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コロナ禍でハードウェアの首都深圳に起きた変化を追う

深圳の環境変化に対応するハードウェアスタートアップ

新亜洲国利大厦(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影)

現在、中国の半導体不足や政府による規制などのニュースが海を越えて日本でもたびたび報道されている。外国人の自由な往来が依然として厳しい中にあって、中国・深圳の現地に残っている日本のスタートアップの目には今どのような光景が映っているのだろうか。

華強北(深圳市福田区にある世界最大の電気街)のガイドブックを2017年に自ら出版し、コロナ禍の現在も数少ない現地在住日本人ハードウェアスタートアップとしてIoT製品の開発を続けているIdeaport Gr.代表の鈴木陽介さんの話を基にレポートをお届けする。

鈴木陽介氏プロフィール

Ideaport Gr. 創業者 CEO。
日本で製造やIT関係の仕事の経験を積んだ後、2011年に当時勤めていた会社の駐在員として中国に赴任。
2013年5月に香港に法人を設立して起業した後も広東省で仕事を続け、2015年から深圳在住。現在は香港と深圳の法人を活用し、電子製品関連のビジネスに携わる。
主な事業及びブランドは、ビジネスサポートの「Ideaport」、ハードウェア開発の「Ideagear」、プロダクトデザインコンサルの「TERASU」の3つ。

Ideaport 公式サイト
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華強北の変遷

深圳の華強北を拠点とする卸業者にとって、ここ数年は激動の時代であった。値札なしで交渉する卸中心から、商品に価格が表示されているこぎれいな電子製品小売りブランドへ業態転換を図った店舗が爆発的に増加していった。

元々は工場地帯だった華強北は問屋街へ変わり、問屋街から若者や家族連れが集まる小売のショッピング街へと変わった。HUAWEIやシャオミなど、ブランド価値を高めるために自社のフラッグシップショップを華強北に構えるメーカーが増えた一方で、外国人バイヤー向け両替屋は新型コロナの影響もあり大半が廃業。ECへのシフトも相まって問屋街は業態転換が進んでいる。

華強北発祥小売ブランドの代表格「REMAX」店舗外観(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影) 華強北発祥小売ブランドの代表格「REMAX」店舗外観(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影)

部品・半導体調達の遅れやその影響について

2018年頃に端を発した米中貿易摩擦によってアメリカ向けの輸出が減り、過当競争となった半導体が値崩れを起こしたためICチップの転売業者は撤退を余儀なくされた。その後の新型コロナ発生により、新しいジャンルへの挑戦として化粧品や食品などを扱う問屋業に鞍替えする業者が相次いだ。

2020年になると、多くの半導体メーカーは上記の理由に加えてコロナショックによる需要減を見越して半導体生産を大きく減らした。しかし、その予想は大きく外れ、世界中でリモートワークやオンライン授業への切り替えによるICT特需が発生。家電の巣ごもり需要や自動車市場の回復など他の要素も相まって半導体価格は高騰し、現在まで続いている。マイコンの一種であるSTM8S系を例に挙げると、コロナ前の2019年には2〜3元/個だったものが、2021年5~6月になると20元/個に跳ね上がった。2021年9月現在は8元/個に落ち着き始めている。巣ごもり需要で電子業界自体の景気は良いものの、ここまでの価格変動があるとプロトタイプ開発を行うスタートアップへの影響が気になる。

新亜洲電子商城内の一店舗(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影) 新亜洲電子商城内の一店舗(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影)

ハードウェアスタートアップにとって、プロトタイプレベルではほとんど影響はないものの、量産段階になると部品調達で影響が出てきている。

仮に半導体の値段が倍になったとしても、ハードウェアスタートアップの試作品で用いるチップは数個〜10個程度であり、小ロット生産もせいぜい500個以内であればそれほどの影響はない。というのも、小ロット生産品の開発では人件費や金型制作費が占める割合が高く、部品の占める割合は高くない。半導体の値段が仮に倍になったとしても、部品全体の中で1つ2つの部品代が値上がりするくらいなら影響は少ないと鈴木さんは指摘する。それに、そもそもプロトタイプにおいて使われている開発向けのマイコンボード(ArduinoやESP32など)については、半導体不足の影響はまだ見られない。最も大きな影響は納期である。

当初は45日の納期で設定されていたものが90日に変更され、ものによっては180日になることもある。例えば製品開発に使用する、とあるディスプレイボードでは、元々の納期は30日未満だったのが、現在の納期は60日となり、今後はもっと延びるかもしれないと鈴木さんは業者から通達されたそうだ。

各パーツそれぞれの納期が大幅にずれこんでしまうと、量産を計画通りに進めるのは非常に難しくなってしまう。これはスタートアップにとどまらない。深圳で機器開発を行なっているある日系大手企業では、サイリスターやダイオードなどが不足しており、急きょ代替品に切り替えるといった対応を行っている。

