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老舗ネオン工房に行ってきた! 一瞬で我が家をサイバー空間に変身させるオーダーネオンサインを作ろう

みなさんは、ネオンサインを間近で見たことはあるでしょうか? 昭和レトロブームの影響もあり、近年では居酒屋やBARでも小さいネオンサインが見られるようになりました。しかし、その多くはLEDを使用した「LEDネオン」だということをご存じでしょうか。

昔ながらのネオン管を使ったネオンサインは近年では減少し、現在はほとんどがLEDを使ったものに置き換わっているそうです。この事実を知ったのは、サイバーおかんさんの「セオイネオン」を間近で拝見したことがきっかけでした。

サイバーおかん作「セオイネオン」。 サイバーおかん作「セオイネオン」。

ネオン管を使ったネオンサインは屋外で使われているものが多く、普段の生活で間近に見ることはありません。ネオン管を間近で見た印象は、LEDよりも光が柔らかく、吸い込まれそうな怪しさをまとっている感じがしました。長時間見ていても飽きない、焚き火を眺める感じに近いと思いました。

発光が幻想的なネオン管。 発光が幻想的なネオン管。

自分の家にも、こんなネオン管で作ったネオンサインが欲しい。そこで、「セオイネオン」の制作にも関わった企業、アオイネオンさんに協力を仰ぐことにしました。

創業70年を超える老舗屋外広告業者でありながら、「“産業”から“アート”へ」のコンセプトを掲げ、ネオン管を使ったネオンサインを次世代へ継承していく取り組みをされているアオイネオン。現役のネオン管加工技術者がいらっしゃると聞き、静岡本社工場に行ってきました。

アオイネオン静岡本社社屋。 アオイネオン静岡本社社屋。
アオイネオン静岡本社受付ロビーにて。 アオイネオン静岡本社受付ロビーにて。

ネオンサインとネオンLED、蛍光灯の違いとは?

お世話になったアオイネオンの荻野さん(右)と横山さん(左)。 お世話になったアオイネオンの荻野さん(右)と横山さん(左)。

アオイネオン静岡本社では事業企画部の荻野隆さんと、横山さんが迎えてくれました。ネオン管の作成を行う前に、まずはネオンの仕組みについて荻野さんから簡単に教えていただきました。

ネオンサインには昔ながらのネオン管を使用したものと、2000年頃から使われるようになったLEDを使用したものの2つがあります。通常のネオンサインはネオン管と呼ばれるガラスの管を使用しますが、LEDのネオンサインはシリコンチューブの中にLEDテープライトを収め、シリコンチューブ内に光を反射してネオン管のように見せています。

ネオン管はガラス管の中身を真空状にした上で、ネオンガスやアルゴンガスを充填させ、電圧をかけた時の放電現象により発光します。ネオンガスは赤みを帯びた色で、アルゴンガスは青味を帯びた色をしており、ネオン管に塗った色とガスの色の組み合わせでさまざまな色を作り出しています。

ネオンガス(赤色)と白色のネオン管でピンクを作り出す。 ネオンガス(赤色)と白色のネオン管でピンクを作り出す。
アルゴンガス(青)のみ。電気を消すとネオン管は透明になる。 アルゴンガス(青)のみ。電気を消すとネオン管は透明になる。

私たちがよく目にする蛍光灯(蛍光管)にもガラス管が使われていますが、ネオン管とは光る仕組みが異なります。蛍光灯は管内にガスと微量の水銀が充満しており、電極から発生した電子と水銀がぶつかることで紫外線を発生させ、それが管の中に塗ってある蛍光物質に働くことで発光します。放電しやすくするためフィラメントに塗られたエミッタと呼ばれる物質は、点灯するたびに減ってしまうため、蛍光灯には寿命があります。一方、ネオン管はガラス管が破損するなどの物理的な破壊がなければ、部分的な部品の付け替えで使い続けることが可能なのです。

