MIT、超強力なサージカルテープを開発——内臓表面に貼っても5分ではがせる
2020/07/25 08:00
米マサチューセッツ工科大学(MIT)は、2020年6月22日、内蔵表面に利用できる医療用両面テープの改良を進め、溶液を塗布することで、生体組織に貼ったテープを滑らかなジェルのように剥離できるようにしたと発表した。研究成果は『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に2020年5月26日付で発表されている。
研究者らは、2019年の先行研究で、生体組織などの表面に素早く接着できる医療用両面テープを開発し、数秒以内に肺や腸の裂け目をふさいだり、インプラントやその他の医療機器を心臓などの臓器表面に貼り付けたりできることを示してきた。
今回、開発をさらに進め、接着した表面組織にダメージを与えることなくテープを剥がせるようにしたという。先行研究で開発したテープは、濡れた表面に接着する場合、薄い水分の層の上を滑ってしまうので、テープを表面に貼り付けた状態に保つことが難しかった。研究者らは、この課題を解決するため、おむつや薬剤などで利用されている高吸水性素材のポリアクリル酸を含む生体適合性ポリマーから、独自の接着材を開発。この接着材が持つ組織表面との弱い水素結合を強化するため、組織表面のタンパク質とより強固かつ継続的に結合する化学基のNHSエステルを接着材に混ぜ込んだ。
その結果、テープは非常に強く組織表面に貼り付くようになったという。しかし、結合を破壊することが難しく、テープを剥がすと組織に炎症反応を起こして治癒を長引かせてしまう問題があることが分かった。
そこで、接着材にさらに工夫を凝らし、組織表面のタンパク質との共有結合間に入り込む新しいジスルフィドリンカー分子を追加した。このジスルフィドリンカーの結合は強力だが、還元剤によって簡単に結合を切断できるという。
還元剤には、生体適合性があり、接着材の結合を適切に切断できるグルタチオンが選定された。グルタチオンは、ほとんどの細胞に自然に存在する抗酸化物質だ。ブタの心臓、肺、腸などさまざまな臓器や組織の標本上に置いたサンプルに、グルタチオンと炭酸水素ナトリウムを生理食塩水の中で混ぜ合わせた溶液を噴霧したところ、接着材が塗布されていた時間に関わらず、組織を損傷させることなく、約5分以内にテープを剥がすことができた。この経過時間は、テープ表面から接着材と組織が接している面に溶液が到達するまでにかかる時間だという。
また、研究者らは、還元剤がテープ全体に浸透するよう微細な穴をエッチングしたテープも開発した。インプラントと他の医療機器をテープで接着した際は、テープ表面に還元剤を直接塗布できないため、テープの端に還元剤を塗布するとテープ全体に還元剤が浸透して剥がせるようになる仕組みだ。
研究者らは、縫合糸を生体接着技術で置き換えることを大きな目標としているという。将来、開発されたサージカルテープと還元剤のボトルを手術室で利用し、外科医があたかもセロハンテープのように必要に応じて使う日が来ることが期待されている。
(fabcross for エンジニアより転載)