エネルギー社会を変える第一歩——Nature Remoを経て感じたスタートアップになるということ
「このカバーを作ってくれた会社の社長にあったとき、この人しかいないなって思ったんですよ。エンジニア出身で健全に問題を解決しようというスタイルの人でした。実際、世界中の大手企業から仕事を請けているところで、何よりも社長が信用できる人だと思ったので、即決して会ったその日に前金で払って。
でも、初期ロットの採算性だけを考えると彼らもやらないほうが良かったかもしれませんね。たかだか2000~3000個程度の契約なのに、技術的にも難易度が高くて何度も試作をやり直すし。ようやくカバーができて組み立て量産時には、仕上がりの外観を確認するために工場にべったり張りついて『俺が良いって言わないと通さない』と言い切って。これダメ、これダメってやってると、工場の担当者が僕に聞きに来るようになって、そうこうしているうちに合格する条件を分かってくれるようになって、品質が安定しました」
クラウドファンディングなんかやらないほうがいい
スタートアップが資金調達とプロモーションを兼ねてクラウドファンディングを活用するのは、もはや珍しくない。しかし、珍しくないがゆえにスタートアップにスポットライトが当たるプラットフォームでは無くなってきているという。
「Kickstarterにプロジェクトを出しましたが、投資家からも『クラウドファンディングなんかやらないほうがいい、マーケティングに金がかかるだけだから』って散々言われました。実際にその通りで普通にやっても全然お金が集まらない。プロジェクトの開始3ヶ月前からPR会社を使って宣伝するとかマーケティングにお金をかけなきゃいけなくなっている。イニシャルコストが高いハードウェアでやるなら相当大きな金額を集めないと、それだけで資金調達としての機能は果たせなくて、量産後の話題作りぐらいで使うならありかもしれない。次のプロダクトで使うかと聞かれたら悩ましいですね」
予定通りに出荷しない、調達後にプロジェクトが失敗するケースをアメリカのメディアも重く見て、Kickstarterのプロジェクトの記事を書くことを敬遠する傾向にあり、加えて大企業もキャンペーンを立ち上げるようになったことで、クラウドファンディングに対する認識も大きく変わってきていると塩出さんは感じたという。
説得力のあるプロトタイプを武器にする
クラウドファンディングがハードウェアスタートアップにとって魅力を失いつつある中で、何を武器に資金を集めるべきか。塩出さんの答えは非常にシンプルだった。
「それを作って何をしたいかというビジョンと、不細工でもいいから動いているプロトタイプを見せること。この2つがポイントだと思います。『これを作りたい』にはお金を出そうと思わなくても、ちゃんとデモを見せた上で、これで世の中をこう変えたいという志に共感してもらえれば、次のステップに行くのに必要なのお金は支援しようと思ってくれる」
ロンドン・ビジネス・スクールが開催した「CleanTech Challenge 2016」で優勝し1万ポンド(約150万円)を勝ち取った際、塩出さんは大塚さんが用意したプロトタイプを使ってデモを披露した。
「家庭のエネルギーの使われ方を変えたいというビジョンを説明した後に、プロトタイプを使ってリアルタイムで家にあるエアコンの電源を切るデモをしたんですね」
ボストンの自宅をWebカメラで繋いで、リアルタイムでデモができるプロトタイプを用意する大塚さんがいなければ優勝できなかったでしょうねと塩出さんは振り返る。
今後は近日中に国内で一般発売を開始する予定だ。またAPIも公開する予定で、IFTTTとの連携も開発済みでベータテストを実行している。
「今、何かやりたいサービスやソリューションがあって、そこにフックをかけてやろうとしたら、ハードウェアは避けて通れないと思います。既にあらゆるものがネットにつながっていたら、ソフトウェアだけで問題解決できるかもしれないけど、ネットにつながっていないもののほうが今はまだ多い。
そうなると、高い自由度で先々の展開を作っていくためには、自分たちでハードウェアを開発するしかないというケースが多いと思います。ただ、ハードウェアは思っているよりも時間がかかる。でもマーケットは動くし、競合も出てくる。そんな中で、どのタイミングで製品を出せるかというのはとても重要ですね」