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新登場! 産業向けラズパイ4搭載、タッチパネル付き「reTerminal」と、IoT向けマイコン/プロセッサーの選び方

ソラコムはIoTを軸に未来を創る技術を学ぶ開発者イベント「SORACOM Tech Days 2021」を2021年11月16日、17日の2日にわたって開催しました。

「定番から最新まで『徹底解説 IoT 向けマイコン&コンピューター』」のセッションでは、Seeedの開発者 松岡貴志氏と、私ソラコムのテクノロジーエバンジェリスト 松下享平が、IoTデバイスの構成要素やマイコンとプロセッサーの選び方、Raspberry Pi Compute Module 4が搭載された新製品「reTerminal」について紹介しました。

本記事ではレポート形式でその内容をご紹介します。

IoTデバイスの3つの構成要素

Seeedの松岡氏は、IoTデバイスの選び方について解説しました。Seeedは、部品として使える汎用的な基板の提供から量産までトータルにサポートし、IoTデバイスにおいても豊富な実績を持つ、中国・深圳のハードウェアメーカーです。Arduino互換デバイスの「Seeeduino」や、はんだ付けなしで利用できるセンサーユニット「Grove」シリーズなどは、日本でもオンラインショップなどで手軽に入手できます。

松岡氏は、大きく3つの要素に分けてIoTデバイスを解説しました。まず、コンピューターの処理を行う「マイコン/プロセッサー」、物理的なモノを調査したりデータを取ったりするための「物理アクセス」、そのデータをクラウドに蓄積し、分析するための通信「コネクティビティ」です。

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「物理アクセス」は、データを取るための入り口です。物理アクセスには2種類あります。まず「センサー」は、温度や距離、人の感覚では把握できないガスの濃度など、状況をデータとして計測します。「アクチュエーター」は機械的な動作を伴う部品で、モーターなどのモノを動かすのに必要な機構です。

「マイコン/プロセッサー」は、「物理アクセス」と後述の「コネクティビティ」に対して、入出力処理の指示を行います。

「コネクティビティ」は、有線LAN、Wi-Fi、セルラー、BLEなどの通信規格に対応したモジュールです。

最近は、IoTが一般的になり、マイコンと通信がワンパッケージになっているハードウェアも増えてきました。コネクティビティの種類は、屋外なのか屋内なのか、既存のネットワーク環境の利用可否、移動体で使うのか固定して使うのかなど、用途に合わせて最適なものを選びます。

マイコンとプロセッサーの仕様の違い

次に、松岡氏はマイコンとプロセッサーの違いを解説しました。ここでは、Seeedの代表的なマイコン「Wio LTE」と、利用者が多いプロセッサー「Raspberry Pi」、Raspberry Pi 4を搭載する新製品「reTerminal」を比較しています。

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マイコンはセンサーなどの「物理アクセス」を接続するインターフェースを数多く持っており、それらを制御するプログラムを格納、実行するためのフラッシュメモリーとRAMが1つにパッケージされたものです。構成要素が少なくシンプルであることから、安価かつ壊れにくいというメリットがありますが、後述するプロセッサーと比較すると、処理性能や機能が限定的です。

プロセッサーもマイコンと同様に「物理アクセス」に対するインターフェースがあります。LinuxやWindowsといった汎用OS上で、Pythonなど生産性の高いプログラム言語による開発ができるように、パソコンでも用いられるIntelやArmのCPUを使用しています。マイコンと比較して高性能で多目的に利用できますが、ストレージやRAMが構造的に分離しており、例えばストレージにはmicroSDを別に用意するといった手間や、安定的に動作させるためのノウハウが求められます。

マイコン/プロセッサー、選択するときのポイント<仕様編>

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「とりあえず安価に手に入るマイコンを使いたいと思われる方が多いかもしれない」と松岡氏は前置きし、マイコンに向いていることと不向きなことを解説しました。

例として、ガス濃度をセンサーを使って1時間間隔で計測し、その情報をSORACOMのセルラー通信を用いて送信するケースを考えます。

センサーという「物理アクセス」でガス濃度のデータを取得して、「マイコン」でそのデータを「コネクティビティ」を使ってクラウドに送信するケース、これは問題なく動きます。このように、処理の流れが1本だけのものはマイコンに向いています。

しかし実業務では、「データを1時間間隔で送信しているが、データ通信に時間がかかるなどの理由で、データ送信の処理を継続しながら新たにデータを取得し、一時的にストレージにデータを蓄積して次のデータ送信に備える処理をする」という複数の処理を同時に行いたい場面が発生します。このような「マルチスレッド処理」はOSを利用することで実現できますが、OSのないマイコンには不向きです。

