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TAC高垣徹氏インタビュー

Maker Faire Tokyoがきっかけで“好き”が仕事になる——大人の自由研究をビジネスにする方法

2012年から始まったものづくりの祭典「Maker Faire Tokyo」(以下、MFT)。2012年から2018年までの6年間、毎年のように新しい作品を作っては展示し続けているMakerをご紹介したい。

京都で各種制御用マイコンボードの製造を生業とする高垣 徹氏は、ものづくりとは無関係だった高校生時代、急性肝炎で入院したことを発端に電子工作に興味を持ち始める。大学卒業後は、父親が副業で営んでいた工場用の汎用マイコンボードメーカーを受け継いだ。専門知識もないところから20年間、電子回路設計を勉強しながら汎用マイコンボードを設計してきた。マイコンボードだけでなく、自分でも部品を組み上げて完成した製品を作ってみたい。MFTに作品を展示することで少しずつ仕事の幅を広げられないか。仕事の合間の“大人の自由研究”として作り始めた作品が、どのような経緯で仕事につながり、広がりを見せたのかお話を伺った。

「トランジスタ技術」で電子工作の基礎を学ぶ

——ものづくりを始めた引き金は何だったのでしょうか?

高垣:幼い頃、父親が副業でTACを起ち上げて工場用に汎用の制御用マイコンボードを販売していました。高校生時代に父親ががんで亡くなった後も、TACには絶えず注文が入っていたため、母親がその会社を引き継ぎます。TACでは父親の残した汎用基板の商品を販売していました。手載せで基板実装し、私もはんだ付けを手伝っていましたが、電子工作に興味はありませんでした。

興味を持ち始めた発端は、大学生時代に私が急性肝炎で入院したとき、暇な時間に読んだ電子工学専門月刊誌「トランジスタ技術」(以下、トラ技)です。退院後、トラ技を読みながら、今でいうところのLチカから試していました。当時は基板設計CADはあまりにも高価だったので、代わりに古いテーブルの中央をのこぎりでくり抜いて、ガラスと蛍光灯を取り付け、透明のフィルムにテープを貼って基板設計をしていました。

大学卒業の頃、TACはほとんど売上がなく、廃業寸前でした。世間はバブルでどこにでも就職ができるような状況でしたが、電子工作に関心が出てきたこともあり、母親や周囲の反対を押し切って、分からないことはその時勉強すれば良いと、自分で汎用の制御マイコンボードの設計から販売までしてみようと父親の会社を受け継ぐことを決意しました。

トラ技を読んで電子工作に興味を持ったと語るTAC代表の高垣氏。 トラ技を読んで電子工作に興味を持ったと語るTAC代表の高垣氏。

——学生時代から専門的なことを学んでいたのでしょうか?

高垣:大学で専門知識を学んでいたわけではありませんが、作業を進める中で分からないことはトラ技で学習し、実践しました。仕事に慣れてからも仕事を請け負うときは、自分の能力の1.5から2倍くらい勉強しないと作れないような仕事も受けるようにしています。もともとできる自信はあったものの、新しいことにチャレンジして自分の能力を広げていきました。

東日本大震災を契機に完成品を販売

——なぜMFTに出展しようと考えたのでしょうか?

高垣:TACは制御用マイコンボードの設計や販売が主な業務でした。2008年ごろから自分で考えた部品を組み上げて完成品を作ってみたいと思い始めていました。しかし、どんな製品を作ろうかと悩んでいた矢先に東日本大震災が発生しました。震災の影響とセシウムの計測に興味があったため、誰でも作れるガイガーカウンターキットを販売しようと考えました。それから3カ月後に50台限定でネット販売したところ、特に宣伝もしていなかったんですが、すぐに完売して驚きました。

