スイッチサイエンス年間売上ランキングベスト100に見る 2022年電子部品ヒット商品のトレンド
コロナ禍の影響、大国による軍事侵攻など、不安定な社会情勢の中で幕を開けた2022年は、エネルギーの高騰や円安も発生し、日本経済にとって激動の1年だった。電子部品業界も影響は避けられず、厳しい1年ではあったが、明るい兆しも垣間見えた。スイッチサイエンスの販売担当・安井良允氏に、同社の2022年年間売上ランキングベスト100を見ながらトレンドを語ってもらった。
売上ランキングの集計期間は、2021年11月〜2022年10月。単価×出荷数でランキングしている。単価は、2022年11月現在の希望小売価格。後述するように価格改定があったが、最新の価格をもとにランキングしている。
価格改定が相次ぐ1年
——2022年の全般的な特徴についてお話しください。
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安井氏
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2021年度から続く部品の供給不足が影響して、各商品の価格改定が続いた1年でした。スイッチサイエンスでも4月、7月、11月と3回も見直しをせざるを得ない状況でした。ただ、去年と違うのは、不足部品が半導体関係から、コネクター類などの周辺部品に移りつつある点です。いずれにせよ、不足の状態に変わりはありません。これに加えて、円安が大きかったです。ほぼ全ての商品に影響が出ているのではないでしょうか? たとえ国産品でも、部品等は海外から仕入れるケースがほとんどですから。
今年も続くM5Stackの快進撃
——ランキングのベスト3はM5Stackシリーズが占めました。
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安井氏
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1位が「M5Stack Basic V2.6」、2位が「M5Stack Core2 IoT開発キット」、3位が「M5StickC Plus」とベスト3独占です。価格改定の結果かもしれませんが、それがなかったとしても、いずれもベスト10の上位には来たであろう商品です。他にも18位「M5Stack Core2 for AWS - ESP32 IoT開発キット」、21位「ATOM Lite」、23位「M5Stack FIRE IoT開発キット(PSRAM) V2.6」、26位「ATOM Matrix」とランクインしていて、商品群として考えても非常によく売れました。
——好調の要因は何でしょう?
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安井氏
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M5Stackは、いろいろな層へ向け、手堅くニーズを拾って商品開発している印象です。SNSなどを通し、開発段階からユーザーに情報を発信しています。この段階ではコピーを恐れて出さないのが普通ですが。さらに、有用な意見があればすぐ採用し、反映させることに積極的です。しかも開発スピードが速くて他社はなかなか追いつけない。このスタンスを取り続けているところが強みかなと思います。
AI関連の商品開発は今年も堅調
——続く4位には「Jetson AGX Orin 開発者キット」がランクインしています。
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安井氏
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昨年の記事でも2位に「Jetson AGX Xavier 開発者キット」が入っていましたが、「Orin」はその後継機ですね。AI関連の製品開発などに使うボードで、ビジネスユースが主ですね。企業の製品開発部、大学や研究機関などが、メインのユーザーになります。ただ4位というのは30万を超える価格にもあると思います。このランキングは、高額商品が上位にランクされやすい傾向もあるので。それでもこのランクは商品として人気が高い証でもありますね。
——AI関連の商品開発は今年も活発ということなんでしょうか?
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安井氏
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そうだと思います。画像認識に使うカメラ関係もよく出ましたから。12位「OAK-D OpenCV DepthAIカメラ」、13位「Intel RealSense Depth Camera D455」、15位「Intel RealSense Depth Camera D435i」などが、上位にランクされています。車やドローンなどの移動体にカメラを付けてAIで解析する商品もさかんに開発されており、そういった傾向も反映しているようです。同じ流れで、16位「Qwiic - ZED-F9P搭載 GPS-RTK-SMAモジュール」、41位「ZED-F9P搭載GPS-RTKピッチ変換基板」など、移動体用のGPS関連モジュールも上位にランクされています。
ロボットアームが上位に進出
——昨年、注目商品に挙げていた「myCobotロボットアーム」シリーズが5位にランクインしましたね。
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安井氏
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5位に「myCobot 280 Pi-ロボットアーム」が入っただけでなく、6位「myCobot 280 M5-ロボットアーム」、29位「myCobot 320 M5(Pro)-ロボットアーム」(現在は販売終了)、32位「myCobot 320 Pi(Pro)-ロボットアーム」(現在は販売終了)といずれも高額商品ながらランクは上位でした。種類としては4アイテムですが、普及版/プロ版のそれぞれにM5Stack用/Raspberry Pi用があるといった分類です。去年登場した時点から半年で22位まで来たのですが、今年も勢いは止まらず、売上も倍になりました。これに伴ってアームの先に付けるパーツである、50位「myCobot 280用グリッパー」、60位「myCobot 280用吸引ポンプ」もランクインしました。63位にも「myPalletizer-ロボットアーム」という商品が入っています。関節数が少なくて、目の前にあるものを取って置くとか、比較的単純な動作に特化しています。たくさんの関節を制御するのは大変なので、用途によってはこれで十分といったこともあるでしょう。これからもバリエーションは増えていくと思います。
Raspberry Piは供給不足が続いた
——8位「Raspberry Pi 4 スターターキット(4GB RAM版)」、9位「Raspberry Pi 4 Model B / 8GB」とRaspberry Pi製品がランクインしていますが、Raspberry Piは年間を通して品薄が話題になっていましたね。
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安井氏
