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液体金属である鉛ビスマスを利用した高温蓄熱システムを開発——熱伝達率が従来の100倍に

Photo: KALLA, KIT

ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT)の研究チームは2024年4月16日、液体金属である「鉛ビスマス」を用いた高温蓄熱システムを開発したと発表した。鉛ビスマスの極めて高い熱伝達率を利用して、再生可能電力により加熱された鉛ビスマスで、セラミック材料から構成される蓄熱タンクに熱供給するとともに、必要に応じて蓄熱タンクから高温鉛ビスマスを戻して熱回収する高効率熱貯蔵システムだ。鋼やコンクリート、ガラスの製造など、膨大な熱エネルギーを必要とする主要産業に向けて、再生可能電力の出力変動を回避しつつグリーンな熱エネルギーを供給することにより、脱化石燃料が可能と期待している。

2024年4月22~26日に開催された「ハノーバーメッセ」において、開発した蓄熱システムのモデルが発表展示された。

ドイツでは、鋼やコンクリート、ガラスの製造にエネルギー消費の20%以上が用いられているが、使用燃料の90%は化石燃料であり、再生可能なエネルギーへの転換が求められている。その太陽光や風力などによる再生可能電力には、気象条件の変化に起因する出力変動の問題があるため、変動性を回避して、熱エネルギー依存型製造業に安定的に熱供給できる高温蓄熱システムが探求されている。

これらの蓄熱システムは、再生可能電力を熱に変換して貯蔵するもので、例えば電力グリッドにおいて電力供給が逼迫して電気料金が高価になるタイミングで、貯蔵しておいた熱エネルギーを供給することを目指している。製造プロセスで実際に用いられる温度に近い高温で蓄熱することで、加熱に必要なエネルギーを削減できる。これまでに、液体塩を用いて約550℃の熱を貯蔵したり、ガスを使って鋼や火山岩、スラグなどの蓄熱材料を約700℃まで加熱したりする技術が検討されてきたが、「蓄熱材料への熱伝達効率が非常に低いのが現状」と研究チームは問題点を説明する。

研究チームは、融点が125℃、沸点が1670℃の液体金属であり、水や空気に触れても激しく反応しないことから、近年、高速増殖炉の冷却材や加速器駆動核変換システムにおける、冷却材およびターゲット物質としての利用が検討されている鉛ビスマスに着目した。「鉛ビスマスの熱伝達率は、蓄熱システムに用いられる他の材料に比べて100倍高い」という。

高温蓄熱システムの閉鎖ループにおいて、再生可能電力によって加熱された鉛ビスマスが、鋼製タンク内に充填されている約2mm径の球状セラミック群の間に浸透して、加熱蓄熱する。貯蔵された熱が必要な場合には、冷えた鉛ビスマスがセラミック群の間に戻って熱回収する。KITの実験プラントでは、400℃において100キロワット時の熱を貯蔵するように設計されており、蓄熱効率が非常に高く、原理の有効性が確認されている。「再生可能電力の供給変動を緩和し、将来的には製造プロセスで用いられる700℃以上の温度において、シンプルかつ安価で急速なエネルギー貯蔵が可能になる。主要産業を非化石燃料化する効率的なソリューションとなるだろう」と、研究チームは期待している。

fabcross for エンジニアより転載)

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