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髪の毛の太さより薄く約1分で充電可能な固体電池や、電極製造の新標準となることを目指す次世代コーティング技術を紹介

Photograph: BTRY / ETH Zurich

スイス連邦工科大学チューリッヒ校は、2024年4月29日、同大学からスピンオフした企業であるBTRYと8inksが手掛けている高性能固体電池開発に関する取り組みを紹介した。

CO2排出量を削減するには、生活のさまざまな場面を電化し、再生可能な風力エネルギーや太陽光エネルギーを蓄える必要がある。このような電池の需要が急速に高まっているため、リチウムなどの希少な原材料の消費量も増加しており、効率的であるだけでなく、リサイクル可能で持続可能な電池が不可欠となっている。

また、スマートフォンやノートパソコンに使われている従来のリチウムイオン電池は充電に時間がかかるうえ、その内部には温度変化の影響を受けやすい電解液を封入しているため、高温状態では発火しやすいといった問題があった。

そこで、BTRYは、温度変化に非常に強く、急速充電可能で幅広い用途に適した電池を開発している。同社の固体電池は薄い層で構成されており、充電時間を何倍も短縮でき、製造過程や電池の構成要素いずれにおいても液体を完全に排除している点が特徴だ。液体を含まないため温度変化に非常に強く、蒸気漏れ検知センサーを設置するような超高温の場所でも、医薬品輸送中のような超低温状態でも使用できる。

もともとは半導体製造に使われていた特殊なコーティング技術を使って、ウエハーのように薄い電池セルを真空中で重ね合わせるという独自の製造手法により、完成した電池は約1分で急速充電できる。さらに、その構造により、寿命は従来の電池の約10倍となることが見込まれている。その層は非常に薄く、完成品は髪の毛の太さよりも薄い。

記事執筆時点で、同社はまだ実験室程度の規模で電池を製造しているが、2年以内にスイスで試験生産を開始し、世界的な電池メーカーに成長することを目指しているという。

一方、8inksは「多層カーテンコーティング(multilayer curtain coating)」という技術を開発した。過去30年間ほとんど変わっていないリチウムイオン電池の製造標準に「スロットダイ(slot die)」と呼ばれるコーティング技術があるが、8inksは自社の技術でスロットダイに取って代わることを目指している。

多層カーテンコーティング技術は、リチウムイオンが蓄えられた活物質を薄く何層もコーティングして重ねることでさまざまな適用要件に合わせて調整できる。個々の層の厚みや材料特性が多様であるため、この技術はとりわけ固体電池のスケーリングに役立つ。さらなる利点として、電極のコーティング速度を大幅に高速化できるので、需要の高まりへの対応に最適であることが挙げられる。

8inksは、コイン電池からスマートフォンで使われるパウチ電池までさまざまな種類をテストしており、この技術は電気自動車用バッテリーのように、より大きな産業規模まで拡張可能になると考えられる。

fabcross for エンジニアより転載)

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