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HAX Tokyoインタビュー

HAX Tokyoに聞く、成功するスタートアップと頼るべきアクセラレーターの条件

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起業 アクセラレータ
左からHAX Tokyo/住友商事の余語徹郎氏、HAX Shenzhenのダンカン・ターナー氏、HAX Tokyo アドバイザーの岡島康憲氏

深センとサンフランシスコを拠点にハードウェアスタートアップを育成/投資しているHAXが、住友商事とSCSKと共同で新たなアクセラレーションプログラム「HAX Tokyo」を開始した。HAXは2012年から現在まで約250社のスタートアップを支援し、直近ではBtoB分野のスタートアップを重点的に支援している。世界のスタートアップを知るHAXには日本がどのように映っているのか。そして、HAXとアクセラレーションプログラムを立ち上げる日本側の企業は、どのような思いでスタートアップを支援しようとしているのか。

HAXのマネージングディレクターであるダンカン・ターナー氏、HAX Tokyoを運営する住友商事の余語徹郎氏、そしてHAX Tokyoでプログラム面のアドバイザーを担当する岡島康憲氏にお話を伺った。

なお、HAX及びHAX Tokyoの概要や参加要件については、過去の記事を参照いただきたい。

世界最大級のハードウェアスタートアップアクセラレーター「HAX」の日本版がスタート
https://fabcross.jp/topics/event_report/20190819_hax.html

世界を知るHAXとは

——HAX Tokyoは従来から運用しているHAX Shenzhen(深セン)への橋渡しになるプログラムとのことですが、どのような特徴があるのでしょうか。

余語

余語氏

「注力しているのは現場におけるリアルなニーズや課題を解決するテクノロジーであり、ビジネスモデルに育てることです。どのようなソリューションであれば、ハードウェアスタートアップとして市場に受け入れられるのかを検証すべく、メンターや関係者と細かくメンタリングや議論することを意識しています。もう一つは量産に向けた地ならしです。東京で顧客や市場を見つけ、スムーズに量産に移れるよう深センとの連携を密にしています」

——ハードウェアスタートアップは、資金や量産でのハードルの高さから持続的な成長が難しいと言われていますが、HAXの卒業生は80%以上が存続しているそうですね。高い「生存率」を維持できているのはなぜでしょうか。

ダンカン

ダンカン氏

「採択しているスタートアップが優秀であることが前提にありますが、一つには資金調達をいかに効率的に行うかを徹底して教えていることが挙げられます。調達先の選定や利益の分配など過不足なく、適切なタイミングで行えるかが肝要です。

また近年はBtoB分野のスタートアップを重点的に支援していることも理由に挙げられます。ガジェットや家電などBtoC分野のスタートアップの場合、10万人以上に支持される製品を生みださなければいけませんが、BtoB分野の場合は極端に言えば顧客は一社でも成立します。顧客のニーズを深く知ることが成功につながり、中長期的な成長にもつながっていると思います」

余語

余語氏

「HAX Tokyoで言えば、これまでのノウハウを日本で共有できる点は他のアクセラレーションプログラムには無い特徴と言えるでしょう。グローバル志向のあるスタートアップであれば一気通貫で海外に進出できる可能性が高いプログラムだと思います」

——スタートアップはどのような基準で採択しているのでしょうか。

ダンカン

ダンカン氏

「一般的な投資家とやっていることは変わりませんが、強いて言えばHAXは2012年から運営していて、それ以前にもHAXを運営するSOSVを通じて多方面にネットワークがあるので、さまざまな方面からの評価を参照しています。

HAX Tokyoはシード期のスタートアップが対象なので、早い段階から創業メンバーの人格を知ることも深センで採択する基準の一つになっています。私たちのコーチングに対して、どのように受け止めるのか、困難な状況にいかに対処できるのか。そういった立ち居振る舞いを見て投資を判断することもありますし、良い会社であれば何度も投資するので、早い段階で支援できるのは大きな意味があります」

——HAXはこれまで250社以上のスタートアップを支援していますが、そのうち日本のスタートアップは1社(Sassor)のみと伺っています。なぜ日本からの採択が少ないのでしょうか。

ダンカン

ダンカン氏

「そもそも日本からの応募が非常に少ないことが理由の一つに挙げられます。2012年から現在に至るまで両手で数えられる程度の応募しかなかったのが実情です。HAXも何もしていなかったわけではなく、カンファレンスに登壇したりして、できる限りのプロモーションはしていたつもりです」

岡島

岡島氏

「HAXというよりも日本人側の英語アレルギーが大きな理由だと思います。特にハードウェアスタートアップは海外とのビジネス経験が少なく、英語に抵抗がある人が多い。結果的にはHAXでどのようなサポートが受けられるのか、イメージが持ちづらい状況が続いていたのだと思います」

