30gで60kgを支える——再利用可能な強力接着剤を開発
2024/05/23 06:30
シンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究チームは2024年4月29日、形状記憶ポリマーを利用した再利用可能なスマート接着剤を開発したと発表した。ヤモリの足の10倍以上の接着力を持ち、非常に重い重量を支えることができる。将来的に、人間が簡単に壁をよじ登ることができるグリッパーや、天井に張りつくことができるクライミングロボットを開発できるかもしれない。研究成果は、『National Science Review』誌に2024年3月20日付で公開されている。
新しく開発した接着剤は、E44エポキシと名付けられた形状記憶ポリマーを活用した。形状記憶ポリマーとは、以前の形状を記憶することで、熱や光、電流など外部刺激により変形した後、元の形状に戻ることができる材料だ。E44エポキシは、室温ではガラスのように硬いプラスチックだが、加熱すると柔らかいゴムのような状態に変化する。加熱した状態で微細な凹凸や隙間に固定してから、冷やしてガラス状にすることで、非常に強力な接着力を生み出す。再加熱するとゴム状に戻るため、ひっぱれば簡単に接着面を剥離できる。
研究チームは、E44ポリマーを髪の毛のようなフィブリル配列(細い原繊維をらせん状に配置)にしたとき、最も効果的に接着できることを発見した。またフィブリル半径が0.5~3mmのとき、構造を維持したまま最も高い接着力を示す。実験では、断面積が19.6mm2のフィブリル1本で1.56kgの重さを支えることができた。フィブリルの本数を増やせばより大きな重量を支えられるため、手のひらサイズにフィブリル37本を並べれば、成人の体重に相当する60kgを支えることが可能だ。フィブリル37本の重さはわずか30gに過ぎない。
この接着剤はドライヤーなどで60℃に加熱すれば、1分もかからずにポリマーが変形し接着力を失う。
ポリマーの状態が変化するスイッチング温度はポリマー成分の比率を調整することで制御できる。そのため、暑い気候条件などの過酷な環境でも使用することができるし、体温程度まで下げることで応用の幅を劇的に広げられる。
現段階では、加熱時間と冷却時間の長さやスイッチング温度が原因で、実際に利用できるケースは限られているが、加熱や冷却にかかる時間は数秒に短縮できるという。またスイッチング刺激も、温度だけでなく光や電流に変えることも可能だ。研究チームは、現在接着に必要な冷却時間の短縮を目指して研究を進めている。
(fabcross for エンジニアより転載)