ネオン管の作り方

ここからは、アオイネオンでネオン管を制作している横山さんに作業風景を見せていただきました。横山さんはネオン管を曲げることで多種多様な形や文字を表現していますが、職人技というべき技の数々を目の当たりにして、芸術作品に近いと感じました。

横山さんのネオンサイン作品。 横山さんのネオンサイン作品。

まずは実寸大の設計図に合わせて、1本のガラス管を折り曲げていきます。この時、曲げた所が潰れてしまわないように、息を吹き込みながら形を作っていきます。

ガラス管を曲げていく横山さん。 ガラス管を曲げていく横山さん。

形が出来上がると、不要な所に傷を付けてポンっと軽く叩いてカットし、取り外したら、ガラス管の左右に電極を取り付けます。そして、新たにガスを充填するための穴を作成します。魔法のように繰り出される技の数々に、目を丸くして見つめてしまいました。

作品(左手)に電極(右手)を取り付ける。 作品(左手)に電極(右手)を取り付ける。
ガス充填用の穴をわずか1分ほどで作り出す。 ガス充填用の穴をわずか1分ほどで作り出す。

曲げる体験だけは私も挑戦しましたが、思った以上に難しく、製品としては使えない形状になってしまいました。ネオン職人として一人前になるには、5年ほどかかるそうです。

息を吹き込む加減が難しい。吹き込みすぎるとガラス管が膨張し、吹き込みが弱いと冷えて潰れた状態で固まってしまう。 息を吹き込む加減が難しい。吹き込みすぎるとガラス管が膨張し、吹き込みが弱いと冷えて潰れた状態で固まってしまう。

最後に真空状態にしてアルゴンガスを入れていくのですが、初めは不純物に反応しピンク色に輝きます。徐々にアルゴンガスだけになり青く光りはじめ、この変化がとても幻想的できれいでした。

初めはピンク色に光るネオン管。 初めはピンク色に光るネオン管。
アルゴンガスが十分に充填された状態のネオン管。 アルゴンガスが十分に充填された状態のネオン管。

ネオンを取り巻く環境と未来

ネオンサインの制作工程を拝見し、制作には熟練者の技術が必要不可欠だと感じました。特に、長年にわたって体に覚えさせる感覚や、知識やノウハウの会得は難しく、一人前になるまで5年かかってしまうという意味も理解できました。ガラス管を使う際には、移動や機械の設置に細心の注意を払わなければならないし、造形する技術を教育するためには、企業側にも体力がないと成り立ちません。

現在、急速に屋外のネオンサインはLEDに置き換わってきています。理由は、LEDの方が持ち運びがしやすく、造形や設置にも高い技術力を必要としないからです。ネオン管のように、職人の教育に時間をかける必要もなくなります。LEDというと、電気代が安いというイメージがありますが、実際のところあまり変わらないそうです。設置する側の都合でLEDに置き換わってきているということに驚きました。

荻野さんと数々のネオンアート。 荻野さんと数々のネオンアート。

こういった状況から、現在ではネオン管を作成している技術者は、日本国内でわずか50人ほどしかいません。危機的な状況にあるネオン管を使ったネオンサインを残そうと活動しているアオイネオンの荻野さんは、「ネオン管を使ったネオンサインは、ガラス工芸と一緒。アートやエンターテイメントとしてとして残していかないと、ネオン技術者も、ネオン管を製造する企業も日本にはなくなってしまう」と語ってくれました。

2022年12月から2023年1月まで東京タワーで開催された「大ネオン展」で展示された、アニメーター/イラストレーターのはなぶし(渡邊巧大)さんとのコラボ作品(筆者撮影)。 2022年12月から2023年1月まで東京タワーで開催された「大ネオン展」で展示された、アニメーター/イラストレーターのはなぶし(渡邊巧大)さんとのコラボ作品(筆者撮影)。

ネオンサインのデザイン作成

ネオンサインの歴史や、高い技術力を目の当たりにしてますます実物が欲しくなってきました。我が家に設置するネオンサインについて、自分なりに実現できそうなサインのスケッチをいろいろと作成してきたので、引き続きアオイネオンの荻野さんにネオンサインのデザインについて詳しくお話を伺いました。

