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世界最大級のハードウェアスタートアップアクセラレーター「HAX」の日本版がスタート

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アメリカのベンチャーキャピタルSOSV Investmentsが提供する、ハードウェアに特化したアクセラレーションプログラム「HAX」が、住友商事とSCSKとの提携のもと、「HAX Tokyo」を開始した。2019年7月23日に都内で開催された初のミートアップイベントでは、日本で開催に至った経緯や有識者によるスタートアップの動向などが語られた。

HAXおよびHAX Tokyoの概要について紹介すると共に、イベントの模様をレポートしたい。

深センとサンフランシスコ——地の利を生かすプログラム

HAXの母体であるSOSV Investments(以下、SOSV)は1995年に設立され、ハードウェア、ライフサイエンス、食料からモバイルアプリやブロックチェーンなど幅広い領域のスタートアップへの投資を行ってきた。

その中でもHAXはハードウェアに特化したVC/アクセラレーションプログラムだ。年間で開催される9本のプログラムに世界各国4000社からの応募があり、その中から採択された150〜200社のスタートアップがHAXからの支援を受けて事業化を目指す。

支援拠点は中国とアメリカの2拠点で、採択されたスタートアップは深センの開発拠点で試作品開発や量産設計を行った後に、サンフランシスコに渡り投資家や事業会社を回って資金調達や市場開拓を行う。ハードウェア開発のメッカである中国と、最も市場の大きいアメリカとに拠点を分けることで、効率的にプログラムを運用している。

以前、fabcrossで筆者が取材したM5StackもHAXの卒業生 以前、fabcrossで筆者が取材したM5StackもHAXの卒業生

資金調達や量産の壁により、持続的な成長が難しいといわれるハードウェアスタートアップだが、HAXの支援を受けた200社のうち9割以上の企業が存続しているという。

東京は深センに進むための登竜門

今回のHAX Tokyoは深センの前段階に位置づけられ、深センでのプログラムに採択されるレベルにスタートアップを引き上げることを目指しているという。

HAXの投資対象はシードステージ、つまり会社設立前後のスタートアップが対象だが、HAX Tokyoで採択するスタートアップの要件についてミートアップイベントでの説明と、運営サイドへの取材内容を整理すると以下のようになる。

技術面

  • 大前提として、開発する製品が広義の意味でハードウェアの範ちゅうであること。
  • HAX本体の投資対象である一般消費者向け製品、法人向け製品、ヘルスケア、産業用製品のいずれかに該当していること
  • HAX Tokyoが注力する技術領域として掲げているIoT、センサー、ライフサイエンス、ロボティクス、新素材を扱っていること

企業ステージ

  • 基本的にはHAX本体のプログラムと同様に、シードステージの法人、もしくは法人化を前提とした日本チームであること
  • 開発している製品は量産化設計前の段階であること

プログラムにはチームから最低2人以上が参加することを必須とし、1人のみの参加は不可。そして、HAX Tokyoのプログラムを終了後に深センでのプログラムへの選考にエントリーし、採択された場合には同プログラムに参加する意思があることとしている。

ここ数年、日本でも多くの企業がアクセラレーションプログラムを実施しているが、HAX Tokyoのように既存のアクセラレーションプログラムとの地続きになっているものは極めて少ない。深センでのプログラム終了後にはサンフランシスコに渡り、市場開拓や投資家へのプレゼンに回ることになるので、早期に海外市場を狙うスタートアップ向けのプログラムと言えよう。

当事者たちが語るハードウェアスタートアップの戦い方

イベントの後半ではエンジェル投資家としてWHILLやmoff、アクセルスペースなどのハードウェアスタートアップを支援するTomyKの鎌田富久氏が登壇した。

TomyKの鎌田富久氏 TomyKの鎌田富久氏

自身も携帯電話用Webブラウザを開発するACCESSの創業に参画し、東証一部上場まで導いた経営者としての顔を持つ鎌田氏は、2012年に国内のスタートアップへのエンジェル投資を開始。WHILLやユカイ工学、SCHAFTなどハードウェアスタートアップを含む20社以上に投資している。