マイコンでも軽量な組み込み専用OSのRTOSを用いることでマルチスレッド処理が実現できますが、いわゆるWindowsやmacOS、Linuxとは異なり、専門の知識が求められます。

マイコン/プロセッサー、選択するときのポイント<開発編>

IoTシステムの開発では、概念実証(Proof of Concept、PoC)や試作に取り組み、得られた結果をもとに量産するという大きな開発の流れがあります。しかし、「試作といっても2種類ある」と松岡氏は述べます。

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図の左側は、どんなことにIoTやデータを活用できるのか、そのニーズがあるのか、考えているようなデータ活用が可能なのかを実際に試して検証するPoC(概念実証、Proof of Concept)のフェーズです。いくつかのビジネスアイデアをベースに、動くシステムをスピーディに作って検証していきます。何が有効なのかの「実験」であるため、仕様は明確に決まっていません。このフェーズの試作は、使い慣れたプログラミング言語で開発でき、拡張性の高い「プロセッサー」の選択が有効です。

一方、図の右側は、製品化したいもの、ゴールが確定しており、開発コストや期間の観点を踏まえ、技術の視点から試作を行うフェーズです。このフェーズでは、「マイコン」を選択することが有効です。複数のマイコンを試し、製品化を踏まえて問題が起こらないための方法を実験することになります。

このようにはっきりと区別できないケースもありますが、このステップがあることを頭に思い浮かべて進めることで、デバイス選択の指針になります。

Raspberry Pi 4搭載のタッチパネル・ケース付き端末「reTerminal」

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最近は、IoTデバイスの設置場面も多様化し、基板そのものではなく、ケースに入った製品も増えてきています。その背景には、これまではIoTデバイス開発は、エレクトロニクスやプログラミングに精通したその道のプロの方の仕事でしたが、今やIoTは電気などの専門知識がない方も取り組む分野になっていることがあります。

そんな「さっと開発して現場に設置できる」デバイスとしてSeeedが開発したのが、工業用IoT端末ハードウェア「reTerminal」です。

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物理アクセスはGPIO、OSはLinuxが使え、Wi-Fi と BLE といったワイヤレス通信と有線 LAN ポートを備えており、USB型の通信モジュールを使えばセルラー通信にも対応します。産業用にも使われるRaspberry Pi Compute Module 4の中でもRAM 4GBのモデルを採用、加えてeMMC 32GBを搭載することでmicroSD などの外部ストレージなしでも動作します。

見た目からも分かる違いとして、前面に搭載されたタッチパネルが目に付きます。これでデータの表示や操作が可能です。また、ケースと固定用ナットが付いているほか、ヒートシンクが標準搭載されているため、多様な設置場所に対応可能でケース開発の手間がかかりません。

そして、ラズパイの豊富な開発ドキュメントやソフトウェアが使える点も、スピーディな開発に役立ちます。

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IoTデバイス開発におけるマイコン/プロセッサーの選び方まとめ

その後、私がセッションを引き継ぎ、IoTデバイスにおけるマイコンとプロセッサーの選択の仕方について改めてまとめさせていただきました。

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マイコンとプロセッサーは、どちらもIoT向けのインターフェースが豊富で、センサーの取り付けに便利です。加えて、通信を利用してクラウドと連携することによりIoTデバイスとして開発することができます。

一方で、利用のゴールに違いがあります。上の図の左手「マイコン」は、IoTシステムのゴールが明確になっており、必要な仕様を逆算できるときに向いています。技術的な問題が起きないよう運用フェーズを踏まえて検証を行い、結果として余分な機能をそぎ落とすことにつながります。

上の図の右手「プロセッサー」は、もっと前の段階、ゴールが見えない中で、ビジネスアイデアを実際に動くシステムを作って確かめていくときに向いています。ゴールがまだ見えていない中で、制約のあるデバイスを使うのはリスクが高いからです。また、柔軟にシステムを変えながらいくつもの仮説を検証するには、結果を出すスピードが重要です。使い慣れたソフトウェアで試せることは大きな選択理由になります。

IoTの事例とノウハウを学ぶ SORACOM TECH Days2021レポートサイト

本イベント、セッションでは、レポートサイトにて当日の資料と動画を公開しています。シェアリングサイクル、家庭用ロボット、AIカメラソリューション開発の裏側や、IoTシステム構築で押さえておくべきポイントをご紹介していますので、ぜひご覧ください。

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