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ユーザーの皆さまにはご迷惑をおかけしています。本来、現在の主力である「Raspberry Pi 4」の4GB、8GBなどが順調に入手できればもっと上位に来ていたはずです。10位の「Raspberry Pi 400 日本語キーボード」については、19位「Raspberry Pi 400 USキーボード」、20位「Raspberry Pi 400 スターターキット(日本語キーボード)」と合わせ、安定した人気を誇りました。Raspberry Pi関連商品全般としては、いずれにも供給不足は否めませんが、今上位にいる商品に関しては現状維持で今後も推移しそうです。
また、高額商品が上位に来る傾向の中、「Raspberry Pi Pico」の27位は大健闘だと思います。単価が安いのにこのランキングにいるのは、全商品を通じて出荷数がダントツ1位だったからです。本製品で使用されている、RP2040チップを搭載した派生商品が多数登場しています。また無線機能を搭載した「Raspberry Pi Pico W」も登場する予定です。期待、伸びしろがある商品です。
もはや古典 Arduinoの強みと弱み
——11位には「Arduino Uno R3」が入りましたね。
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安井氏
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M5Stackだの、Raspberry Piだの、に押されながらもこの位置にいるのは、さすがArduinoといった感じです。今や32ビットのOSがボードに載っている時代に、8ビットボードがこの位置にいるのは驚異的です。電子工作のスタンダードとして日本に根付いていて、いまだにこの文化を支えてくれています。そのおかげで、この位置を確保できたという面も否定できません。ただ今年はついに3000円から4000円へと値上げせざるを得ませんでした。その意味では他の商品との価格や性能との比較で、今後もこの位置にいられるかは不透明です。ただ、世代交代は進んでいくとは思いますが、Arduinoはまだまだ健在といったところかなと思います。
堅調な教育用商品
——24位に「micro:bit(マイクロビット) v2.2」、33位に「micro:bitをはじめようキット」(現在は販売終了)が入っています。教育用商品の動きはどうでしょう?
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安井氏
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micro:bitも長いこと供給不足が続いた商品です。価格改定もあってこのランクに落ち着きました。教育現場では、扱いやすさ、コストパフォーマンスの良さなどで根強い人気があります。子供たちに限らず初めて電子工作をする人もmicro:bitでマイコンボードに慣れておくと、他のハードウェアを扱う際に役に立つと思います。他にも教育用商品として、38位「MESHひらめきラボセット」が入っています。この辺りは学校現場でまとまった採用もあり、堅調です。25位の「M5GO IoTスターターキット V2.6」も教育用を意識した商品です。
群雄割拠。各社の開発ボード
——開発系のオリジナルボードも相変わらず人気がありますね。
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安井氏
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37位の「SPRESENSEメインボード[CXD5602PWBMAIN1]」は、昨年の1.5倍くらい出荷数が伸びました。理由は2つあって、1つは関連書籍『SPRESENSEではじめるローパワーエッジAI』(ソニーセミコンダクタソリューションズ/太田義則、オライリー・ジャパン刊)が出て、「始めてみようか」というユーザーが増えたこと。もう1つは、69位にランクインした「SPRESENSE HDRカメラボード[CXD5602PWBCAM2W]」の登場です。明るすぎる、暗すぎるといった厳しい環境で質の良い画像を得るには、HDRカメラが欠かせません。そこに特化したカメラが出たことで、SPRESENSEそのものにも注目が集まったと思います。
——76位から7位にジャンプアップした「reTerminal - 5インチタッチスクリーン付き Raspberry Pi CM4搭載デバイス」は、昨年の注目商品に上がっていましたね。
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安井氏
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組み込み向けの「Raspberry Pi CM4」を搭載したSeeed Studioのオリジナルボードですが、やはり大躍進しました。前述したようにRaspberry Piの供給不足もあったと思いますが、タッチスクリーンも付いたユニークな商品として出荷数が伸びました。Seeed Studioと言えばGroveモジュールの印象が強いですが、最近はビジネスユースを狙った開発用ベースボードや筐体など産業向けの製品開発が活発で、実際に売れ筋にランクインしています。40位の「reComputer J2012(ACアダプタ抜き)」もそうですね。ちなみにスイッチサイエンスも自社製造品としてオリジナルボードを出していて、83位に「ESPr Developer 32」、100位に「ESPr Developer(ESP-WROOM-02開発ボード)」がランクインしています。
2023年度を予測する
——2023年度へ向けての動向予測と注目商品を教えてください。
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安井氏
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全般的なことを言えば、M5Stack、Raspberry Pi、myCobot、Jetson、カメラ関係といった2022年度に良かったものは大きくは変わらないと思います。部品の供給不足も続くとは思いますが、来年の後半あたりから安定していくのではないかと見ています。
注目商品としては、175位でランキング外なのですが、「DDT M0601C_111 ダイレクトドライブモーター 18V/0.96Nm/115rpm」を挙げたいです。従来のサーボモーターと同じ機能を果たしますが、ギアなどの中間機構がないので、高速で精密な駆動、省スペースなどが可能になる画期的な商品です。これから伸びていくと思います。
もう1つ、これは来年度注目ではなく将来に向けて扱ってみたい商品という意味で、中国 深圳のSpinQが2020年から販売している量子コンピューターを挙げたいです。実用よりは教育/研究機関向けなのですが、新しいテクノロジーの息吹を感じられる魅力ある商品になりそうです。今後期待していただければ、と思います。
まとめ
以上、2022年のスイッチサイエンス売上ランキングベスト100の集計表をもとに商品動向を解説してもらった。電子部品業界も厳しいビジネス環境は続くものの、一方でAIのようにさらに活性化していきそうな分野、量子コンピューターのような夢の実現に向けた新しい分野もある。来年はどんな1年になるのか? 注目したい。