超音速微粒子の衝突に耐える超軽量「ナノアーキテクチャ材料」を開発
2021/09/26 07:00
高速微粒子の衝突に対して鋼やケブラーに匹敵する強靭性を有する、カーボンベースのナノアーキテクチャ材料(nanoarchitected materials)が、MITとカリフォルニア工科大学、チューリッヒ工科大学の共同研究チームによって開発された。人間の毛髪より細いカーボンストラットから構成される十四面体ナノ構造を繰り返し配列した超軽量のネットワーク状材料であり、衝突粒子のエネルギーを局所的に吸収することによって材料全体の損壊を防止できる。防衛産業や宇宙分野、防護服や防爆ガラス、機械やデバイスの保護コーティングなどへの応用が期待されるもので、研究成果が2021年6月24日の『Nature Materials』誌に論文公開されている。
微細な材料構造の配列をナノスケールで制御するナノアーキテクチャ材料について、さまざまな機能性物質の創成が模索されている。ナノアーキテクチャ材料が超軽量であり、ナノスケール構造に起因して特異な機械特性を持つと期待されることから、研究チームは様々な衝撃や衝突に対して高いエネルギー吸収能力を持つ可能性について検討した。
一方、「ナノアーキテクチャ材料の準静的な変形応答性は調べられてきたが、実際的な用途における高速変形条件での試験は殆んど成されてない」とし、高速衝撃など高速変形条件に対する応答性に関する研究にも着手した。高エネルギーレーザーを利用した二光子リソグラフィーによって、感光性樹脂によるナノアーキテクチャを造り込み、微細ストラットから構成される十四面体構造を繰返し配列するネットワーク状材料を作成した。
研究チームは「この幾何形状は、エネルギー緩和フォームにも従来から使用されているものだ」と説明する。残留樹脂を洗い流した後、高温真空炉において樹脂成分をカーボンに変換し、最終的にカーボンベースの超軽量ナノアーキテクチャ材料を得た。通常カーボンは脆いが、微細なストラット構造によりゴムのような延性材料に変質した。
得られた材料について、レーザー照射によるプラズマに伴って発生する、14μm径の酸化ケイ素粒子を用いた高速微粒子衝突実験を行った。微粒子速度を超音速の範囲を含む40~1100m/sに制御し、高速度カメラによって微粒子が衝突する瞬間を捕えた。その結果、微粒子は材料を横断的に切断損傷することなく、材料中に局所的に埋め込まれるように停止した。停止した粒子の直下の領域においてストラット構造は圧壊するが、周囲のナノ構造配列は無傷のまま残された。
「ストラットのナノスケールの圧縮圧壊メカニズムによって、衝撃の大きなエネルギーが吸収される。同一重量で比較すると、鋼やケブラー、アルミニウムより大きな衝撃エネルギー吸収能力を示し、優れた耐衝撃特性を有する」と、研究チームは実験結果を説明する。また、ナノアーキテクチャ材料が受ける損傷の程度は、流星や隕石の衝突による惑星のクレーター予測モデルと次元解析フレームワークを組み合わせて用いることにより、理論的に予測できることもわかった。研究チームは今後、様々なナノアーキテクチャ配列とともに、カーボンを超える他の材料における検討を行う予定だ。
(fabcross for エンジニアより転載)