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個人で発注できちゃいました

【個人でフレキシブル基板発注】曲がる基板で手に沿う形のキーボードを作った

曲がる基板にほとばしる可能性! フレキシブル基板がリーズナブルに発注できるのを見つけ、ばねのように伸びるキーボード用の基板を注文。それを使って自分の手に沿う曲線的な形のキーボードを作ってみました。

手が小さくても立体的なキーボードが使いたい

人間の体のつくりに適したキーボードを突き詰めていくと、どうも立体的な形になるらしい……。指の可動域に添う、曲線的なキーボードが存在します。本当に使いやすいのかも気になりますし、何より単純にかっこいいので使ってみたい。

自作の立体キーボード(左)と市販の立体キーボード(右)。市販のものは約6万円となかなか高級品です。 自作の立体キーボード(左)と市販の立体キーボード(右)。市販のものは約6万円となかなか高級品です。
<画像引用元>
https://www.cyboard.digital/product-page/Dactyl-Manuform
https://www.ergonomics.co.jp/shopdetail/000000000044/

でも、実際触ってみるとどうも手に合わないものばかり。海外の男性が製作したものが多いので、日本人女性の手には大きすぎるようです。

人によって手の大きさはだいぶ違う、同じキーボードを使うのに無理がある 人によって手の大きさはだいぶ違う、同じキーボードを使うのに無理がある

「エルゴノミックと銘打っていても、自分の手の大きさに合わなければ意味がないのでは? 」悩ましく思っていると、フレキシブル基板がリーズナブルに注文できるようになっているのを発見。曲がる基板を使えば立体キーボードが気軽に作れるかも!? キーボード用のフレキシブル基板の設計と発注、そして立体的なキーボード作りを行うことにしました。

フレキシブル基板発注の費用/納期と完成品

始めに、今回の胆であるフレキシブル基板の製造についてまとめておきます。作ったのは立体的な自作キーボード用の基板で、約120mm×81mm。スイッチをつなぐ配線部分を曲線にし、切り込みを入れることで、自由な形状を作れるようにしました。

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※特殊形状のため追加料金が発生。通常31ドル。 ※特殊形状のため追加料金が発生。通常31ドル。

自由度の高いキーボード用基板を考える

そもそも自作で立体キーボードを作る方法には、この3つがあるようです。

  1. スイッチを手配線する方法
  2. キースイッチ用基板を手配線する方法
  3. 曲がる専用基板+手配線する方法
 
左から1.手配線、2.キースイッチ用基板と手配線、3.専用基板+手配線 左から1.手配線、2.キースイッチ用基板と手配線、3.専用基板+手配線
<画像引用元>
https://cults3d.com/en/3d-model/gadget/split-keyboard-hand-wired-promicro
https://hackaday.io/project/180154/instructions
https://www.youtube.com/watch?v=jImOY9Bgv74

それぞれの方法には、こんなメリット/デメリットがありそうです。

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フレキシブル基板で作れば、手配線の必要がなく、しかも自由度が高い、汎用的なキーボード作成用基板ができそうです。 下のイラストのような形にすれば、かなり自由度が高く、より汎用的に使えるのでは? 思い付いたときは思わず「これはおもしろいぞ! 」と興奮して人に話しまくってしまいました(あまり伝わりませんでした)。

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まずは手始めに、本当にこの形状でできそうかテストしてみます。クリアファイルを切り、四角い部分を動かすと……ちゃんと動きます。大まかには、この形で機能しそうですね。

1cmくらいは離せる。配線部分が細いところや、接続位置は要改善。 1cmくらいは離せる。配線部分が細いところや、接続位置は要改善。

ところで方法2.のキースイッチ用の基板には「無限の可能性」と名付けられたものがあります。それにあやかり、今回の基板は「【超】無限の可能性 Super Infinit Posibilities」と名付けました。

「無限の可能性」という名前の基板とそれを使って作ったキーボード。今回は無限の可能性の可能性をさらに広げたい 「無限の可能性」という名前の基板とそれを使って作ったキーボード。今回は無限の可能性の可能性をさらに広げたい

発注先はフレキシブル基板の注文が可能になったJLCPCB

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基板は、金属3Dプリントの発注でも使用した、中国の製造会社 JLCPCBに発注しました。そもそもフレキシブル基板を作るきっかけが、この会社のHPを見て「フレキシブル基板が追加された! しかも安い! 」と気付いたことでした。

