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『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!』の著者に聞く

分解してわかった、100円ショップのガジェットに秘められたストーリー

LED電球にマウス、スピーカーにバッテリーチャージャー……。100円ショップに行くと、「え、これがこの値段で!」と思わずにはいられない電子機器がたくさんある。その安さと機能の秘密を探るべく、精密ドライバーやヒートガンを片手に挑んだ一人のMakerがいる。2020年に『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!』(工学社刊)を出版した山崎雅夫さんだ。分解の魅力について、山崎さんに語ってもらった。

趣味の「分解」が連載記事になるまで

山崎さんは、ここ数年100円ショップで見かけるようになった電子機器に興味を覚えた。エンジニアである同氏は分解して中身を分析してみることに。その模様は月刊誌「I/O」で連載され、『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!』というタイトルで単行本にまとめられた。コロナ禍で巣ごもり需要が増す中、Makersの心を捉え、評判を呼ぶ。2021年1月には第2弾『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる! Part2』も出た。

——100円ショップのガジェットを分解し始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

山崎:始めたのは2017年ごろでしょうか。「USB電子ライター」というのをダイソーで200円で売っていて興味を覚えました。分解して中身を調べ、回路図を描いたのが最初の分解だった気がします。

特にびっくりしたのが、「LED電球」です。通常の電気店で1000円以上していたものですから。分解してみるとアルミ基板や電解コンデンサーが使われていたり、ACライン用のコネクターも樹脂で絶縁されていたりして、思った以上にしっかり作られていました。

プラスチック部(右)と放熱部(左)に分解されたLED電球。放熱部にアルミのプリント基板が見えている。 プラスチック部(右)と放熱部(左)に分解されたLED電球。放熱部にアルミのプリント基板が見えている。

アルミ基板:放熱効果を持たせるため、アルミ板を用いた電子基板。一般的なプリント基板より高価。

——月刊誌「I/O」での連載はどんな経緯で始まったんでしょうか?

山崎:2018年の春ごろ、編集長に「なにか面白いネタ、ありませんか?」と声をかけていただき、「今、こんなことして、公開してるんですよ」と、noteでやっていたLED電球の分解記事を見せたんですよ。それが受けて、単発でしたが記事としてやってみようと。

記事で最初に分解したのは、「ワイヤレスBluetoothスピーカー」です。600円なんですけど、ちゃんと保護回路付きのLiPo電池が入っていて「面白いね」となりました。読者にも好評で、その後も不定期で何回か記事化しました。毎月連載となったのは2019年8月からです。

ワイヤレスBluetoothスピーカーの筐体を開けたところ。 ワイヤレスBluetoothスピーカーの筐体を開けたところ。

LiPo電池:電解質にLiPo(リポ。「リチウムポリマー」の略)が使われているリチウムイオン電池。電解質に液体を使う通常のリチウムイオン充電池よりも発火しにくいなど安全性が高いが、やや高価。

——連載にあたって苦労した点はありましたか?

山崎:手順をひとつひとつ写真にとっていくのが結構手間ですね。平日は仕事があるので土日にやるのですが、分解して撮影するのに2日、中身を調べて記事を書くのに2日かかります。趣味の時は興味ある部品しか調べなかったのですが、連載になってからは、中に入っているものはひととおりチェックすることにしたので、大変でした。特にチップ。モールドを削って露出させ顕微鏡で見てと、できる限り追及しました。回路図に起こすのも楽ではありませんでした。

——回路図が出ていることが記事の魅力のひとつだと思うのですが、いかがでしょうか?

