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切削屑を有効活用——水から水素を製造する高効率な触媒開発に成功

イギリスのノッティンガム大学化学工学科の研究チームが、金属機械加工産業における廃棄物である切削屑の表面に、プラチナ(Pt)やコバルト(Co)の原子をスパッタリングで堆積させることで、水の電気分解用途の高効率な触媒を作製することに成功した。チタンやニッケル合金の切削屑の表面にある数10nmの溝や段差が、PtやCoのナノ粒子やナノフレークの形成に適しており、実用化されている触媒と比較して10分の1のPt量とCo量で、水の電気分解により効率100%で水素(H2)と酸素(O2)を製造できることを確認した。研究成果が、2024年4月16日にイギリス化学会の『Materials Chemistry A』誌に公開されている。

H2は熱や自動車などの動力を発生するのに使用できるクリーン燃料であり、燃焼によって生じる副産物は水蒸気だけだ。H2製造技術の多くは原料として化石燃料に依存しているが、水と電気からH2を製造できる水の電気分解は、H2製造において最も期待できるグリーンな方法の1つだ。しかし、そのプロセスは触媒としてPtのような稀少で高価な元素を必要とする。貴金属の供給不足や価格上昇が生じる中で、電解触媒の代替材料の探索が急務となっている。

ノッティンガム大学の研究チームは、主として航空宇宙産業から発生するやチタン(Ti)やニッケル(Ni)合金の切削屑に注目した。「一見して滑らかに見える切削屑の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面は数10nmの溝や段差から構成されていることがわかった。このようなナノ形状を有する表面は、電解の触媒機能を創出できる可能性を持っている」と考えた。

マグネトロンによるスパッタリングを用いて、切削屑表面にPt原子やCo原子の“雨”を降らせたところ、各々の原子は5~20nmのナノ粒子や、約100nmのナノフレーク状に結合してナノスケールの溝にピッタリと収まった。電気分解の触媒特性を解析した結果、「驚くべきことに、実用化されている最先端の触媒と比較して、その10分の1の量のPtやCoで水からH2とO2を製造できた」と説明する。切削屑表面積1cm2当たり、わずか28μgのPtが堆積したTi合金および30μgのCoが堆積したNi合金を電極とした電気分解により、各々の電極において毎分0.5Lの水素ガスを100%の効率で生産できることを確認した。

研究チームは、電解槽の専門メーカーであるAqSorptionと協働して、開発技術の工業化を進めている。「切削屑から作られる電解触媒により、最少量の貴金属を用いてグリーンなH2を製造できるとともに、航空宇宙産業からの金属廃棄物を単一のプロセスでリサイクルできる。世界規模で差し迫っているゼロカーボンの課題、特に輸送および製造業分野における課題を解決する重要な手法の1つになる可能性がある」と期待している。

fabcross for エンジニアより転載)

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