4万円台のFFF方式3Dプリンター「X-Maker」のコスパがヤバかったので自慢させてください
お忙しいところ恐れ入ります。ちょっとうちの自慢の3Dプリンター見てもらってもいいですか。
中国のQIDI TECH(チーディテック)の「X-Maker」という3Dプリンターです。FFF(熱溶解積層方式)で、出力サイズ170×150×160mm。最大のウリは、手軽に使える箱型タイプで4万円代後半という圧倒的なコスパです!先日、勢いで買っちゃいまして、毎日毎日グリグリ使い倒しています。
この記事は、半分は「新しい3Dプリンターを買う」というテンアゲ⤴体験の体験記、もう半分はX-Makerの自慢……じゃなかった、使用感をレビューしていきたいと思います。
蜜月からの倦怠期
僕はただのホビーユーザーですが、実はこれで3台目(買い替えなので3代目というべきか)の3Dプリンターです。
初代は「101Hero」という、Kickstarterで9000円台だった激安機。この機種については以前レポートを書かせていただきました→初めてのKickstarterで初めての3Dプリンターを手に入れました ~1万円以下、激安3Dプリンターのその後
半分おもちゃという感じで性能も値段なりのこの機種、しかしながら僕を3Dプリンターの楽しさに目覚めさせるには十分でした。すぐに本格的なものが欲しくなり、1カ月ほどで新しいものに買い替え。
これが2代目、「JGAurora A3」。製品ではなく自作キットで、パーツの状態で届いたものを自分で組み立てました。
この2代目とはその後、4年ほど付き合うことになります。いざ購入してみると、3Dプリンターは遊びにも趣味にも実用にも育児にも使えてものすごく強力なツールだと分かりました。
こんな感じで、家に置いておいて絶対に損はないと言い切れます!
しかし、しかしですよ。ここ1年ほどは、ほとんど電源を入れない日々が続いていました。あんなに蜜月だった3Dプリンターとの関係がなぜ……?
それはですね、一言でいうと「3Dプリンター自体のDIY感に疲れた」からです。自作キット機だけあって、改造ができるんですよ。例えばパーツを交換して出力精度を上げたり、出力前に毎回やるレベリングっていう調整作業を自動化したりとかできる。僕もはじめはいろいろ手を加えて、愛機をカスタムしていく楽しさを満喫しました。
しかしながらだんだんそれも飽きてきました。それよりパーツ交換なしで最初から精度出てほしいし、あと過去に改造した箇所に不具合が出るなど、面倒なことも増えてきました。(室温で部品が伸び縮みするので、季節が変わるたびにコントローラーのプログラム書き替えないといけないとか!)
用事があって普通にツールとして使いたいときに、コンディションが悪くて使えないことがある。しかもガッツリ再整備しないと直らない。それがストレスになっていました。そういうDIY路線ではなくて、普通に家電っぽく安定して使えるものが欲しい! という気持ちになってきたんですよね。
中国メーカーの商談力
そういうわけで去年あたりから、すぐに買い替えるつもりはないものの、なんとなく候補を調べていました。条件はこんな感じ。
- キットでない、完成版で届く
- 2017年以降発売(2代目より新しい=技術的に成熟していると期待)
- 出力エリアがむき出しでない、ボックスタイプのもの(保温のため。むき出しだと冬はABS樹脂が出力できない)
まず候補に挙がったのが、もう日本の3Dプリンターユーザーは全員使っている気すらする大定番機、FLASHFORGEの「Adventurer3」。条件は満たすわ評判もいいわで文句なし。7万円くらいです。
そしてもう一つ気になっていたのが、今回購入したX-Maker。知人が旧モデルを持っていて、使いやすそうだったのです。
しかしこれ、2019年の時点ではAlibabaでしか売ってなくて、購入ハードルが高かったんですよね。その後、時は流れ、最近になってあらためて調べてみると……Amazon.co.jpとAliExpressでも売られているのを発見。しかもどちらも4万円台後半と、Adventurer3と比べて2万円以上安い。これはいいな……。
ただ機能面で不明点があったので、問い合わせのメールを送ってみました。(英語)
筆者:X-Makerと似たスペックでX-one2っていうのもあるけど何が違うの?
QIDI:X-Makerの方が出力サイズが大きいね。もしこれでよかったら、いい値段提示できるよ。
筆者:あ、あと本体サイズも教えて。
QIDI:455×380×385mmだね。$XXXでどう?
いきなり始まる価格交渉。ぜんぜん買うとか言ってないのに!