しかし調べてみると他の基板製造会社でもフレキシブル基板の製造をやっているところは多かったため、いくつか比べてみました。結果は以下で、やはりJLCPCBが特に安かったため発注を決定。ただし、見積もり時にspecial priceと表示があったので、現在ユーザーを増やすために安く設定しているのかも。試してみたい人は、早めに行った方がいいかもしれません。

【50mm四方、面付けなし、2層基板、5枚(最小枚数)の簡易見積もり】

業者 製造費用(簡易見積もり)
PCBWay 46.74ドル
JLCPCB 16.00ドル ※特別価格との表記あり
ALLPCB 87ドル
P板.com 812.43ドル ※11万5098円を2023年6月19日のレートで算出

他に、PCBGOGOやElecrowでも取り扱いがありますが、個別見積もりが必要だったので今回は利用しませんでした。

データや発注方法は通常の基板とほぼ同じ

フレキシブル基板の発注は初めてで不安もありましたが、製造用データは通常のリジットの基板と同じデータで発注できました。設計条件については以下の表を参考にしました。

JLCPCBのHPより。設計前にさらっと確認しておくと良い。 JLCPCBのHPより。設計前にさらっと確認しておくと良い。

まず、基板用の CAD を使ったガーバーファイルを用意します。私は 「KiCad」というソフトを使ってデータを作りました。KiCadには、JLCPCB用の製造ファイルを作るプラグインがあります。 データを作り終わったら、 製造用ファイルを出力し、ZIP 圧縮ファイルを用意します(不要なデータも含まれていますが問題ありません)。

KiCadで設計したデータ。フレキシブル基板は配線は曲線に、接続部分はティアドロップにした方がいいのだが、修正中に力尽きて途中から直線にしてしまった。 KiCadで設計したデータ。フレキシブル基板は配線は曲線に、接続部分はティアドロップにした方がいいのだが、修正中に力尽きて途中から直線にしてしまった。

データができたら発注です。JLCPCBのサイトに行って基板製造のページを開き、BASE MATERIALでFLEXを選びます。基板の最小枚数は5枚です。厚さや色など、他の項目も設定していきます。私は図のような設定にしました。

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今回はデフォルトのまま頼んでみたが、Thickness(厚み)がより厚いものや、Stiffener(補強材)の設定が気になる。 今回はデフォルトのまま頼んでみたが、Thickness(厚み)がより厚いものや、Stiffener(補強材)の設定が気になる。

この時点では製造費用は31ドルと見積もられていました。1枚あたり約600円です。配送の設定をして支払いを行えば完了です。

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工場NG! 発注後のやり取り

さて、通常であれば注文後は届くのを待つだけ。しかし、今回はだいぶ特殊な形状。メールで「この形状だと基板が壊れてしまいます」という旨の連絡が来ました。

修正の提案もしてくれたのですが、ばね部分が全くなくなってしまっていたため、自分で修正し、修正データをアップロードすることにしました。

左は修正前データのプレビュー。右は、JLCPCBが提案してくれたデータ。 左は修正前データのプレビュー。右は、JLCPCBが提案してくれたデータ。

切り離し場所の最小長さなどの条件、そして「こういった形であれば製造可能か? 」といった質問を2回ほど行い、データを修正しました。具体的には、以下2点が変更点です。

  1. 一部のカットラインをつなげて、製造後に手で切り離す形にすることで、外形の形を単純な四角形にした
  2. スリットの幅を0.8mmに広げた
 

修正データができたら、データをJLCPCBのマイページの「Replace File」から再アップロードします。

左は製造不可だった基板、右は修正した基板のデータ。少し単純になった。 左は製造不可だった基板、右は修正した基板のデータ。少し単純になった。

再アップした当日、データチェック結果のメールが届きました。ドキドキしながら開くと「細かいスロットがたくさんあり、加工に時間がかかるので7.5ドル追加料金が必要です。」という内容。製造はできるということですね! イレギュラーな注文である自覚はあるので、追加料金も納得。粛々と追加の支払いを済ませると、当日中には製造中のステイタスに。5日後には製造が終わり、発送されました。

フレキシブル基板が届く、どんな感じ?

製造完了から5日、荷物が届きました。 普通の基板と同じ大きさの青い箱で届くのですが、いつもより中身が軽くてドキドキします。箱の中にはフレキシブル基板が。薄い!