——メイカームーブメントを通じて、ハードウェア開発の民主化が始まったとされていますが、一方で資金調達や製造面で苦戦を強いられる状況は変わっていないようにも思います。今後、スタートアップを巡る環境は良くなっていくのでしょうか。

ダンカン

ダンカン氏

「世界中のスタートアップが同じところで苦戦している状況ではありますが、一昔前に比べれば変化は起きていると言えるでしょう。一つ挙げるとすれば、今あらゆるハードウェアがインターネットとつながっている状態になろうとしています。センシングしたデータや機械学習した情報をうまく活用するためにハードウェアがある、というようにハードウェアの位置づけも変わっています。そうなるとソフトウェアやITやソフトウェア分野の投資家やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)もハードウェアスタートアップに関心を持つようになり、資金面の苦労は次第に解消されていくのではないでしょうか。

また、売上のモデルも変わりつつあります。ハードウェアのビジネスは長きに渡って何個売るかというのが基本でしたが、サブスクリプションモデルのような継続的な売上や一定期間に複数回売上を出すようなビジネスモデルが台頭しつつあります。販売利益だけが重要な指標ではなくなりつつあります」

 

オープンイノベーションの温度差は縮まるのか

——日本の製造業もスタートアップに対する関心が高まり、大手からの注文に依存する状況から少しずつ変化しているように見えます。今後、日本国内のスタートアップと製造業者の関係は良くなっていくと思いますか?

岡島

岡島氏

「一番のギャップは、スタートアップ側の資金と、製造業者側の最低受注金額のギャップにあると思いますが、それさえクリアすれば量産のハードルも越えられる環境になりつつあります。ギャップを埋めるにはスタートアップにとって低いリスクで資金調達できるかどうかが重要ですが、日本国内のVCやCVCは製造業にリスクを感じているように思います。彼らは製品に投資するのではなく市場に投資しています。そういう意味では広く市場を知る住友商事がスタートアップを支援することで、優れた技術と成長性のある市場をマッチングさせ投資を生むことに期待しています」

ダンカン

ダンカン氏

「テクノロジーに投資するだけでなく、ビジネスも回るようになれば、どんな投資家でも投資すると思います」

——住友商事ではこれまでIT分野を中心に投資していたと伺っています。ときには長期的なR&Dが必要となるハードウェアスタートアップをなぜ支援しようと思ったのでしょうか。

余語

余語氏

「単純に言えば、それが必要だったからです。IoTの時代になり、あらゆる分野でハードウェアは避けて通れない時代になりました。農業など一次産業でもドローンやセンシングシステムを活用しています。住友商事全体でもデジタルトランスフォーメーション(産業のデジタル化)からビジネストランスフォーメーション(事業構造の変革)にシフトしようとするなかで、ハードウェアは避けて通れません。難易度がITよりも高いことは承知の上です」

——大企業とスタートアップの連携については日本でも活性化している一方で、双方のスピード感の違いや意欲の温度差から、うまく機能していない例も多々あります。

余語

余語氏

「『こうなったらすべて変わる』という魔法はないので、地道に活動していくのが正攻法だと思います。さまざまな企業で「イノベーション推進」や「新規事業創出」と銘打った部署ができ、オープンイノベーションが一つのトレンドになっています。そうした状況のなかで私たちもHAX Tokyoという新たなチャレンジを始めました。こうした個々の取り組みの中から良い事例が生まれ、そこから大企業とスタートアップの双方が学ぶことを積み重ねることが最善策だと思います」

——HAXが考える「成功するスタートアップ」の条件とは何でしょうか?

ダンカン

ダンカン氏

「ニーズがあるにも関わらず誰も気づいていないことを見つけた企業は成功の確度が非常に高いと思います。またテクノロジーが難しすぎないことも重要です。スケールしやすく、1000個、1万個と量産できる技術であることもスタートアップの成功を左右します。組織としてはスピードが速く、柔軟性を持っていることが重要です。新しいことに挑戦することを恐れず、自分たちが持っていた仮説が間違っていたとしても、そこで見つけた新しい仮説や価値に向けて方向転換する勇気を持つことが大事です」

——同様にスタートアップにとって良いアクセラレーターの条件とは何でしょうか?

岡島

岡島氏

「いいアクセラレーターは担当者が前向きで、スタートアップに常に寄り添う姿勢があるという共通点があります。整った環境も重要ですが何よりもアクセラレーターのハートが重要です。担当者がスタートアップの熱量に劣らないマインドを持っているかというのもアクセラレーターの成功を左右すると思います」

※記事初出時、内容に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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