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今の秋葉原で店を持つ価値——深圳直送ガジェットが集まる「Shigezone」

日本一の電気街、秋葉原。その地で70年の歴史を持つ東京ラジオデパートには、30を越す電子部品や電子機器の専門店が軒を連ねている。地下1階から地上3階まで歴史ある店舗が並ぶなか、2019年5月にトレンドを掴んだ商品の並ぶ店がオープンしたのをご存じだろうか。

店の名前は「Shigezone~深圳直送便~」。扱う商品はマイコンボードを中心に、電子部品や電子機器、深圳から取り寄せたガジェットなど広範囲に及ぶ。他では目にすることのできない掘り出し物がTwitterで話題になり、通販サイトに全国各地から注文が入ることも少なくない。

出店から1年半が経ち、コロナ禍による実店舗休業があってなお好調なShigezoneは、店主の茂田カツノリ氏が個人で運営している。歴史あるラジオデパートで、茂田氏の言葉を借りれば「新参者」として個人店を開くに至った経緯を伺った。
(写真:荻原楽太郎)

かゆい所に手が届く、Shigezoneの売れ筋商品

Shigezoneの店頭には所狭しと商品が並んでいる。まずは人気商品を紹介してもらおう。

こちらは0.01g単位で500gまで測れる、カウント機能付きのはかり。通常の計測に加え、カウントモードを使えば載せた部品の数を計算して個数を教えてくれる。小さな部品を数える作業がとても楽になるため、キット作家に重宝されている。

こちらは抵抗やコンデンサー、インダクター、トランジスター、LEDなどさまざまな部品の定格とピン配置を確認できる部品マルチテスター。説明書やデータシートと格闘する手間が減るため、部品を大量に扱う人ほど嬉しいアイテムだ。

取材時(2020年11月)に一番の売れ筋だったのが、こちらのHDMI→USB2.0ビデオキャプチャー変換アダプター 。HDMI出力のビデオをそのままパソコンで認識できるため、映像キャプチャーデバイスとして設定することで、ゲーム配信やRaspberry Pi の画面確認などに利用できる。ピーク時には1週間で500台売れたというこちらの商品、リピート購入も多いという。

他にも、はんだごての熱に耐えられる作業マットなど、かゆい所に手が届くようなラインアップが好評だ。分かる人には分かる、そんな品ぞろえだと感じられた。

ラジオデパートらしさを守り、自分で作りたいユーザーの心をくすぐる

Shigezone店主の茂田カツノリ氏。 Shigezone店主の茂田カツノリ氏。

秋葉原の歴史をたどると、第二次世界大戦終了後、米軍のジャンク品の真空管を扱う多くの露店が並び、飛ぶように売れていた時期があるという。その後、GHQによる露店撤廃令が敷かれたことを受け、露天がそのまま建物に移るようにして東京ラジオデパートが誕生した。

小学生の頃から秋葉原に通っていた茂田氏は、長年にわたって秋葉原の動向を見つめてきた。

茂田氏「いま電子工作で何かを作ろうとすると、Arduinoなどのマイコンボードが主流になっています。ハードウェアよりもソフトウェアで制御する傾向にありますが、真空管、トランジスター、ICという変遷をたどった秋葉原が、一部の店を除いてそうした変化に対応できていないように感じていました。

私自身は業務アプリのエンジニアとしてフリーで活動しており、55歳になってそろそろ落ち着こうかという時期ではあったのですが、『欲しいものが手に入らない』いう思いが強くなってきました。そこで、まずは中国にしかない最新のAIボードを友達と共同で購入してみたのですが、1個買うのも10個買うのも送料が同じだったりする。そのうち『店舗があった方が良い』と思うようになり、ネット通販を始めようとしたタイミングで、ラジオデパートに空きがあるという情報をつかみました」

