廃プラスチックを実質コストゼロでアップサイクル——水素とグラフェンを得る一石二鳥の「フラッシュ・ジュール加熱法」
2023/10/19 06:30
水素は、化石燃料に代わる有望な燃料として注目されている。しかし、一般的な水素製造法である水蒸気メタン改質(Steam-Methane Reforming:SMR)では二酸化炭素が発生する。また、再生可能エネルギーを利用した水の電気分解では、従来法の2〜3倍のコストがかかる。そこで、アメリカのライス大学の研究チームは、プラスチック廃棄物から水素を回収する方法を開発した。同時にグラフェンが生成され、それを売ることで水素発生にかかるコストを相殺できる。研究成果は、『Advanced Materials』誌に2023年9月11日付で公開されている。
この研究では、廃プラスチックを高収率の水素ガスと高価値のグラフェンに変換することに成功した。原料となる廃プラスチックは、種類別に分別したり洗浄したりする必要はない。開発した水素製造方法は、研究チームが発見したフラッシュ・ジュール加熱(Flash Joule Heating:FJH)という手法を利用している。4秒間のFJHにより廃プラスチックの温度を3100K(約2827℃)まで上昇させることで、水素を気化させて、グラフェンを残す原理だ。
研究チームは、過去にFJHを利用して廃プラスチックをグラフェンにアップサイクルする方法を開発している。その際に、反応器から大量に発生する気体が、炭化水素と水素の混合物でないかと考えていた。しかし、当時は正確な組成を調べる装置がなかった。研究チームは新たな資金援助を受けて、気化した物質の特性を調べるために必要な装置を手に入れた。その結果、例えば86%の炭素と14%の水素で構成されているポリエチレンであれば、その水素原子の最大68%を純度94%の水素ガスとして回収できることを実証した。
パリ協定に基づく目標である、2050年までに二酸化炭素実質排出量ゼロを達成するためには、いかに安価な生産手段だとはいえ、水素1トンを生産するために二酸化炭素11トンを排出するSMR法を継続するわけにはいかない。一方、再生可能エネルギーを用いた水の電気分解を利用すると、2ポンド(約0.9kg)強のグリーンな水素を作るためにおよそ5ドル(約740円)が必要と高コストだ。今回開発した水素製造法で副産物として産生される高価値のグラフェンを、現在の市場価格のわずか5%程度の価格で販売すれば、製造にかかるコストをグラフェン販売で補う、つまり実質コストゼロで水素を生産することができると研究チームは主張している。
(fabcross for エンジニアより転載)