スペインのINNengine、小型軽量「1ストローク」エンジン「e-REX」を開発中
2023/08/12 06:30
ガソリンや軽油などの燃料を空気と混合して燃焼させるエンジンは、吸気/圧縮/燃焼/排気の4つの工程を繰り返す内燃機関だ。大半のエンジンは、4つの工程を通してシリンダー(燃焼筒)の中をピストンが上下する往復運動を、回転運動に変えて出力する「レシプロエンジン」と呼ばれるものだ。
そのうち、出力軸が2回転、すなわち1個のピストンが2往復=4ストロークして4工程を完了するものを、「4ストロークエンジン」とよび、現在走っている自動車やオートバイのエンジンの大半はこの形式のものだ。
これに対し、ピストンが上昇する際に排気と吸気の圧縮を行い、下降する間に燃焼と排気を行うことで、出力軸が1回転=ピストンが1往復(2ストローク)するだけで4工程を完了する「2ストロークエンジン」と呼ばれるものがある。出力軸が1回転する間に各シリンダー1回の燃焼工程があるため、単純計算では出力軸2回転で1回燃焼する4ストロークエンジンの倍の出力を得られる。2ストロークエンジンは構造も簡単で安価に製造できるため、かつては多用されていたが、各工程がオーバーラップすることで未燃焼ガスが多くなったり、その構造上、潤滑オイルも燃焼してしまうなど、排気ガス対策が難しいという課題があり、今では一部用途を除いて使われなくなっている。
スペインのINNengineが開発している「e-REX」を、同社は「1ストロークエンジン」と呼び、2ストロークエンジンの2倍、4ストロークエンジンの4倍の出力を得ることができるとしている。
e-REXモーターもピストンを備えたレシプロエンジンで、ピストンが1往復する間に4工程を完了する2ストロークエンジン同様の燃焼動作を行っている。ただ、特徴的な点が2つある。ひとつは、1本のシリンダー内に2個のピストンが向かい合う形で配置されている「対向ピストン」型のエンジンだという点だ。もうひとつの特徴は、ピストンの底部はローラーを挟んで「cam-tracks」と呼ばれる波状に成形された出力プレートに接触し、上下運動を回転運動に変えているという点だ。
対向ピストンのため、出力プレートも両側にあり、シャフトで接続された2枚の出力プレートの間にサンドイッチされた4本のシリンダーと8個のピストンで構成されている。各ピストンは2サイクルエンジン同等の燃焼工程を繰り返すが、対向するピストンが燃焼室を共有しているため、出力軸から見ればピストンが1往復する間に「2回」燃焼サイクルがあることになる。これは4ストロークエンジンの4倍、2ストロークエンジンの2倍であり、同社が「1ストローク」と呼ぶのはこうした特性によるものだ。燃料を電子制御の気筒内噴射とすることで、掃気時に未燃焼ガスが入らないよう制御も可能だ。
同社によると、従来の2000ccエンジンに相当するe-REXは、4ストロークエンジンに必要なクランクシャフト、バルブ、カムシャフト、シリンダーヘッドといった構造を持たないため、4ストロークエンジンよりも55%の小型化と70%の軽量化が可能で、その重量はわずか35kgだ。
さらにe-REXは、両側のcam-tracksを接続するシャフトの位相をずらすことで、対向するピストン間の最短距離を変化させ、可変圧縮比を実現している。オンデマンドに圧縮比を変えられることで、エンジンの構造を変えることなく、使用する燃料や必要なエンジン出力特性に合わせたさまざまなコンフィギュレーションが可能になるとしている。
e-REXは、最先端の4ストロークエンジンの経済性と低排出ガスを、2ストロークエンジンのシンプルさ、多用途性、パワーと組み合わせたレンジエクステンダー用途に理想的な選択肢だとしている。
(fabcross for エンジニアより転載)