本当にまだ買うつもりはなかったのですが、なりゆきで交渉していたらけっこう下げてくれたのと、先日Maker Faire Tokyoに行って3Dプリンターに対するテンションが上がっていたのもあり、いつの間にか勢いで買ってしまっていました。中国メーカーの商談力、恐るべし……。
しかもすぐ着く
発送の連絡があり、中国発送だから2~3週間後くらいには届くかな……とのんびり構えていました。そしたらなぜかAmazonの倉庫から2日後に到着。まじか。
写真だとちょっと伝わりづらいのですが、めちゃくちゃでかくて重い箱が届いたんですよ。廊下の幅が半分以上ふさがっているの分かります?「Overweight」っていう見たことのないシールが貼ってあります。
中身も箱と同じサイズだったらどうしよう……と思ってひるみましたが、ちゃんと2回りくらい小さくて安心しました。
付属品。マニュアル類のほか、赤のPLAフィラメント、メンテナンス工具が一式、さらに一部交換パーツ(ノズルやヒューズ)まで。USBメモリーの中にはマニュアルの電子版のほか、フィラメント交換等の日常作業からメンテナンスまでの動画ガイドが入っていて……と、サービス精神が親戚のおばちゃん並みにてんこ盛りです。
マニュアルに開梱方法が書いてあるので、見ながら梱包材を外していき……
すぐに設置完了! キットの時は組み立てにまるっと24時間かかったのを思い出して、思わず遠い目になってしまいました。
上と横のカバーは取り外し可能。PLAの出力時はエアフローのため外すことを推奨しています。
これは出力物が乗るビルドプレートですが、こうやって外して曲げることができるので、出力物が剥がしやすいです。いいねー。
そのまま出力できる手軽さ
さっそく何か出力してみましょう!……とその前にレベリング(いい感じの層が出力されるための高さ調整)です。
こんな感じで液晶に説明が出てくるので分かりやすい!
手動で3カ所、ツマミを回して調整します。専用のレベリング用シートを滑らせてその感触で微調整するのですが、このシートがいい感じでザラザラしていて、適正位置の感触がすごく分かりやすいのです。所要時間3分ほど。実はレベリングは先代の3Dプリンターで扱いづらかった部分で、この簡単さはとてもうれしいです。
それが終わるといよいよ、付属のテスト用データを出力!
ウィーン……
できたー!!!!!!!!!!
……って、これ、何?
物体の正体不明さについ気を取られてしまいましたが、出力結果としてはとても良好です。しかし性能評価するには形が単純すぎるので、もっと複雑なものを出力してみましょう。
出力中は液晶にこんな感じで進捗が出ます。このモデルは見たことがある方も多いのでは?
余談ですが、出力が終わると表示されるメッセージが妙に詩的。
3Dプリンターの評価に必ずと言っていいほど出てくるこの船。サポート材なしで出力しましたが、アーチ部分なども崩れることなくたいへん良好です。唯一の不具合として、後部の旗を立てる穴(?)の部分が若干潰れてしまいました。
左から、PLA、ABS、PETG、ウッドPLA。
右の2つは糸引きがありますが、今回はパラメータ調整しないでデフォルトのまま出したこと、またフィラメントがかなり古く吸湿もしており、やむなしという感じかも。むしろPLA、ABSはデフォルト設定でもバッチリできているのですごいです。
よし、次はあれとこれと……という感じで、調子に乗ってどんどん出力してしまいました。
上の写真、すべて出力パラメータは何の調整もせずデフォルトで出しています。完全にストレスフリー。これはいいぞ……!
ちなみにスライサー(3Dモデルを3Dプリンター用のデータ形式に変換するソフト)は、付属の専用のものを使っていますが、
こんな感じで、特に感動するようなオリジナル機能はないものの、一通りのことはできて普通に使いやすいです。
動くものはどうか
静物系の造形力はなんとなく分かりました。では続いてさらに難しいもの、行ってみましょう。関節が可動するタイプのモデルです。これは先代の3Dプリンターではパーツ同士がくっついてしまい、全然うまくいかなかったのですが……
できてる!? ぐっにゃぐにゃ!
これビルドプレートから外してポキポキって折っていったんじゃなくて、外した瞬間にもう「シャラン……」つって足が垂れ下がったんですよ。ヤバくないですか!?
これはいいぞ。勢いでもう1個行ってみましょう。
うおお、かんぺきーーーーーーーーー!
こっちは出力直後にギア同士が少し固まっていましたが、力ずくで回すとうまく分離してくれました。それ以外は特に手を加えていません。
今度はパーツをバラバラに出力して組み立てるタイプの、さらに複雑な機構のものを作ってみます。
この辺りになってくるとさすがに無加工では厳しく、モーターのシャフトを挿し込む穴や、ギアをケースに止めるピンなど、サイズ合わせがシビアな部分を一部ヤスリ等で調整しています。一方、歯のかみ合わせはそのままで大丈夫でした。素晴らしい!
