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NISTEP、デジタルファブリケーションの将来シナリオを公開——開発、生産、流通、知財など一連プロセスの劇的な変化を予測

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の科学技術予測センターが、独アーヘン工科大学とベルリン工科大学の研究グループが2017年4月に作成した「デジタルファブリケーションの経済的および社会的影響に関する2030年の将来シナリオ」を紹介している。

今回NISTEPが紹介した調査では、文献レビューや多数の専門家インタビューを通じて得られたデジタルファブリケーションの将来シナリオについて、2つの異なる切り口でまとめている。まず、専門家間で合意度が高く、実現可能性の高いシナリオとして、デジタルファブリケーションが製品の企画から流通に至るサプライチェーン全体に影響を与えると予測する。

photo 実現性の高い2030年のシナリオ

具体的なトピックスとしては、製造プロセスでは、デジタル化により市場からのフィードバックにより頻繁にアップグレードがなされるため、製品ライフサイクルやランプアップといった従来のステージゲートモデルから変革すると予測する。

生産プロセスでは、デジタルファブリケーションの利用範囲がマルチマテリアル及び電子部品内蔵製品など大幅に広がり、例えばスペアパーツは都度現場で製造されるようになるとする。

そして個人消費者行動は、ファイル共有プラットフォームとオンライン購買を利用してデータファイルを入手し、個人やシェアされた3Dプリンターで作製するという形に変わる。

これに伴い、知的財産保護を念頭にしたファイル共有や製品流通に関する新しいビジネスモデルが開発されるとし、デジタルファブリケーションがバリューチェーン全体に大きな変革をもたらすと予測している。

photo ビジネスモデルと消費スタイルを検討軸とした4シナリオ

また別の切り口から、専門家間の合意性が低いものについては、見方がわかれた「ビジネスモデルの変革」と「消費者の購買スタイルの変化」の2つを検討の軸とし、広範で不確実性が高いとされるトピックスを以下の4つの領域わけて説明している。

まずシナリオ1は、「マーケットエクスプローラ」と定義し、ここでは既存のビジネスモデルは強化され、消費者の購買行動は、オンラインによる3Dデータなどのファイル共有へと移行するとみる。代表的なトピックスは、企業は新しい海外市場でのテストとして製品を輸出する代わりに、ファイルをオンライン販売することで効率化するといったものだ。いったん市場が構築されたあとは、製品の販売は従来通りという見方だ。

シナリオ2は、「コンテンツプロバイダ」と定義し、デジタルファブリケーションが新しいビジネスモデルの構築に利用され、かつ消費者の購買もオンラインによるファイル共用に移行するケースだ。この場合、メーカーはデザインのみを行い、製品ではなくデジタルファイルを提供する形へと、企業のビジネスモデルが根本的に変革すると予測する。

シナリオ3は、「サービスプロバイダ」と定義し、ここではデジタルファブリケーションの利用は既存のビジネスモデルの強化であり、消費者の購買行動も従来から変わらないとみる。このシナリオでは、デジタルファブリケーションの利用は限定的だ。

シナリオ4は、「マスカスタマイザ」と定義し、デジタルファブリケーションを利用する新しいビジネスモデルで既存の消費者購買行動に対応する。すべてのユーザーに個別の製品を提供するが、製品需要を予測することで在庫を持つ必要はなく、大量生産の効率も維持したまま実現するとしている。

NISTEPによれば、これまで製造技術以外で、経済的及び社会的影響も含めたサプライチェーンに関する研究はほとんどなかったという。今回紹介した検討の中では、デジタルファブリケーションが従来の企画・デザイン・開発・製造・販売さらにはアフターケア・サービスまでのサプライチェーンを劇的に変える道筋を示す2030年の新しい姿の可能性を浮かび上がらせている。

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