山崎:ネットにもガジェット分解の記事はあるのですが、たいていは「バラしたらこんな部品がありました」までです。私はちゃんと性能も調べて、嘘っぽい部品があればそれもはっきりさせたい。やっているうちに、回路図まで描くようにしました。読者にとっても、回路図を追うことで各部品の機能なども知ることができるので、役に立つと思います。

モールドを削り、露出させたチップを顕微鏡で観察。 モールドを削り、露出させたチップを顕微鏡で観察。

ユニークなガジェットたち

山崎氏の分解の手順としては、まずガジェットの筐体を外し、電子部品や基板を取り出す。基板に搭載された主要部品は、型番などからメーカーを調べ、データシートなどを入手する。チップがモールドで覆われていれば、削って露出させ、顕微鏡で観察してパターンを調べる。情報を整理して回路図を描く。最後に分析のための機器を使って性能を確認する。見事な徹底ぶりだ。

——最も反響が大きかったガジェットは何ですか?

山崎:「ワイヤレスマウス」ですかね。初めてモールドを削り、無線子基板に載っていたチップの顕微鏡写真を撮り、読者に見せました。みんな驚いたようですね。分解マニアでも型番を調べるぐらいまではやりますが、「チップを見る」ところまでやる人はあまりいませんでしたから。

ワイヤレスマウスの無線子基板に載っていたチップの顕微鏡写真。 ワイヤレスマウスの無線子基板に載っていたチップの顕微鏡写真。

——調べるのに手間がかかったガジェットは何ですか?

山崎:ダイソーの「4WAYキッチンタイマー」ですね。チップを調べたのですが、最後まで素性が追えませんでした。最初、基板上に型番らしきものが見えていたので、それを手掛かりに追ったのですが出所不明。似たような機能のチップがあれば、そこから推測して回路図も描けるのですが、それも見つけられず。結局、回路図はチップのパターンからひとつひとつ接続先を特定していき、なんとか形にしました。

4WAYキッチンタイマーのチップ。樹脂モールドを削って露出させた。 4WAYキッチンタイマーのチップ。樹脂モールドを削って露出させた。

——一番驚かされたガジェットは何ですか?

山崎:ラジコンカーですね。税抜き価格600円と100円ショップのガジェットとしては高額ですが、最初見つけた時は信じられませんでした。遊んでみても問題ない。問題なく動くということは、設計もそれなりにきっちりしていることを意味します。主な動作はワンチップで制御していると思いきや、意外にアナログ回路を使っていることが分かりました。リモコン側では、チップは速い信号を扱わないようにしてコマンドだけを送り、送信は水晶を使った発振回路で制御しています。車体側では、アナログのトリマーコイルで同調回路を調整して信号を受け、チップのオペアンプでフィルタリングしてから、チップでコマンドを受ける構造になっています。「枯れた」技術なんだと思いますが、ちゃんと動くように歩留まりをあげるのは大変です。たぶん標準設計みたいのがちゃんとあって、それでやってるんだろうなって思います。

100円ショップのラジコンカー。本体のシャーシを外し、中身を観察。 100円ショップのラジコンカー。本体のシャーシを外し、中身を観察。
ラジコンカーの回路図。アナログの同調回路、検波回路が使われている。 ラジコンカーの回路図。アナログの同調回路、検波回路が使われている。

オペアンプ:「operational amplifier(オペレーショナル・アンプリファイア)」のこと。「演算増幅器」ともいう。微弱な信号を増幅できる集積回路。
フィルタリング:入力された電気信号から特定の周波数成分を取り出したり、帯域に制限をかけたりすること。

——分解したガジェットから、工作に使える部品を取るようなことはありますか?