また、ここまで試す中で一度だけ、ギアを止めるためのピンが変形して出力されてしまい、使い物にならないという失敗もありました。もう1回やり直したら無事成功。
3Dプリンターは実用に役立ててこそ
さて、Thingiverseから落としてきたモデルばかり出力してきたので、この辺で3Dプリンターの醍醐味、オリジナルのモデルも作ってみたいと思います。
これは僕が工作のときに使っているハンディ掃除機なのですが、狭いところ用のアタッチメントがないのでちょっと使いにくかったんですよね。「3Dプリンターがあれば作れるな」と思いつつ、前述の面倒さのせいでずっと放置していました。いまこそ作ってみましょう。
まず採寸し、それをもとにFusion 360で平面図を描きます。
(かなりはしょりましたが)それを立体化。
スライサーに入れて、Wi-Fi経由で送信!
さっきまでデータだったものが物体に。魔法か……?
サイズもぴったりです。
吸えてる~~~~
と一発で完成したように書きましたが、本当はなかなかサイズが合わずこれだけの失敗作を生み出しました。これはプリンターの問題ではなくて、僕のモデリング技術の問題ですが。
失敗作は試行錯誤の証。尊いものです!
X-Maker使用感まとめ
僕自身はあくまでホビーユーザーですし、他の機種をあまり触ったことがないので、出力品質に関して他と比較してどうということは言えません。ただ、少なくとも以前の自作キット機よりかなり精度がよく、個人的には大満足なクオリティです。
また、出力品質以外にも、機能面で良いと感じたところ、悪いと感じたところがあったので書いておきます。(前使ってた機種と比べてなので、当たり前のことだったらごめん)
良いところ
- レベリングは手動ですが非常にやりやすい
- 外して曲げられるビルドプレート。樹脂の食い付きも良い
- Wi-Fi経由で出力できて便利
- ボックス型なのでABSもバッチリ!(真冬はまだ経験してないけどたぶん大丈夫そう)
- 出力中に一時停止してフィラメント交換ができる
- メーカーのサポートが良い。半日くらいで返信が来るし、説明写真が添付されてたりして丁寧。英語・日本語どっちもいけるらしい(どっちも機械翻訳かも)
- なんといってもコスパ最高!!
悪いところ
- 電源スイッチがなぜか背面にあり押しにくい(これは本当になぜ……)
- PLAの出力中、カバーがオープンの状態でファンがブン回しになるのでそこそこうるさい(スマホの騒音計アプリで1m離れたところで40~60db)。ABSなどは比較的静か。
- 本体サイズ455×380×385mmですが、上部カバーやフィラメントホルダー含めると高さが600mm程度あり、ラックに入れたい場合は注意
- 好みの問題かもしれませんが……正面パネルに書いてある製品名……こんなにでかい必要ある??
こんな感じの使用感でした。QIDI TECHはもう10台くらい3Dプリンターを出しているので、メーカー側にかなりノウハウが蓄積しているものと思われます。
あとはマニュアルが英語版しかないですが、これについては僕の個人ブログに日本語訳を載せました。使用中に気づいた注意点なども書いてあるので、買った方や、購入前に機能の詳細を知りたい方はぜひ参考にしてください。
総評としてお薦め度でいうと、初心者の最初の1台や、自分のようにあまり細かいものを作らない人には即お薦めです。この値段でこの使いやすさは絶対、買い。
一方で、模型作りなど細かい造形が目的の人だと……僕には良いともダメとも分からないので、そういう使い方をしている人のレビューが登場するまで待ってみてもいいかも。そもそもFFFでなく光造形という選択肢もありますしね。
以上、3Dプリンターを買い替えたぞという自慢話でした!
※補足:もしこの記事を見て買いたくなった人がいたら、1点だけ補足です。混乱しやすい点として、X-Makerは初期出荷モデルと現モデルで仕様が変わっています。初期のものは造形をスマホでモニターできるカメラ付きだったのが、途中からその機能がカットされ、その代わりに出力品質を向上させたとのことです。
Amazonのレビューなんかを見るとそのあたり混在しているので、「いま買うとカメラ機能はない」というのは理解しておいた方がよいでしょう。どうしても欲しい人はAliExpressならカメラ付きモデルがまだ選べました(でもあんまり使わない気も)。いずれも国内代理店なしでメーカー直販なので、どちらで買っても問題ないです。