fabcross Meetingレポート
【fabcross Meeting】私たちにとって、本当に必要なファブ施設とは
パネルディスカッション「ファブ施設の1年と今後は?」
最後のセッションはゲストによるパネルディスカッション。来場者からも積極的に質問が飛び交った。
——この1年を振り返っていただき、それぞれの施設がどう変わったかについて聞かせてください。
松田:今年は台湾でイベントを開いたり、百貨店と一緒にコンテストを開催したり、外部の事業者と面白いことができるようになりました。いわゆる利用者と運営者ではないところでリレーションが生まれたのですが、ファブ施設は利用料を徴収するだけでは大したビジネスにはなりません。いろんな事業者と一緒に面白いことをやってみんなで盛り上り、それを利益に結び付けることができるようになってきました。
中村:もう3Dプリンタを置いているだけで人が集まる状況ではなくなり、そこから何かを作りたいという人が増えてきました。新たな展開として、中野区が企業誘致をしている中野区産業推進機構(ICTCO)に3号店をオープンしたのですが、ここはシェアオフィスのような感じでやっています。
井内:つくる~むの開設については、昨年の段階ではほとんどの人から反対されていました。それが今年の2月に実際に始めてみると、いい感触が伝わってきました。ものを作ること自体じゃないところに、いろんなきっかけが広がりつつあります。
——マネタイズしていく事も大事な要素だと思いますが、どのように持続可能な運営を行っているのかについて教えてください。
松田:もともと利益を出して持続させることを目的としていたのですが、オープンから半年くらいは四苦八苦していました。その中で、作り手と買い手は違うんだということにもっと目を向けるべきだと思いました。すなわち、ここにはものを作りたい人が来るのですが、ものを欲しがっている人の市場はこの外に膨大に広がっています。市場が大きければ当然それだけ売れる可能性が高まるので、いかにして作り手にいいものを作ってもらって、それを欲しがっている人に届けるのかという発想でいろいろな仕組みを作っていくと、だんだん楽になってきました。
中村:実は、3Dプリンター屋さん自体はあまり利益は上げていません。ただ、3Dプリンタに関連するさまざまな会社から出資を受けていて、そういった人達と一緒に3Dプリンタがこの先どうなっていくのか、3Dプリンタによって世の中がどう変わっていくのか知りたいのです。そのために、サブカルチャーの聖地ともいえるブロードウェイに施設を構え、そこに来る人達にどういうものが作りたいのかを聞き、一緒にいろんなものを作っていきたいと思っています。だから、一人でもやっていけるんです。
井内:今のスペースは広くて社内的にも貴重なので、別の用途に使いたい他の部署からも狙われています。そのため、興味のない人達が「やってもしょうがいない」って言ってくる。その人達にどう理解してもらうかが、施設を続けていくための課題です。彼らも、実際に利用している人から意見を聞くと納得する場合が多いので、そういうシンパシーを感じてくれる人を増やすために、なるべく利用者一人一人と話をするようにしています。
——会場のみなさんから、ゲストの方々に聞いてみたいことがあったらご質問ください。
質問:松田さんがターゲットにしている“欲しがっている人”とは、具体的にはどんな人を指しているのですか?
松田:これは明確で、Makers' Baseでは当初から20代から30代でファッションに興味があり、購買意欲が高い女性を狙って、アクセサリや服飾品を中心に扱おうと考えていました。そういった人達に、他では買えないオリジナルのものが手に入る場所という印象付けをしてきました。
質問:ファブ施設を構えるにあたって、立地的な条件とか周りの環境とかで考えているところがあれば教えてください。
松田:場所に関しては都心で山手線の駅から近いところという条件があり、建物に関しては一棟丸借りが条件でした。そうしないとやりたいことが制限されます。それと、ありきたりの場所には出さないということです。例えば、目黒にあるファブ施設というと僕ら以外はまず当てはまらないので、そこが強みになると思っています。
中村:僕らは最初から、中野ブロードウェイに出店したいと思っていました。とはいえ、すぐには空きがなく、半年間くらい不動産屋に通いながら3Dプリンタの説明などもやりました。
井内:つくる~むがある新横浜はリコーの事業所の中では一番小規模で、あまり監視の目が届かないところにあるんです。交通の便もあまりよくないため、上司から呼び戻されることもなく、のびのびと利用してもらうという点ではとても都合がいい場所だと思っています。
質問:つくる~むは会社の中で予算をとって運営しているのですか? 機器の保守や材料の調達などはどうしているのかお聞きしたいのですが。
井内:活動予算として安めの車が買えるくらいの額はもらっています。社内で利用料を取ると、部門間の経費の振り分けなどがとても面倒になるので、補修部品や材料などはその予算で賄っています。3Dプリンタなども自分たちで修理できるものを選んでいます。まだレーザーカッターが壊れていないのでなんとかやれていますが……
松田:レーザーカッターが壊れるとやばいですね。でも、中古のアナログ系の機器なんて、壊れるともう誰も直せません。絶望的です。
中村:材料に関しては、うちは国内外のメーカーさんから自社の製品を使ってくれということで、いただいているものが多いです。
——最後に、2016年の目標などがあればお聞かせください。
井内:利用する側から、なにかイベントに発展するようなことが起きればいいなと。来年はそういったことを進めていきたいと思っています。
中村:来年もいろいろとコラボレーションしていきたいと思っています。それはそれで大変な部分もありますが、いろんな人が助けてくれるし、そういった人が有名になっていったり、春になれば近辺の大学に新しい学生が入ってきたりと、いろいろと楽しみがあります。
松田:まず札幌の独自モデルを作りたいと思っています。次に目黒と札幌の交流です。札幌で頑張って活動している人が目黒に来て稼いで帰るみたいなこととか。もう一つは海外ですね。ぜひ大好きなパリに進出したいと思っています。これは来年の目標ではなく、2020年までの目標ですが。