意外に思うかもしれないが、ラジオデパートでは店舗の新陳代謝も起きている。2019年2月9日には多種多様なジャンク品が集う「秋葉原最終処分場。」、2019年3月30日にはアートユニット明和電機初となる「明和電機 秋葉原店」など、2019年には新しい店舗が立て続けにオープンした。

茂田氏「明和電機さんの出店を知り、ラジオデパートの事務局に出店条件を聞きに行くと、入居者組合による審査があると伝えられました。そこでは歴史ある建物の中で、店舗同士が競合しないことや、もともとのコンセプトを崩さないことが重視される。テナント料で儲けようという考えではないんですね。新参者として入らせていただくので、ラジオデパートにふさわしい商品構成を考えていきました」

Arduinoの互換ボードや拡張パーツが低価格で販売されている。中国価格+αで手に入る店は秋葉原でも珍しい。 Arduinoの互換ボードや拡張パーツが低価格で販売されている。中国価格+αで手に入る店は秋葉原でも珍しい。

秋葉原を歩けば抵抗やLEDといった電子部品は手に入る。はんだ付けをしない人に向けた完成品やガジェットを扱う店も多い。その中間にある、はんだ付けを前提にしたキットやマイコンボードのような、作る気持ちを刺激し、支えるアイテムに茂田氏はターゲットを絞っていく。

それを象徴するのが、Shigezoneの定番商品であるポータブルラジオだ。

一見すると普通のラジオだが、購入した状態では日本のFM放送を受信できない。背面を開け、付属したICを付け替え、抵抗を追加することで初めて国内のFMラジオを聴くことができる。言ってしまえば「すごく不便」なアイテムだが、その手間とハック可能性がユーザーの心をくすぐっていく。

じわじわと話題になったポータブルラジオは「Shigezoneの例のラジオ」としてTwitterやYouTubeを騒がし、多い時には1日に100台を出荷した。

茂田氏「多分、普通のラジオだったら売れなかったと思うんです。改造しないと使えないところに、どうやら“アキバ民“は引かれている。私も手を動かしてものを作るので、仕入れ時には『自分で面白そうと感じるかどうか』を基準に商品を選んでいます」

開店準備はMaker仲間と

Shigezoneの品ぞろえを支える、Makerとしての茂田氏の選定眼。小学生の頃にラジオやデジタル時計作りに興じて以来、しばらく離れていたものづくりへの情熱は、Maker Faireをきっかけに呼び起されたという。

茂田氏「小さいころは何かを作っても、周囲の人に褒められないので続きませんでした。はんだ付けや電子工作からずっと離れていたのですが、日本科学未来館でMaker Faireという素晴らしいイベントに出会いました。実用的じゃなくても、皆さんが自分で考えた面白いものに刺激を受けました」

久しぶりに自身で手を動かすようになり、ハッカソンにも毎週のように参加し、仲間たちと国外のMaker Faireにも共同出展した。fabcross連載「アジアのMakers」でおなじみの高須正和氏による深圳観察会に影響を受け、茂田氏も自身で深圳の工場見学を主催しながら、中国でのネットワークを築いていった。

写真提供:茂田氏 写真提供:茂田氏
茂田氏が主催したNeoPixel(マイコンで簡単に制御できるフルカラーLED)工場見学の参加条件は「NeoPixel商品で作ったものを持参すること」。工場長は自社製品ユーザーの来訪を大喜びで迎えてくれたという(写真提供:茂田氏) 茂田氏が主催したNeoPixel(マイコンで簡単に制御できるフルカラーLED)工場見学の参加条件は「NeoPixel商品で作ったものを持参すること」。工場長は自社製品ユーザーの来訪を大喜びで迎えてくれたという(写真提供:茂田氏)

Maker活動を通じて、国内外に仲間が増えていく。ラジオデパートでShigezoneを開く際も「鍵を手に入れた」とFacebookに投稿したその日に15人ほどが集まり、壁や床を一気にしつらえ一晩で開店準備が整ったというから驚きだ。

