水道水よりも安価な飲料水——MIT、熱塩循環を利用した太陽光淡水化システムを開発
2023/11/06 06:30
マサチューセッツ工科大学(MIT)のエンジニアと共同研究者らは、太陽光駆動の淡水化装置を開発した。海水を取り込み、自然の太陽光で加熱する新しい太陽熱淡水化システムで、これまで問題となっていた塩詰まりの問題を回避した設計となっている。研究成果は2023年9月27日に学術誌『Joule』に掲載されている。
自然界では海水面で水が蒸発すると、海水温度が低くなり、塩分濃度が高まって密度が大きくなり、海水が沈み込む「熱塩循環」という現象が起こっている。今回発表された装置は、「熱塩循環」と同じように、水が渦巻状に循環することを可能としている。 この循環と太陽の熱が組み合わされて水が蒸発し、塩分が残る。 結果として生じる水蒸気は凝縮され、純粋な飲料水として収集される。その間、残った塩は沈殿することなく装置の中を循環し続け、装置を詰まらせることはない。この新システムは、現在テストされている他のすべてのソーラー型海水淡水化装置よりも、高い造水率と高い塩分除去率を持つという。
研究チームの新しい設計の中心は、薄い箱のような1つのステージで、その上部には太陽の熱を効率的に吸収する暗色の素材が使われている。箱の中は上下に分かれている。水は上半分を通ることができ、天井には太陽の熱を利用して水を温め蒸発させる蒸発層がある。水蒸気はその後、箱の下半分に送られ、凝縮層が水蒸気を空冷して塩分を含まない飲用可能な水にする。研究者たちは、空の大きな容器の中に箱全体を傾けて設置し、箱の上半分から容器の底を通るチューブを取り付けて、容器を塩水に浮かべた。この構成により、塩水は自然にチューブを通って箱の中に押し上げられ、箱の傾きと太陽からの熱エネルギーが相まって、水が渦を巻いて流れる。小さな渦は、塩が沈殿して詰まるのではなく、循環を保ちながら水を上層の蒸発層と接触させることができる。
研究チームは、1段、3段、10段スタックしたプロトタイプをいくつか作り、自然の海水や7倍の塩分濃度の水など、さまざまな塩分濃度の水でその性能をテストした。これらのテストから、研究者たちは、各ステージを1平方メートルに拡大した場合、1時間あたり最大5リットルの飲料水を生成し、システムは数年間塩を蓄積することなく水を淡水化できると計算した。長寿命で、システムの稼働に電力を必要としない受動的なシステムであることから、研究チームは、このシステムを稼働させるのにかかる総コストは、アメリカで水道水を製造するのにかかるコストよりも安くなると見積もっている。
(fabcross for エンジニアより転載)