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Shojinmeat Projectインタビュー

筋肉細胞を培養して作る食肉“純肉”の開発に挑む——世界が注目するDIYバイオハッカー集団「Shojinmeat Project」

実験器具のコストを5分の1に

——DIYバイオを始めるに当たってのハードルは何でしょうか?

田中

田中さん

「細胞培養に必要な実験器具や材料等がありますが、価格が高いものが多く入手するのが難しいです。身近なものを使ったり、置き換えたりして、日々コストを下げられないか試しています。

例えば、研究機関で使われているような高価なCO2インキュベーター(温湿度とCO2濃度を一定に保つ装置)は100万円を超えてしまう。Shojinmeat Projectでは、小型で安価な4万5000円くらいのインキュベーター(恒温機能のみの装置)を購入しましたが、目的の温度を安定して保つことができなかったため、他との代替を考えていました。

代わりになるものはないかと探したときに、恒温機能を持つおしぼりウォーマーを見つけました。しかし、おしぼりウォーマーは温度を70℃に保つように設計されていて、目的の40℃を保つことはできないが、温度を下げるために、おしぼりウォーマーに流す電圧を調整してみたら温度を下げることに成功しました。おしぼりウォーマーと電圧を調整する部品だけなら合計1万5000円くらいで済みます。さらに、電子工作の得意な颯汰くんが、その辺で見つけた発砲スチロールの箱に温度を上げる部品と温度感知センサーを取り付けて開発したら、実験で十分使えるものが1万円くらいの価格で作ることができました。 」

電子工作で温度を保つ実験器具インキュベーターを開発した高校生の金子氏。 電子工作で温度を保つ実験器具インキュベーターを開発した高校生の金子氏。
田中

田中さん

「温度に加えてCO2濃度も一定に保たないといけませんが、これまで使っていたものは20回分で7000円も掛かりました。結構頻繁に交換しないといけない材料です。もっと安い材料でCO2濃度の環境を一定に保てる方法はないものかと考えて、掃除用の重曹にクエン酸と水を入れて実験したところ、CO2を発生させることに成功しました。重曹やクエン酸であればスーパーやコンビニで入手できます。価格も350円で200~300回分にもなります。」

——Slackで作り方を教え合っていますか?

岡田

岡田さん

「結構地道に試しながら作る方法を見つけています。誰かが試したことを共有し、また誰かが別の方法を試してみる。SlackやTwitter上で情報を増やしながら、メンバー同士でお互いに実験方法を広げています。」

金子

金子さん

「ハードウェアの作り方は、GitHub等に掲載されています。自分で作ることができれば、実験器具のコストも5万円から1万円に削減できるし、あと追加で1万円を出せれば、CO2濃度の制御もできるようになります。」

田中

田中さん

「実験器具も今からスタートするなら2万円もかからずに実験することができます。自宅でお手軽にできるようになりました。」

(遠心分離機のツイートその1)
(遠心分離機のツイートその2)

羽生

羽生さん

「試験管の液に浮かんだ細胞を遠沈(密度の異なる液体や、液体と固体の混合物を分離して沈殿させること)できると実験がはかどるので、遠心分離機も日用品で作りました。医療/実験用の遠心分離機は数十万円から数百万円と個人で気軽に購入できるような価格ではありません。試験管を扇風機の羽に取り付けて回せば、回転数によっては、100Gを発生させられるので代用できると考えました。 「ジモティ」という地域の情報掲示板で、無料で扇風機を譲ってもらって、扇風機の羽1枚ごとに試験管を1つずつガムテープで貼り付けて、恐る恐る電源を入れて動かしてみたら、細胞を沈殿させることに成功しました。 」

——DIYバイオをアートにも活用しているんですか?

羽生

羽生さん

「DIYバイオをアートに活用すると、研究器具や培養液を使って細胞を好きなように培養することができます。この細胞を長期間保つために、田中さんの自宅にあるクリーンベンチ(ほこりや雑菌の侵入を防ぎながら作業ができる装置)で作業し、同じく彼の自宅のインキュベーターで保管してもらっていました。」

岡田

岡田さん

「写真の真ん中が私の皮膚片です。ハート形に切り出して、細胞を生きたまま、培養液に入れて展示しました。細胞は田中さんの自宅で保管してもらいました。」

田中

田中さん

「岡田さんから依頼されて自宅で保存していましたが、2017年の頃は、岡田さんと知り合ったばかりで、特に仲も良かったわけでもなく、自宅に帰ると岡田さんという女の子の生きた細胞、皮膚片がインキュベーターにある生活を2カ月間も送り、なかなか貴重な経験だったと思います。」

細胞培養をアート分野で活用し、バイオアートを広げている岡田氏。 細胞培養をアート分野で活用し、バイオアートを広げている岡田氏。

——細胞から培養した肉を食品として流通させるための法律は整備されていない状況と聞きますが、この活動を通して変化はありましたか?

羽生

羽生さん

「Shojinmeat Projectで情報発信を続けていたら、科学技術振興機構(JST)の方が新たなプロジェクトを立ち上げるきっかけとなり、農林水産省の若手の人たちも細胞農業を未来の農業として具体的に考え始めたそうです。

「細胞農業」という言葉も広がってきていますが、言葉自体は我々が作ったものです。九州のメンバーがWikipediaに載せたことで皆さんがこの言葉を使うようになりました」

——今後の展開について教えてください

羽生

羽生さん

「Shojinmeat Projectとしては、細胞農業を大衆化/民主化し、ゆくゆくは火星で食肉を培養することを目標としています。また、近くShojinmeat ProjectからNPO法人を起ち上げて、高校生と町工場のタッグで純肉培養の装置がつまった宇宙機を作り、月面に送ることを考えています。それぞれの個人が、自由な形で参画するShojinmeatのプロジェクトをきっかけに、バイオテクノロジーの教育普及と未来の食について興味を持ってもらえるとうれしいです。」

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