開店準備の様子(写真提供:茂田氏) 開店準備の様子(写真提供:茂田氏)

開店してからも「誰かしら秋葉原にいる」Maker仲間を中心に客が訪れる。開店当時は3階の一番奥まった場所にあり、告知もTwitterしか使っていなかったが、客足は順調だった。店舗の運営は茂田氏個人によるものだが、週に2日は仲間が店番に入ってくれる。

Shigezoneはラジオデパートの3階でスタートし、2020年6月末に1階に移転した。引っ越しにも仲間が駆け付け、これまた一晩で完了した。 Shigezoneはラジオデパートの3階でスタートし、2020年6月末に1階に移転した。引っ越しにも仲間が駆け付け、これまた一晩で完了した。

多い時には2カ月に1度深圳に訪れ商品を探すという茂田氏だが、仲間との情報交換がShigezoneの商品展開につながることもある。

たとえば、「ツイ廃用縦長液晶」と呼ばれる縦長ディスプレイは、本業でサイネージを扱う仲間が見つけたアイテムだ。もともと車のルームミラー周りで使うディスプレイだったが、向きを変えてパッケージに収めることで、ツイ廃(Twitterのヘビーユーザー)受けしそうなプロダクトに生まれ変わった。

仕入れたものをそのまま売るのではなく、手を加えて「Shigezoneオリジナル商品」として展開することにも注力したいそう。 仕入れたものをそのまま売るのではなく、手を加えて「Shigezoneオリジナル商品」として展開することにも注力したいそう。

茂田氏「運営自体は私が一人でやっていますが、コミュニティが存在するから成り立っているお店であることは確かです。仲間からはヒントをたくさんもらっています。告知力がない店で、秋葉原には縁もゆかりもない遠方の方が通販で商品を買ってくれるのも、Twitterの力ですよね」

秋葉原から海外へ

通販サイトも茂田氏が一人で実装した。 通販サイトも茂田氏が一人で実装した。

2020年3月には新型コロナウイルスの影響が大きくなり、Shigezoneも一時閉店を余儀なくされるが、ソフトウェアエンジニアのバックグラウンドを生かして通販サイト「Shigezone Online Store」を開設した。営業再開後も通販は続いているが、実店舗があることのメリットは大きいという。

茂田氏「実店舗をやっていると、お客さんの反応が直接分かります。たとえばある商品を見て誤解するお客さんがいたとしたら、それもひとつのヒントになりますが、通販だけだと、最初の反応が苦情になってしまいますから。また、秋葉原に実店舗があることで、安心してもらえる部分もありますね」

開店から1年半が過ぎた今、茂田氏はShigezoneの海外進出も目指している。

茂田氏「電子工作や中国製品のニーズは他の国にもあるはずなので、Shigezoneを海外にも出店したいんです。中国のアイテムは面白いものばかりですが、どうしてもクオリティにバラつきがある。日本で品質をチェックして、現地の法律や知的所有権をクリアしていけば、海外でもじゅうぶん価値を持たせられると思っています。

海外のMaker FaireやCESに行くと、マイコンやはんだを使ってものづくりをしている人をたくさん目にします。でも、海外には日本のように秋葉原がない。個人レベルで電子工作をしたいときに、ここまでちゃんとものがそろう場所は、秋葉原を置いて他にないでしょう。海外で店舗を出すときには、基本的な部品もそろえるため、人員も空間も、もう少し必要になりそうですね」

秋葉原の流れを追いながら、自分が欲しいものと仲間が欲しいものを織り交ぜて店舗を運営する茂田氏。その背景にはMaker Faireでの出会いや海外の見学、実店舗でのリアクションなど、リアルな場でのコミュニケーションが強い影響をもたらしていた。コロナで先行きが見えない現状ではあるが、Shigezone発のオリジナル商品や海外進出にも期待したい。

取材協力:Shigezone

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