていますが、人気がなくなったというわけではなく半年くらい在庫切れだったためです。新型コロナの影響で医療用に使われていたようです」
-
安井氏
-
「新型コロナにより、安価なコンピューターとしてRaspberry Piを使いたいという需要が出てきて、そこから半年くらいなかなか入ってこなかったですね。」
温度センサー類は新型コロナ需要
-
牧井氏
-
「31位『Conta™ サーモグラフィー AMG8833搭載』はまさに新型コロナ需要ですね。一時期はセンサー(AMG8833)が入手できなかったため在庫がなくなっていました。本来ならもっと上位に入っていたはずです」
-
安井氏
-
「やはり新型コロナ需要で、離れた位置から温度を測るカメラモジュール系は売り上げが伸びています。M5の拡張センサーも売れていました。ただ春先にコロナで中国からの調達が難しくなり、今でも入手困難ですね」
新型コロナの影響が特に大きかった仕入れ先は中国よりも欧米
-
牧井氏
-
「新型コロナで全く動けなかった仕入れ先があります。例えばAdafruitという会社はニューヨークにあり、しばらく発送もできない状況になってしまいました」
-
安井氏
-
「ニューヨークが一番ダメージを受けていますね。逆に中国は2~3月には全ストップでしたが、春先に再開しました。そのため現在はM5Stackなども物流の影響はあまり受けていないですね」
-
牧井氏
-
「逆にロックダウンしていたのによく踏ん張ってくれたと思うのはArduinoですね。製造はヨーロッパで特にダメージを受けていたイタリアの会社ですけれど、その中でも頑張って輸出してくれました。真摯な対応に感謝です」
-
安井氏
-
「そういえば夏以降は取引先とのオンラインミーティングが増えてより今まで以上に仕入れ先と仲良くなりましたね。しかし今年は深センに行けなかったため中国方面の開拓など新しいことができませんでした」
2021年の動向:Jetson/M5Stackの勢いは続く。micro:bit v2/Raspberry Pi 400に期待
-
牧井氏
-
「今年はコロナにより、トレンドの変化は訪れにくい1年でしたね。この傾向は来年も続くのではないかと思っています。一方でAIで状況を打破しようという動きも続きそうです。NVIDIAのJetson、勢いのあるM5Stackはこのまま伸びていくだろうなと。その上でArduinoやmbedがどこまで対抗できるのかが要注意ですね。それから11月に発売したmicro:bit v2がどのくらい伸びるか楽しみです」
-
安井氏
-
「新製品だとキーボードと筐体が一体となったRaspberry Pi 400にも期待しています。個人的にも大好きです(笑)触ってみると分かりますが、キーボードに全部収まっているのがいいですね。筐体で基板が隠れたRaspberry Pi 400は今までと違ったユーザーが使ってくれるのではないかと期待しています。キーボードの対応が日本モデルになるのかなどまだ分からないことだらけですが、これまでのRaspberry Piとは違う売り方ができるので要注目です」
2020年は売上ベスト100位以内の商品から、業界のトレンドや来年の動向に至るまでおふたりに語っていただいた。プログラミング教育の要となり、IoTやAIなど世界の最先端技術を取り込みながら成長していく電子部品業界。2021年も目が離せない。