1本あたりのネオン管の長さは大体決まっており、ネオン管の数によって価格が変わります。また、色数を使えばそれだけネオン管が必要になってきます。ネオン管1本1本に電極が必要になるので、配線を考えると細かい制約が発生していきます。

ネオンサインの設計図を見ながら説明していただく。 ネオンサインの設計図を見ながら説明していただく。
事前に筆者が考えたネオンサインのアイデア。 事前に筆者が考えたネオンサインのアイデア。

複雑な構造は難しそうなので、今回はシンプルな電球型のサインを採用しました。

ネオン色のサンプルや、配線を考慮し作成したネオンサイン設計図。 ネオン色のサンプルや、配線を考慮し作成したネオンサイン設計図。
アクリル板にどのように取り付けるかのみ記載されている。ネオントランス(変圧器)、電極の位置などは記載されていない。 アクリル板にどのように取り付けるかのみ記載されている。ネオントランス(変圧器)、電極の位置などは記載されていない。

設計図というと配線など緻密なものを想像してしまうのですが、ネオンの場合は、実際に作りながら細部を調整していくとのこと。私のアイデアを基に起こしてもらった設計図にも、ネオン管の形や配置ぐらいしか書いてありません。

自宅に置けるネオンサイン完成!

設計図が決まってから約3週間で、ついに完成品が届きました。

ガス自体の発光を楽しむため、あえて色付きのガラス管は使用しなかった。点灯していない時はどのようなデザインなのか、やや分かりづらい。 ガス自体の発光を楽しむため、あえて色付きのガラス管は使用しなかった。点灯していない時はどのようなデザインなのか、やや分かりづらい。
完成品。思ったよりも曲げや電極の配置が複雑。透明や白いガラス管部分が発光するが、あえて発光させたくない箇所は黒く着色している。 完成品。思ったよりも曲げや電極の配置が複雑。透明や白いガラス管部分が発光するが、あえて発光させたくない箇所は黒く着色している。

ネオンは繊細なので、輸送時の破損リスクを避けるため、わざわざ車で自宅近くまで持ってきていただきました。アクリル素材のケースにしっかりと固定されてはいるものの、薄い筒状のガラス管は、触れたら割れてしまうのでは? と感じるほど繊細な印象がありました。

いざ点灯。はっきりと模様が浮かび上がった時にはとても感動した。 いざ点灯。はっきりと模様が浮かび上がった時にはとても感動した。

電源を入れたところ、一気にネオンの周りが独特な雰囲気に変わりました。これです! この雰囲気。LEDでは出せない怪しくも温かい雰囲気です。ネオンというと暗闇でもはっきりと光るので、強い光で目が痛くなるのでは? と思うかも知れませんが、実際はそうでもありません。むしろ柔らかい光でいつまでも見ていられます。

じっくりと観察すると、ガラス管の中でガスが動くのか、グラデーションが発生して、見ていて飽きません。焚き火のような印象でした。

ガラス管を間近で見ると、光の濃淡も感じられる。 ガラス管を間近で見ると、光の濃淡も感じられる。
ネオンの裏側。電極やネオントランス(変圧器)が設置されている。 ネオンの裏側。電極やネオントランス(変圧器)が設置されている。

アオイネオンさんの協力の下、ネオンサインの制作工程から歴史までお伺いしてきました。昔ながらのネオン管を使ったネオンサインは高い技術力が必要で、今では存続の危機的な状態にあることや、そのような中でもネオンの魅力を発信し続け、後世に残していこうという取り組みなど、初めて知ることがたくさんありました。

話を伺った後に見るネオンサインの輝きは違って見え、こんなにもネオンの輝きにひきつけられるのは、ガラス管故のはかなさが同時に存在しているからなのだと感じました。ますますネオンサインの魅力にハマってしまいました!

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