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なぜFabCafeにMakerは集まるのかーーグローカル・コミュニティとしてのファブ

瞬間的に人が集まっただけではコミュニティにはならない

ただ人が集まっただけではコミュニティとしては成立しない。FabCafeを持続的な場所としつつ、関わる個人や企業にも継続的な繫がりとプロジェクトが生まれるためにはどうしたら良いのだろうか。

スキルやバックグラウンドが異なるクリエイターやエンジニアがFabCafeに集まり、企業とのプロジェクトが始まるケースも少なくない。 スキルやバックグラウンドが異なるクリエイターやエンジニアがFabCafeに集まり、企業とのプロジェクトが始まるケースも少なくない。

「最初は何かしら利害関係とか主従関係とか短期的な関係から繫がりが始まるけど、そこからコミュニティにするには共存関係という長期的な関係性を作る前提で行動しなければならないと思います。企業も個人もお互いにギブ・アンド・テイクする状態が理想です」

FabCafeが毎年開催しているFAB RACERS CUP(2017年まではファブミニ四駆カップとして開催)も当初は電子工作やデジタル・ファブリケーションを活用してミニ四駆を楽しむ個人を中心に始めたイベントだった。回を追うごとに参加者も増え、スポンサー企業による参加者向けの機材提供やワークショップが開かれるようになるなど、現在ではミニ四駆を共通言語にしたコミュニティとして発展している。

創造性と技術力が光るマシンが並ぶFAB RACERS CUP。fabcross編集部も参戦したが全く刃が立たなかった。(写真は2015年開催時のもの) 創造性と技術力が光るマシンが並ぶFAB RACERS CUP。fabcross編集部も参戦したが全く刃が立たなかった。(写真は2015年開催時のもの)

「ああいうことができる時にFabCafeは何をするかというと、そこに集う人に提供できるものを増やすためにどんどん動くんです。そうして提供されたものを活用するために動いてくれる個人も何かしらの企業に属していたり、個人として何かしらの能力を持っているので、所属企業のリソースや個人の能力を返してくれるようになる。そういうものの中から新しいビジネスが始まったり、個人同士の横のつながりで新しいことが始まるようになるんです」

イベントで重視しているのはユーザー側のやりたいことに寄り添うことが大事だと川井さんは考えている。

「例えば3Dモデリングのワークショップでスマホケースやマグカップを作って基礎を学ぶというワークショップ。それはそれで勉強にはなるけど、作ったものが全然欲しいものじゃないんですよね。

だからこそ僕らは魅力的なミニ四駆のボディを作ろうとか、アクセサリーとか、参加者がほしいと思えるもので、作ったあとも『あそこをああしたい、こうしたい』って自分で繰り返せるものを選んでいます。そういうものが個人のスキルを伸ばすには一番向いている気がします」

海外に広がるネットワーク

台湾の首都、台北市にあるFabCafe Taipei。海外拠点の1号店でもある。(撮影:越智岳人) 台湾の首都、台北市にあるFabCafe Taipei。海外拠点の1号店でもある。(撮影:越智岳人)

現在FabCafeは国内に3拠点(東京、飛騨、京都)、海外に7拠点あり、海外拠点はロフトワークと資本関係のない形で運営している店舗もあり、基本的には独立採算で運営している。FabCafeのコンセプトに共感し、いくつかの条件がクリアできれば、誰でもFabCafeという名称を使って施設を立ち上げることが可能だ。

海外からの出店の相談や見学も少なくないが、FabCafeの運営はカフェ、工作機械利用、現地でのエージェント機能と多岐にわたるため、運営は決して楽ではないと川井さんは彼らに釘を刺すという。

「3つ同時に立ち上げるわけなのでオペレーションも違うし、リソースも普通にカフェや工房を単体で立ち上げるよりも遥かに大変。カフェなんてなくてもいいじゃんって言われることもあるんだけど、東京でうまくいっている要因の一つはカフェがあること。カフェがあるからこそ人が集まり、場が提供できていることは間違いない。それに加えて地域のコミュニティと繫がっていることも大事で、その国のクリエイティブな人たちに会いたい時に最初のエントランスになるというのが理想です」

FabCafeの2階にある「FabCafe MTRL(ファブカフェ・マテリアル)は、作業やプロジェクトに集中したい人たちに向けたコワーキングスペース(撮影:加藤甫) FabCafeの2階にある「FabCafe MTRL(ファブカフェ・マテリアル)は、作業やプロジェクトに集中したい人たちに向けたコワーキングスペース(撮影:加藤甫)

カフェとして料理の質や居心地の良さや、工房としての使える機材や加工サービスの充実ではなく、あくまでも、それらが融合した場に集まるコミュニティがFabCafeの存在意義と川井さんは考える。今後は各FabCafeがネットワークとして活動する量を増やしていくことが今後の目標だ。

ファブ施設の運営者自身が楽しんでるか

都市圏だけでなく、地方都市や農村地まで増え続けているファブ施設。川井さんは現状をどう見ているのか。

「視察に来る人の多くがコンテンツを求めている印象はありますね。FabCafeはコミュニティとして運営している側面もありますが、経営として規模を拡大していくためにはコンテンツしかないと思っています。例えば、最近渋谷に作ったパナソニックの100BANCHに対して、ロフトワークやFabCafeが運営も請負いコンテンツを提供している。自分たちが持っているコンテンツを活用して、イベントやワークショップに展開したり、他の場所にも持ち込めるようになることもビジネスとして施設を継続していくためには大事だと思います」

但し、マネタイズ可能なコンテンツの源泉にはコミュニティが存在し、そのコミュニティに所属する人たちや企業の間でギブ・アンド・テイクが成立している状態が必要だ。

新しいテクノロジーをプロトタイピング的に体験できるか、そしてそこからコミュニティへと発展できるかを常に判断基準に持っていると川井さんは話す。 新しいテクノロジーをプロトタイピング的に体験できるか、そしてそこからコミュニティへと発展できるかを常に判断基準に持っていると川井さんは話す。

「FabCafeのリソースを活用しているかっていう判断基準は他のファブ施設に対しても言えると思います。そこで働いている人たちが、そこにあるリソースを使って楽しい環境を作っていなければ、お客さんに何も伝わらない」

運営者自身がまずは目の前にある環境から何かを生み出そうとしているか。自分たちの特徴を理解しているか、それらが起点にあることが場作りの起点だと川井さんは自らの経験を踏まえて話す。

その土地に集まるクリエイターとのコミュニティを重んじながら、各地にネットワークを広げているFabCafe。今後はFabCafeに集う各地のクリエイターが他のFabCafeとも気軽に繫がり、新しいアクションを起こせるようなきっかけを作っていきたいと川井さんは今後の抱負を語った。

現在、香港など新しいFabCafeのオープンも計画されており、今後もFabCafeを起点にしたコミュニティは増え続けるだろう。

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