拳ほどの真空ポンプを3Dプリントで試作——へき地や宇宙での用途を開拓
2023/06/12 07:30
ポータブル質量分析計の重要部品である小型の「蠕動(ぜんどう)真空ポンプ」を、3Dプリントで形成する手法を、マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した。この研究成果の論文は、2023年4月25日付の『Additive Manufacturing』誌に掲載された。
質量分析計は、飲料水の安全性評価や患者の血液中の毒素の検出などで利用する、精密さを特徴とした化学分析装置だ。この装置の精度を確保するためには、ポンプ内の真空状態を維持する必要がある。
遠隔地への移動に適した、小型かつ安価な質量分析計の開発には、同装置の低コスト化のための真空ポンプの小型化が技術的に難易度が高く、課題となっている。
同装置の重要部品である真空ポンプの特徴は、同心円上に配置された5つのローラーが、その外周にあるチューブをポンプのハウジングに強く押しつけながら回転する動作だ。その動作により、液体や気体がチューブを通って搬送される。
ただし、回転中のローラーの力を受けたチューブは変形し、ハウジングとの間に隙間が生じて液体等が漏れる場合がある。一方で、この漏れを回避しようとポンプを高速で作動させると、温度が過度に上昇してポンプを傷めるという問題があった。
今回の研究は、素材を積層する3Dプリント技術「additive manufacturing」を活用した点が特徴だ。
まず、マルチマテリアル3Dプリンターを使って、大きな変形に耐える超弾性材料でチューブを作成した。次に、チューブの壁面に切り込みを入れて、ローラーからチューブにかかる圧力を軽減させた。さらにチューブの厚みは、コネクタに接続する部分で厚みを増やすことで、材料への圧力をさらに小さくした。
こうした独自の設計で、チューブ全体を1度にプリントすることに成功した。この技術により、組み立てが原因で起こる液体や気体の漏れを防ぐと同時に、ポンプ作動時の摩擦による熱の発生が最小化され、装置の寿命が延びる。
最終設計の性能は、最新のダイヤフラムポンプに対して1桁小さい圧力値の真空状態を作ることができた。標準的なダイヤフラムポンプで同じ真空度を得るためには、3台を接続する必要があるという。
また、今回試作したポンプは、運転中の最高温度が50℃に達したが、これは他の研究で使用したポンプの半分の数値だった。さらに、チューブを完全に密封するのに必要な力も半分で済んだ。
このポンプの用途には、例えば、世界の孤立した地域で土壌汚染を監視するダイヤフラムポンプが想定されている。また、軽量であることから宇宙用途として、火星へ向かう地質調査機器への適用も候補になっている。
研究チームは、将来的な計画として、最高温度をさらに下げる手段を検討する。また、小型化した質量分析計の全体を3Dプリントする方法の開発にも取り組んでいる。
(fabcross for エンジニアより転載)