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完全自動化を実現するのは、触覚を持つロボット——XELA Roboticsがセンサーに込めた未来

痛みを感じることなく、目的を遂行しようとするターミネーター同士の激しい戦い——映画『ターミネーター』は世界中の人を興奮させたのと同時に、アンドロイドに対する恐怖を植えつけた。

SFで描かれるロボットは触覚など皮膚感覚がないことが多い。むしろ触覚がないことがアドバンテージになっている場合もある。現実に私達の社会で使われているロボットも触覚を必要としないものが大半だ。

しかし、ロボットの皮膚に触覚を持たせることで、機能を拡張させようとするスタートアップが東京にある。Xela Robotics(ゼラ・ロボティクス)はロボットアームに触覚を持たせることで、これまで人間しかできなかった作業を自動化させようとするスタートアップだ。


さまざまな物体を壊すことなくつかみ、運ぶといった作業を正確に行うロボットアームを具現化すべく、触覚センサーに特化して研究・開発している。Xela Robotisは早稲田大学の菅野研究室からスピンアウトし、2018年に創業。現在は試作と開発を進めている段階だが、既に大手メーカーが実際の製造ラインに導入すべく検証しているという。

触覚を持つことによって、どのようなイノベーションが起きるのか。共同創業者でCTOのアレクサンダー・シュミッツ氏に話を聞いた。(取材:越智岳人、後藤銀河 撮影:加藤甫)

硬いものから柔らかいものまで正しくつかむ技術

名刺のような薄い紙を折り曲げることなく、正確につかむ。 名刺のような薄い紙を折り曲げることなく、正確につかむ。

多くの物流倉庫や製造ラインが自動化を進める中で、いまだ人の手に頼らざるを得ない作業がある。決まった製品を製造するラインでは問題ない作業でも、多種多様な商品を扱う倉庫では製品の形状や材質に合わせた繊細な感覚が求められる。

大手衣料チェーンのユニクロは物流関連のメーカーであるダイフクと提携して、倉庫の自動化を2016年から進めている。その結果、生産性は80倍に向上したが、省人化率は90%と、完全自動化の一歩手前に留まっている。同様にさまざまな商品を取り扱う大規模な通販や小売の現場では、商品のピッキングや箱詰めなどの作業の一部を人手に頼っている。この作業の完全自動化を実現しようとしているのが、Xela Roboticsのセンサーだ。

ロボットハンドの右指第一関節に取り付けられた黒い部分がXela Roboticsのセンサーだ。 ロボットハンドの右指第一関節に取り付けられた黒い部分がXela Roboticsのセンサーだ。
センサーに物体が触れると、3軸で力を検知する。この数値をロボットハンドにフィードバックすることで、力のかけ方を加減することができる。

ロボットハンドが物体をつかんだ際の圧力を、指にあるセンサーが前後・左右・奥行きの3軸で検知する。これによって、卵のような柔らかいものを割ることなくつかんだり、重い物体を落とさず正確に運んだりといった複雑な作業を、一つのロボットハンドで実現できる。

シュミッツ氏はオーストリア出身。2011年に来日し早稲田大学菅野研究室でロボットの研究を重ねてきた。

「2007年からイタリア技術研究所で触覚センサーの研究をしていました。そのころは小型の人型ロボット向けのセンサーを開発していましたが、より高度なセンサーを開発すべく2011年に日本に来ました」

Xela Robotics CTOのアレクサンダー・シュミッツ氏。オーストリア出身で、2011年に来日。早稲田大学菅野研究室の博士研究員を経て、2017年に同大学大学院の創造理工学研究科の准教授に就任。 Xela Robotics CTOのアレクサンダー・シュミッツ氏。オーストリア出身で、2011年に来日。早稲田大学菅野研究室の博士研究員を経て、2017年に同大学大学院の創造理工学研究科の准教授に就任。

早稲田大学では当初、ロボットアームの手のひら部分の研究に従事していたが、搭載していたセンサーに多くの企業が注目した。展示会での反響や問い合わせの多さから、センサー単体での製品化の需要に気付き、2018年に研究室のメンバーで創業した。

