グラフェンを用いたスマート繊維を開発——着用すると体温を下げる効果のある衣服への応用も可能
2020/07/24 08:00
インタラクティブな機能を持つ衣服を作るには、センサーやディスプレイ機能を布地に織り込む必要がある。英マンチェスター大学の研究チームは、グラフェンの優れた熱的特性と柔軟性を利用して、衣服内で動的に熱放射制御できることを実証する赤外線繊維デバイスを作製した。この研究により、暑い気候でも着用者の体温を下げることができるスマート衣類の開発が可能になるという。研究の詳細は『Nano Letters』に2020年6月18日付で公開されている。
厚さが原子1個分である2次元(2D)材料のグラフェンは、2004年にマンチェスター大学が世界で初めてその単離に成功して以来、さまざまな研究が進められている。その潜在的な用途は多岐に渡っており、電池、携帯電話、スポーツ用品、自動車などで既に実用化されている。
ヒトの体は赤外線スペクトルの電磁波という形でエネルギーを放射している。暑い時は熱放射を利用して体温を下げ、寒い時は体表からのエネルギー損失を最小限に防ぐために体を何かで覆うのが望ましい。
「熱放射を制御する能力は、過酷な気候下での体温管理などにおいて極めて重要であり必要なものです。しかし、周囲の温度が上下した際にこの機能を維持することは、未解決の課題でした。さまざまな形態の布地で光学特性の変調を実証できれば、繊維構造をどこでも活用できるようになり、繊維型ディスプレイ、通信、適応型宇宙服、ファッションなどにおいて、赤外線やその他の電磁波スペクトル領域の新技術を実用化できます」と研究を主導したCoskun Kocabas教授は述べている。
今回、研究チームは、繊維に織り込まれたグラフェン層の赤外線放射率を電気的に調整することで、熱放射を動的に制御することに成功した。この研究は、グラフェンを用いて赤外線カメラに探知されない熱迷彩(サーマルカモフラージュ)を作り上げるという研究チームの過去の研究がベースになっている。
この素材は、綿など量産されている繊維素材に組み込むことが可能だ。その実証のため、研究チームは、Tシャツの中に、肉眼では見えないが赤外線カメラでは読み取ることができるモールス信号を映し出すプロトタイプを作製した。
研究チームは、次のステップとして宇宙での利用を視野に入れている。地球を周回する人工衛星は、太陽に面した時は極端な高温になる一方で、地球の陰に隠れた時は凍えるほどの低温になる。今回の新技術を利用すれば、熱放射を制御して人工衛星を動的に熱管理し、必要に応じて温度を調節できるようになる可能性があるという。
(fabcross for エンジニアより転載)