現在、深圳に来ることのできない会社は現地在住者に頼らざるを得ない状態が続いている。そのため鈴木さんの会社にも、日本の企業から特定の型番のチップを探してほしいと頼まれたこともあったという。半導体を手に入れてビジネスをしないかと話を持ちかけてくる深圳・東莞の会社も見受けられるという。

華強北電子世界内の一店舗(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影) 華強北電子世界内の一店舗(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影)

スタートアップには工夫が求められる

人的リソースが限られるスタートアップでは、発注のタイミングなどを顧客にヒアリングしたうえで、複数の案件で開発と量産が重ならないようにコントロールするなどして、半導体の納期が3倍に延びたとしても資金繰りが行き詰まるということが発生しないよう工夫をしているようだ。

2022年になれば半導体不足の懸念は解消され価格も落ち着くと期待する向きはあるが、一方でコロナのように長期化したり逆に供給過多となる可能性もあるため、絶えずビジネスを見直していく必要がある。

これは半導体のみならず、さまざまな部材についても同じことが言えるようだ。例えば、光ファイバーケーブルを仕入れていたメーカーは材料費高騰で倒産。中国各都市の地下鉄工事ラッシュによる需要に加えて、来たる北京五輪の需要を見越せなかったのが要因だといわれている。

2018年で温度感が変わった

深圳の成長のピークは2018年だったと鈴木さんは指摘する。

中国共産党は2018年を改革開放40周年と位置づけ、あらゆる分野において「深圳スピード」が見られていた。

例えば、2018年中に深圳市内の公共のバスとタクシーは完全にEVに切り替わり、キャッシュレス決済の浸透、自転車やバッテリー、また配車サービスに代表されるシェアビジネスの急拡大、曲げられるディスプレイ、脳波で動かすドローン、2秒で終わる全身3Dスキャンなど、変化とワクワク感に満ちあふれていたのは筆者の記憶にも新しい。

2021年現在も、夜空にドローンで映画を空中投影するなどさまざまな技術革新は各分野で進んでいるものの、年々上昇していた深圳市のフルタイム労働者最低賃金は2200元/月(深圳市政府発表。約3万8900円/月)となっており、2018年から2021年現在に至るまで据え置かれている。鈴木さんによれば、現地では2023年まで最低賃金は据え置かれる話も聞かれているという。

政府の進めているEV車購入の補助金もほぼなくなり、右肩上がりの不動産バブルも政府の規制により転換点を迎え、全体的にひと段落した。

華強北歩行街(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影) 華強北歩行街(2021/9/27 鈴木陽介さん撮影)

コロナ禍における営業方法

「新型コロナ発生から2年近く経ち、世の中にテレワークが普及したのは間違いありませんが、こと『営業』に関して言えば、やはり対面に勝るものはありません」と、鈴木さんは語る。

深圳ではすべてがオンラインのイメージを持つ人もいると思うが、実態はそうでもない。鈴木さんの会社ではオンライン経由の紹介で仕事につながるのは1割ほどで、基本は展示会や企業訪問などの対面によるオフラインでの新規顧客開拓だったという。コロナ禍によるオンライン中心の環境下においては既存顧客をキープし続けている印象がある、と鈴木さんは指摘する。

鈴木さんは以前に行っていた通訳やアテンド、視察やイベントの企画といった仕事はコロナでほぼ無くなってしまったものの、その時に知り合った顧客から開発の依頼を受けるケースが見受けられる。

「コロナ後に開拓できた新規顧客は、コロナ前に面識があった方がほとんどです。相手からすれば、現在のような状況で全く面識のない人に仕事を頼むのはリスキーで、少しでも相手方の企業や人の情報が把握できていたほうが発注しやすいという心理が強く働いているように思います」

現在、中国ではコロナの状況が比較的落ち着いているものの、一部の会社はコロナが完全に収まるまで外部からの訪問を拒否したり、訪問可であっても手続きを難しくしている。たとえば工業団地の中で陽性者が出ると、その工場のみならず工業団地全体が閉鎖になってしまうため、補償問題に発展するなどのリスクを抱えることになるからだ。

オフライン中心だった事業者は、対面のチャンスが減っている現在の状況下でこれまで以上に既存顧客を大事にし、既存顧客からの新規開拓に注力している。

これは発注者側にも同じように当てはまるそうだ。海外の発注者からすれば、自分自身が深圳に行けない以上現地の協力者の存在は貴重ではあるものの、簡単で金額の小さい案件は別として、数百〜数千万の金額が動く案件を会ったこともない無名の企業に依頼するのはためらってしまうだろう。

対面のチャンスが少ない今、それが相手にとって専門外の案件であっても以前からつながっている業者に仕事を依頼したいと考える発注者は多い。そのため、コロナ前からまっとうにビジネスをしていた業者は、コロナ後も顧客を確保できているという。

コロナや半導体調達不足など予期しない出来事の続くこの業界で、多少のアクシデントがあっても臨機応変に対応できるような体制を整えることや、常日頃から顧客との信頼関係を構築していくといった要素は、深圳のハードウェアスタートアップにも共通することで、このようなときほど地に足をつけた地道な取り組みが大切なのである。

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