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1枚取り出してみると、不安になるくらいぺらっぺら。簡単に曲げられます。2層基板の配線も透けて見え、かっこいいです。

少し気になるのはスリットのカットラインに少し焦げたような跡があることです。 レーザーカッターで外形をカットしているためだと思われます。金型で抜くのではなくレーザーカッターで切断することで、少量発注を可能にしているのでしょう。

使用上問題がないためこのまま受け入れます。また、おそらくデータミスなのですが、スイッチの足の穴が開いていませんでした。

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いよいよ、切り離してちゃんと伸びるのかを確かめます。普段基板にハサミを入れることなんてないので、緊張しながらいざ切断。少し硬い紙ぐらいの硬さで簡単に切れちゃいます。勢い余って配線を切らないように気を付けます。

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ランナー部分を全て切り離し、引っ張ります。おお! 伸びます! 横にも縦にも、みょんみょんと大きく伸びます! 思い描いていた通り! すごく楽しいです。

超無限の可能性を使ってキーボードを作ってみた

さて、伸ばして遊ぶのは楽しいですが、ただみょんみょんするために基板を作ったのではありません。この基板を使ってキーボードを作ります。

必要なのは、スイッチを支えてくれるプレート兼ケースです。初めての立体的なキーボード、どんな形や傾き具合が自分に合っているかわかりません。

実際に曲げながら調節できるとおもしろくて便利だろうと、アクリル曲げの技法を使ったケースを考えてみました。段ボールで作った模型を「ここはもうちょっと広く……」「ここはもうちょっと傾けて……」とちょこちょこと調整し、自分の手に合う形を作ります。

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この段ボール模型を展開し、PP板でベースを作成。アクリル曲げ機で熱して、手で曲げていきます。なんとなく形にはなるものの、ところどころパキパキと割れてしまいました。また、スイッチの穴がゆがんで入らない部分もあり、使えません。何より、曲げていくとアクリル曲げ機と干渉してしまい、後から曲げ直して微調整というのは無理そう。

まげて作ろうとしたが失敗。曲げを調整できるいい素材があれば教えてください! まげて作ろうとしたが失敗。曲げを調整できるいい素材があれば教えてください!

物理的に調整できるケース、というには全然だめでした。今回はあきらめて3Dプリントで作ることにします。CADソフトでケースと底をモデリングし、3Dプリンターで出力します。

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他に必要なスイッチ、キーキャップ、ダイオード、マイコン(ProMicro)、TRRSジャック、タクトスイッチ、ねじなどを用意し、組み立てます。部品はほぼ家にあったものを利用しましたが、購入すると大体5000円くらいです。

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まずは基板の余分な部分を切り取り、動かしたい部分を切り離して伸びる状態にします。そして、ダイオード、TRRSジャック、ProMicro、タクトスイッチをはんだ付けします。

フレキシブル基板のはんだ付けは低温でやらないとフィルム部分が溶けると聞いたことがあるのですが、310℃ではんだ付けしても溶けることはなく、普通の基板と同じようにできました。

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ケースにスイッチをはめ、スイッチ裏側のでっぱりに引っ掛けるようにして裏から基板をとめていきます。離れた位置のスイッチに基板をとめるため、引っ張る時にちぎれないか不安でした。でも案外丈夫で、ちょっと引っ掛けて引っ張ってしまった時でもちぎれませんでした。

ただ、はんだを乗せたランド部分は穴が開きやすいようなので注意してください。クリップで固定してから、スイッチをはんだ付けし、ProMicroを固定します。

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底をねじ止めし、最後にキーキャップをはめたら完成です。ファームウェアを書き込むと、動くぞ!

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今使っているキーボードと大きく違うため、使い始めたばかりの今はヨチヨチ歩きのペンギン並みにタイピングが遅くなっています。が、慣れれば水中を泳ぐペンギンくらい速くなるはず!

基板を発注する人は一度試してみてもよいかも

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キーボードとしてはまだ理想には遠いですが、基板自体にはとても可能性を感じました。ソケットにしてはんだ付けを不要にしたり、通常の基板と組み合わせた基板にしたりと、どんどんやりたいことが出てきます。

フレキシブル基板の注文自体は以前からできましたが、個人が利用しやすい価格で利用できるようになったのは嬉しいですね。基板を発注したことのある人なら、本当に簡単に使えます。

フレキシブル基板は曲がるだけでなく、薄いというのも大きな利点。今回はキーボードを作りましたが、ウェアラブルデバイスや可動部のある機械など、いろんな場面で活用できると思います。実際触ってみることで、作るもののアイデアも広がりました。個人的にはとても可能性を感じたので、気になる人はぜひ作ってみてください。

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