山崎:LiPo電池はよく使います。個人で入手するときは数百円で買ったガジェットから部品取りした方が効率いいです。3〜4年前は、しばらく放置しておいたら膨張するような粗悪品もありましたが、最近はLiPo自体に保護回路が内蔵されていて、膨れるようなものもあまりありません。工作で使うには十分です。あとマウスに付いているダクトスイッチやロータリーエンコーダーなんかもよく使います。セリアで売っている「乾電池USBチャージャー」も役立ちます。乾電池1本でも5Vで100mAを切るぐらいならちゃんと性能が出るので。マイコンとモーターを同時に1つの電源で動かすとき、モーターが回って電圧が下がったのを補ってくれるので、マイコンのリセットがかからず便利です。

100円ショップのガジェットを分解して取り出したLiPo電池。 100円ショップのガジェットを分解して取り出したLiPo電池。

膨張する:Lipo電池は、過充電や過放電などで劣化すると、内部にガスが発生し、セルを包むシートが膨張する。粗悪な製品でも同じことが起きる。
ロータリーエンコーダー:回転の機械的変位量を電気信号に変換し、この信号を処理して位置・速度などを検出するセンサー。マウスなどで使われる。
「乾電池USBチャージャー」(セリア)/乾電池でガラケーやゲーム機などを充電できるガジェット。iPhone、スマートフォンには使えない。セリアのロングセラー商品。

ガジェットから分かる中国のものづくり

——100円ショップの電子機器系ガジェットはほぼすべて中国製だと思いますが、分解してみて、日中のものづくりの違いとか感じますか?

山崎:「日本人はこんなリスクのある設計はしないよなあ」ということはよくあります。例えば、保護回路。バッテリーとかの電源ものを除けば、静電気で壊れるだろうってところに保護ダイオードが入れてあることはあまりないです。電源のパスコンもだいたい1μFぐらいしかついてない。壊れたら壊れたでお客さんに買い換えてもらえばいい、という発想なんでしょうね。そのあたりの割り切りはすごいと思います。

データシートがいい加減で、似ているよその製品のものをネットにあげてたりなんてこともよくあります。素性の分からない専用のワンチップICもよく見かけます。ピンの配置がPICなんだけど「明らかにこれPICじゃないよね」とか。チップを作っているところが優秀で、リファレンスデザインをドンと渡してみんなそれに従って作るという感じがしています。

分解すると「こういう電子部品があったんだ」と、新しい発見があります。ただ、日本で探してもなかなか手に入らない。独自のエコシステムがバックボーンで機能しているように思います。そのあたりはうらやましいですね。大胆な割り切りと充実したエコシステムが、低コストで性能を満たす中国製ガジェットを可能にしているのかもしれません。

パスコン:バイパスコンデンサーのこと。電源とGND間に接続されてノイズを吸収する役目を持つ。コンデンサーは高周波を通過させるので、電源のノイズ成分をGNDに逃がすことができる。
PIC:「ピック」と読む。Peripheral Interface Controllerの略。マイクロチップ・テクノロジー製のマイクロコントローラーのこと。安くて使い使い勝手もいいので電子工作ファンに人気。

分解の楽しみ

——これから100円ショップのガジェットを分解してみたいと思う人にアドバイスがあればお願いします。

山崎: 100円ショップのガジェットは、後で買おうと思うとなくなることがよくあるので、面白そうと思ったら即、買ってください。最初の1個としては光学式マウスなんかお薦めですね。分解しやすいし。ぜひイメージセンサーを顕微鏡で見てください。画素の数とか分かるので面白いと思います。道具に関しては、精密ドライバーやカッターなどの一般的な道具の他に、ヒートガンとUSB顕微鏡があれば十分かと。いずれも1万円以下で入手できます。さらにホットナイフや超音波カッターなどがあると便利です。
山崎さんのnote【100均分解】(番外編) 分解・解析に使っているツール

——山崎さんが考える分解の楽しみって何ですか?

山崎:ひとつひとつの部品を分析していくと「あ、こういう工夫をしてるんだな」とか、そういうことが分かるところでしょうか。確かにモールドを削ってチップを顕微鏡で見るだけでも楽しいのですが、回路図を描いてみると、こういうふうに動作している、こんな工夫がある、というのが分かります。それが楽しいですね。

100円ショップのガジェットを分解する魅力について語ってくれた山崎さん。 100円ショップのガジェットを分解する魅力について語ってくれた山崎さん。

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