Xela Roboticsと類似のセンサーは既に製品化されているが、競合品と比べて最も実用的だとシュミッツ氏は意気込む。

「一番の強みは低コストであることと、コンパクトであること。競合品の価格は60万円から300万円であるのに対して、私たちのスキンセンサーは10万円台から導入可能です。またセンサー自体が非常に小さく、コンピューターに接続するケーブルが少ないので、既存の製造ラインへの導入も容易です」

シュミッツ氏が開発したセンサーを搭載したロボットアームのデモ。卵をつかんで曲面に沿ってなぞる。こうした動きができるのもボールをつかんだ指先に伝わる感覚をセンシングし、正確に処理しているからだ(出典:Nicebot)
風船や人間の頭部など繊細な対象物にドライバーを当てても、破損やけががないようアクチュエーターが動作する。(出典:Nicebot)

開発中のセンサーであるにも関わらず既にいくつかの大手メーカーが購入し、製造ラインに導入すべく検証しているという。2020年には実際の製造ラインでセンサーが稼働するようになるだろうと、シュミッツ氏は予測している。

AIが学習し、ピッキングする

多品種を扱う倉庫では取り扱う商品も日々変わる。形状や材質もさまざまな環境下で、一つ一つの商品の形状や硬さなどを人間がロボットに設定して運用するのは現実的ではない。しかし、AIによる機械学習を活用することでロボット自身が商品の扱い方を学べば、人を介在させる必要もなくなると、シュミッツ氏はAIとの親和性の高さに自信を持つ。

「昨年、Preferred Networksの研究者が私たちのセンサーを使い、ロボットによるピッキングを操作するシステムに関する論文を発表しました。この論文は2019年に開催された米国電気電子学会(IEEE)が主催するICRA(International Conference on Robotics and Automation)で、Best Paper Awardのファイナリストに選ばれました」

現時点ではセンサーのみを開発しているが、2022年にはセンサーと連動するAIやロボットハンド、ロボットアームもパッケージ化する計画だ。

「現在は物流におけるピッキングや梱包、ゲーム用デバイス、製造ラインでの導入に向けて開発していますが、その次に目指しているのはサービスロボットや手術用のロボットといった、より高度な技術が求められる分野です。まずは非生産的な仕事から人間を解放するようなソリューションに注力し、その次に市場性の高い分野へ進出する計画です」

ロボット系スタートアップと、日本の相性

単純作業から人間を開放したいと語るシュミッツ氏。 単純作業から人間を開放したいと語るシュミッツ氏。

エンジニア出身で現在も早稲田大学の菅野研究室で准教授を務めるシュミッツ氏にとって、ハードウェアスタートアップとして起業することは容易ではないことなのではないか。シュミッツ氏は「他の国で起業したことがないので比較はできない」と断った上で日本におけるスタートアップ支援の環境を肯定的に評価した。

「まず、ロボットの研究分野では日本は最先端に位置していること、それこそが私が日本に来た理由です。また、大学の中でもEDGEプログラム(文部科学省が実施する大学発のアントレプレナー育成事業)を通じて、事業戦略の策定やターゲットとすべき市場の選び方などを学ぶ機会が得られました」

センサーの製品化の発端となったのも、科学技術振興機構から1億円超の支援を受けて開発したロボットアーム「Nicebot」だという。創業2年目となる現在はハードウェアスタートアップとしての成長を加速させるべく、ハードウェアスタートアップに特化した国際的なアクセラレーションプログラム「HAX」に参加し、量産と事業開発面の支援を受ける予定だという。海外市場への進出も視野に入れるシュミッツ氏に、これからの人間とロボットの関係はどのように変わるのか尋ねた。

「ロボットと人間の関係は国によってもさまざまです。海外ではターミネーターなど人間を脅かすようなネガティブな存在として捉えている節もありますが、日本では鉄腕アトムやドラえもんのように肯定的な存在と見なしているように思います。私たちのセンサーやロボットアームが一般化し、ロボットと人間が協働する社会が確立すれば、誰もがロボットを仕事仲間だと考える日も来るのではないでしょうか」

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