新しいものづくりがわかるメディア

RSS


圧電薄膜とメタサーフェスを組み合わせ、超小型バリフォーカルレンズを開発

MEMS上にPZT圧電薄膜リング(黄色)を導入し、リング内にメタサーフェスレンズを装着した半導体チップを搭載した。PZT圧電薄膜に小電圧を負荷することにより、メタサーフェスレンズの位置を変化させてレンズ系全体の焦点距離を動的に調整できる。/Image Credit: Christopher Dirdal, SINTEF Smart Sensors and Microsystems

ノルウェーの主要研究機関シンテフ(SINTEF)の研究チームが、圧電薄膜とメタサーフェスを組み合わせて、小電圧で焦点距離を迅速かつ高精度に変更できるレンズ系を作製することに成功した。極めてコンパクトで軽量なので、携帯型の医療診断機器やドローンによる3Dマッピング、超小型カメラなどに活用できると期待される。研究成果が、『Optics Letters』誌の2022年3月1日号に論文公開されている。

画像技術やセンサー技術など広範な光学システムにおいて、焦点距離を自在に変更制御できる技術が求められている。従来は、ステッピングモーターやローテーター、磁石などを用いていたが、軽量小型化が難しい、作動速度が遅い、消費電力が大きい等の問題がある。近年、半導体チップに機械要素や電子回路を集積したMEMSに、波長より小さいナノ構造を導入して人工的に光学特性を制御したメタサーフェスレンズにより、焦点調整機能を実現する研究が進められてきた。しかし、いまだに焦点距離調整範囲が十分でなく、また比較的大きな電圧を要する等の課題が残っている。

研究チームは、PZT(チタン酸鉛とジルコン酸鉛の固溶体)圧電薄膜を用いて、メタサーフェスレンズの焦点距離を制御することを考えた。MEMS上にPZT圧電薄膜リングを導入し、リング内にメタサーフェスレンズを装着した半導体チップを搭載した。同時に、2枚目のメタサーフェスレンズを装備して、1対のメタサーフェスから成るレンズ系を構成した。PZT圧電薄膜に電圧を負荷すると、2枚のレンズ間距離は変化して、レンズ系全体の焦点距離を動的に調整できる。

その結果、PZT圧電薄膜に23Vを負荷することで、1枚目のメタサーフェスレンズを7.2μm動かすことができ、レンズ系全体の焦点距離を約230μm変化させることに成功した。「最先端デバイスと比較しても、2倍の面間距離変動を1/4の電圧で達成できる」と、研究チームは説明する。MEMS上の電子回路で制御するので、機械的変位を高速で達成できるうえ、小電力で作動する。また、光学システム全体のサイズやコスト、重量を削減できるとともに、標準的なミクロまたはナノ製造技術により低コストで大量に製造できる。

開発した低電力駆動の超小型バリフォーカル(可変焦点)レンズ系は、携帯型の医療診断機器やドローンによる3Dマッピング、超小型カメラなど、サイズや重量、価格が重要である広範なセンサーや画像技術に活用できる。

「例えば、生体組織の様々な深さに焦点距離を調整して、神経や血管などの詳細な画像を得るのに役立つ。更に、より収束能力の高いメタサーフェスレンズの考案や、MEMS設計の最適化により、焦点距離調整範囲を拡大でき、新しい光学システム制御の道が拓ける」と、研究チームは期待する。

fabcross for エンジニアより転載)

関連情報

おすすめ記事

 

コメント

ニュース

編集部のおすすめ

連載・シリーズ

注目のキーワード

もっと見る