ガイガーカウンターは、放射線の量を強弱で計測する装置ですが、スペクトロメーターなら放射線のエネルギースペクトルを測定し、おおよその核種が分かります。技術の習得も兼ねて、次にスペクトロメーターの製造にも着手しました。ガイガーカウンターは仕事と関係なく、自分で研究していたものでしたが、ガイガーカウンターからスペクトロメーターまで製造することができれば、今後の仕事にも少しは役立つかもしれない。同じタイミングでMFT 2012の開催もあり、出展無料ということもあって、作ったものを展示してみようと思いました。

ガイガーカウンターキットの次に、広島大学と共同開発した携帯型ガンマ線スペクトロメーター 「T-GMK2-S」。 ガイガーカウンターキットの次に、広島大学と共同開発した携帯型ガンマ線スペクトロメーター 「T-GMK2-S」。

——MFTに出展していかがでしたか?

高垣:MFT 2012は放射線関係の作品が多かったです。来場者も研究者や知識が深い来場者が多かったこともあって、立ち話が始まると、小一時間は専門的な話や情報交換するようなときもありました。展示を足がかりに、スペクトロメーターに興味も持ってもらえる方たちとも知り合うこともできました。来場者から、スペクトロメーターに新しい機能が増えたら連絡が欲しいというお願いされたり、特注品を作ってほしいと依頼されたりすることもありました。会場で名刺交換した方から、後日、製品の注文をもらうこともありました。大学の教授や研究員の目に止まり、共同研究にもつながりました。

——MFT 2013の展示からスペクトロメーターを「スター・ウォーズ」のライトセーバーに変更した理由は?

高垣:MFT 2013は、より精度の高いガイガーカウンターとスペクトロメーター、新しく宇宙線のミューオン(ミュー粒子)を計測する装置も作って展示していましたが、周りを見渡すと、光るものや動くものの作品展示が増えていました。客層もファミリー層が少しずつ増えていて、会場内の雰囲気もガラッと変わっていました。周りの作品から刺激を受けて、作ったものをただ展示するだけだと、ちょっと面白くない。何か楽しんでもらえるようなものも作りたいと思い始めて、展示するものの方向を切り替えました。

自分が幼かった頃、スター・ウォーズが大好きでライトセーバーを一生に一度は作ってみたいと思っていたことをふと思い出し、市場に出回っているライトセーバーを調査し始めました。ハイクオリティに作り込まれているものもありましたが、ライトセーバーのグリップ部分は作り込まれていても、光るライトの部分は映画ほどのクオリティが出ていなかった。個人的に納得のいかない作りで、光りが暗いし光る時もなめらかじゃない。自分ならもっと良いものが作れると思いました。ちょうどいじり始めていたRGB LEDを使って光る部分を自分で作って、MFT 2014に出展することにしました。

MFT 2014年に展示したライトセーバー。誰でも作りやすいように、中身を見せている。外装は旋盤で削って加工した。 MFT 2014年に展示したライトセーバー。誰でも作りやすいように、中身を見せている。外装は旋盤で削って加工した。

リアリティを追求したライトセーバーを展示

——スター・ウォーズのライトセーバーを展示してみて反応はいかがでしたか?

高垣:手作りでリアリティを追求できたことで、会場では注目を浴びました。ライトセーバー好きの方に販売してほしいと言われたり、一緒に展示したゲームコントローラーで操作できるR2-D2もキット販売してほしいと相談されたりしました。ライトセーバーは、2014年から2018年まで毎年のように展示していますが、素材や作り方をアップデートしています。ライトセーバーは誰でも作りやすいように仕様を工夫していて、2014年はアルミを削って外装を作っていましたが、2018年では、ホームセンターで販売している材料を使って制作しています。

MFT 2018年に出展したライトセーバーの最新版では、音に連動してLEDの光が変わる仕掛けも実装している。 MFT 2018年に出展したライトセーバーの最新版では、音に連動してLEDの光が変わる仕掛けも実装している。
MFTの来場者からR2-D2のキットとして販売してほしいと言われた作品。 MFTの来場者からR2-D2のキットとして販売してほしいと言われた作品。

——体験型のジェダイ・トレーニング・デバイスも展示されていましたよね?