日本国内の人口がピークを過ぎ、少子高齢化とともに減少傾向に転じているなかで、ロボットと人工知能による生産性向上は必要不可欠だとした上で、鎌田氏が「人口が右肩下がりになると経済は自動化/最適化を志向するようになり、シェアビジネスやサブスクリプションモデルのような新たな消費や豊かさを求めるようになる」と語った。

そうした右肩下がり社会において、ロボットや人工知能の役割は生産性向上が当面の主流ではあるが、新しい豊かさを生み出すために活用される時代が来るだろうと鎌田氏は予測する。

特にICT化が遅れている領域においてはAIやロボットによる技術革新の伸びしろが大きい。医療では患者のデータをビッグデータ化し、AIで解析することにより病気を未然に防ぐ予防医療や、検査機器開発や新薬開発におけるAIの導入、また回復期におけるリハビリ記録のデータ化とAIによる解析など、さまざまなフェーズでのAI活用が期待される。

また農業でも人工衛星やドローンを活用した農地のモニタリングや、センサーによる生育状況の管理/分析によって、より生産性の高い農業を目指す精密農業が実現できると鎌田氏は語った。

鎌田氏の投資先スタートアップの一部。医療分野では乳がん用の検査機器を開発するLily MedTechや高齢者のリハビリ支援にリストバンド型デバイスを活用するmoffなどに、農業分野では 接ぎ木の技術革新を推進している研究開発型のアグリバイオベンチャーのGRA&Greenや、数十の小型人工衛星をネットワーク化して、農地や森林などの観測データを提供するアクセルスペースに投資している。(出典:TomyKのWebサイト) 鎌田氏の投資先スタートアップの一部。医療分野では乳がん用の検査機器を開発するLily MedTechや高齢者のリハビリ支援にリストバンド型デバイスを活用するmoffなどに、農業分野では 接ぎ木の技術革新を推進している研究開発型のアグリバイオベンチャーのGRA&Greenや、数十の小型人工衛星をネットワーク化して、農地や森林などの観測データを提供するアクセルスペースに投資している。(出典:TomyKのWebサイト

次のセッションではスマートシューズを開発するno new folk studioの菊川裕也氏、パーソナルモビリティを開発するWHILLの杉江理氏、ロボットによる家事代行サービスを開発しているMira Roboticsの松井健氏が登壇し、一問一答形式によるパネルディスカッションが催された。

海外戦略について重視している点について、菊川氏は「クラウドファンディングを実施した最初の製品は75%のユーザーが海外だったため強く意識してはいないが、現在発表したばかりの製品(ORPHE TRACK)は、日本市場で検証をやり切った後に海外に出そうと考えている。日本でやり切ることによって、海外でも成功すると考えている」と国内市場を重視していると回答した。

アメリカ市場に既に進出しているWHILLの杉江氏は「ユーザーから見れば大企業の製品も、スタートアップの製品も変わらない。ウルトラCのような施策はなく、やるべきことを丁寧にやるというのが正解だと考えている。営業やプロモーションでも新しいことではなく、オーソドックスなことをしている」と地道な積み重ねの重要性を説いた。

また、大企業との連携においてスタートアップが考えるべきことは何かという質問に対しては、松井氏は「大企業にスタートアップが求めるのは事業化に対する本気度。来月には資金がショートするかもしれないなかで真剣に事業に打ち込むスタートアップと同じ本気度を企業側の担当者も持つべきで、判断を下す経営層に自分たちの事業をしっかり伝える担当者の熱量は重要」と回答した。

パネルディスカッションに登壇したスタートアップの創業者たち。(左から)Mira Roboticsの松井健氏、WHILLの杉江理氏、no new folk studioの菊川裕也氏、モデレーターを務めたJellyWareの崔熙元氏 パネルディスカッションに登壇したスタートアップの創業者たち。(左から)Mira Roboticsの松井健氏、WHILLの杉江理氏、no new folk studioの菊川裕也氏、モデレーターを務めたJellyWareの崔熙元氏

HAX Tokyoを運営する一社である住友商事によれば、今後もワークショップや業界別のミートアップを実施する予定で、詳細はHAXのWebサイトやSNSなどで案内するとのことだ。

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