数学モデルで海洋のマイクロプラスチックの動きを予測する
2021/10/04 07:00
英ニューカッスル大学の研究チームが、海洋を漂うマイクロプラスチックの動きを予測する解析的数学モデルを構築し、海面下におけるマイクロプラスチックの長期的な動きを誘引するプロセスを把握することに成功した。マイクロプラスチック表面における藻類の集積である「生物付着」が、軽くて浮きやすいマイクロプラスチック粒子の深さ方向への動きに大きな影響を与えることを明らかにした。世界的に深刻なプラスチックによる海洋汚染を抑制し、持続可能な海洋の生態維持に寄与すると期待される。研究成果が、2021年6月26日に『Limnology and Oceanography』誌に論文公開されている。
丈夫で加工しやすいプラスチックは世界中で様々な製品に使われているが、便利な反面、プラスチック廃棄物の一部は海洋に流出し、分解されずに半永久的に漂う。特に、深刻な問題になっているのが、直径5mm以下のマイクロプラスチックで、海面に存在するプラスチック破片の90%を構成する。
一方で実際に海洋に流出するプラスチックの総量は、海面に漂うプラスチックの推定量よりも遥かに多いとされている。マイクロプラスチックが海洋に流出した後、どのように拡散するかについては正確に判っておらず、マイクロプラスチックの99%の存在状態は不明、回収は極めて困難なのが実情だ。マイクロプラスチックは、自然に分解されることなく、軽くて波風に流されやすいため、半永久的に海洋に漂い続け、海流に乗って世界中の海洋に拡散する。海洋生物に有害な影響を与えるだけではなく、ひいては人体にも悪影響を与えると考えられており、マイクロプラスチックの海洋における動きを把握することは、プラスチック汚染を抑制する上で重要だ。
研究チームは、マイクロプラスチック粒子の海洋における長期的な動きを予測する解析的数学モデルの構築にチャレンジした。特に、マイクロプラスチック表面における藻類による生物付着が、軽くて浮きやすいマイクロプラスチックの深さ方向への動きに、どのような影響を与えるか検証した。その結果、生物付着したマイクロプラスチック粒子の特性変化が、海面下において繰り返し生じる深さ方向の上下運動に与える影響が大きく、藻類の個体群動態がマイクロプラスチックの到達最大深さを決定することを見出した。
更に、小さい粒子ほど藻類細胞の付着と成長を受けやすいことから、光合成に必要な光が差し込む有光層の下面に近い深さに沈むか、または大きな藻類コロニーに捕捉される。総合的に、生物付着したマイクロプラスチックの多くが、海表面ではなく有光層下面に近い深さに存在することが示唆された。
研究チームは、「開発した数学モデルは、マイクロプラスチックの海洋における動きと分布を把握することができ、海洋プラスチック汚染のホットスポットを特定するのに極めて有効といえる。持続可能な海洋の生態維持に貢献できる」と、期待を示している。
(fabcross for エンジニアより転載)