高垣:スター・ウォーズをテーマに作品を増やしていて、「ジェダイ・トレーニング・デバイス」はジェダイが敵のビームをライトセーバーで跳ね返すシーンを意識して作っています。MFT 2016に出展したときは、壁面でLEDを点灯してビームを表現し、ライトセーバーを光ったところと同じ角度に合わせると、ビームが跳ね返って当たった箇所のLEDが点灯するようにプログラミングを組んで開発しました。センサーは、MicrosoftのKinectを使いました。プログラミングに時間をかけて作っていましたが、細かい演出に気がついてもらえることが少なかったので、2018年には演出方法を改善しました。

ジェダイ・トレーニング・デバイス2018

2018年バージョンは、ライトセーバーに(仮想的に)ビームが当たった箇所を光らせるのではなく、ビームに見立てたボールが飛んでくるようにしました。最初は卓球の球を使ったのですが、球が小さすぎて難しいと言われたので、100円ショップで売っているボールに変更するなど、球の大きさやスピードを改良しました。ライトセーバーにボールが当たると振動を感知して、ポール上部に付けたボールのLEDが光るようにもしています。会場の遠くから少しでも気づいてもらえるように考えて工夫しました。

ライトセーバーとBLEで通信し、ライトセーバーにボールが当たったときの振動でLEDがフラッシュする。ケースは100円ショップで買ったろうとを2つ重ねている。 ライトセーバーとBLEで通信し、ライトセーバーにボールが当たったときの振動でLEDがフラッシュする。ケースは100円ショップで買ったろうとを2つ重ねている。
MFT 2018に展示した最新の「ジェダイ・トレーニング・デバイス」。左右のバケツにたまったボールが、塩ビパイプを通ってビームの代わりに飛んでくる。人を認識し、移動しても常に心臓の位置を狙う。 MFT 2018に展示した最新の「ジェダイ・トレーニング・デバイス」。左右のバケツにたまったボールが、塩ビパイプを通ってビームの代わりに飛んでくる。人を認識し、移動しても常に心臓の位置を狙う。
ものづくり実験用のラボ。京都のものづくりコミュニティから「一人メイカースペース」と呼ばれている。 ものづくり実験用のラボ。京都のものづくりコミュニティから「一人メイカースペース」と呼ばれている。

——ジェダイ・トレーニング・デバイスも仕事になりそうですね

高垣:ジェダイ・トレーニング・デバイスは、まだ仕事にはつながっていませんが、ライトセーバーは、紅白歌合戦で使いたいと相談がありました。紅白歌合戦で使われることは、結果的に実現しませんでしたが、MTRL KYOTOのイベントにライトセーバーを持って遊びに行ったら、京都大学の教授とライトセーバーの話題で盛り上り、この出会いを足がかりに、雷が起こす原子核反応を陽電子と中性子で解明する研究プロジェクトに協力して、ガンマ線の観測用計測装置を製造することなりました。

ガンマ線の観測用計測装置。 ガンマ線の観測用計測装置。

今後の展望と、海外のMaker Faire出展

汎用の制御用マイコンボードの設計から自分自身でも製品を作ってみたいと考え、仕事の合間を見つけて普段使わない技術に触れてきた高垣氏。興味や関心をモチベーションに大人の自由研究から新しい作品を作る。

「昨年、中国の深センで開催されたMaker Faire Shenzhenに招待されたのですが、他の国のMaker Faireでもどういった反応があるのか見てみたいですね。まずはバンコク、その次はベイエリアへの出展を予定しています。最初は仕事につながればいいかなと思っていましたが、今は仕事のことは考えずに、来場者に楽しんでもらえる面白いものを展示することだけを考えています」と高垣氏。今後の作品やアップデートも楽しみだ。

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