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厚さわずか10原子、電子デバイス用超薄型ヒートシールドを開発

4種類の2D薄膜を積層した、厚さわずか10原子のヘテロ構造の電子顕微鏡による観察 (Image credit: National Institute of Standards and Technology)

スタンフォード大学の研究チームが、数種類の2D薄膜を積層することにより、厚さわずか10原子の電子デバイス用ヒートシールドを開発した。100倍も厚いガラスシートと同程度の高い熱遮蔽効果を持つことを実証したものであり、将来的にスマートフォンやラップトップ等の電子デバイスを、もっと薄くコンパクトにすることに活用できると期待される。研究成果が、2019年8月16日の『Science Advances』誌に公開されている。

電子デバイスのマイクロプロセッサー等から放出される熱は、ユーザーに不快感を与えるだけでなく、熱による誤作動を引き起こし、極端な場合にはリチウムバッテリを爆発させてしまう恐れもある。熱対策として、ガラスやプラスチック、或いは薄い空気の層をヒートシールドとして挿入する等の工夫が成されているが、電子デバイスの高性能化に伴って発熱量が増大する中で、薄くてコンパクトなヒートシールドの開発が課題になっている。

今回研究チームを指導する電気工学科のEric Pop教授は、「電子デバイスにおける発熱を、これまでと違う視点から、音の発生として捉えた」と語る。電子が回路を移動すると、回路材料中の原子と衝突し、原子振動フォノンを生じる。フォノンは可聴限界を遥かに超える高周波音であるが、大きな電流が流れるほど、多数のフォノンが生じ、人間はこれを熱として感じるという。

研究チームは、一般住宅で防音や断熱のために用いられる、ガラスシートの間に空気層を挿入した多重ガラス窓にヒントを得た。数種類の2D薄膜を積層することにより、各々の薄膜における質量密度やフォノン状態密度の違いを利用して、薄膜間の熱抵抗を増大するのが狙いだ。

1原子層のグラフェンと、各々3原子層から成るMoSe2、MoS2、WSe2の2D薄膜をCVD法で積層し、合計10原子分の4層から成るヘテロ構造を作成した。この熱抵抗特性を計測したところ、これよりも100倍厚いSiO2よりも高い熱抵抗を示した。振動フォノンが各層を通過する過程で弱められ、多くのエネルギーを失うからであり、大きい熱遮蔽効果を持つことが判った。

今後、このナノスケールのヒートシールドを実用化するには、電子デバイスの製造過程で、薄い2D薄膜を積層する量産技術を確立する必要がある。またPop教授は、「電気をどのように制御するかは良く知られ、光についても大きな進歩を遂げつつある。だが、原子レベルの熱である高周波フォノンを、どのように制御するかは、理解し始めたばかりだ」と語る。今後研究チームは、電気や光を制御するように、材料中の振動フォノンを制御するフォノニクス分野の研究を進めていくとしている。

fabcross for エンジニアより転載)

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