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海水からリチウムを抽出する新手法を開発——バッテリーの開発を加速

米シカゴ大学分子工学科の研究チームが、海水や地下水などリチウムが希薄な鉱物資源からリチウム(Li)を効率的に抽出する、カンラン石構造リン酸鉄の理想的な粒子形態条件を発見した。大き過ぎず小さ過ぎない中間的粒子サイズを持つリン酸鉄(FePO4)を用いることにより、層状構造の隙間にLiイオンを選択的に取り込むことができることを見出したものである。少数の国に遍在しているLi資源に頼ることなく、Liが希薄な鉱物資源からでも高速で環境に優しく低コストの手法で、Liを生産できると期待している。研究成果が、2024年6月7日に『Nature Communications』誌に論文公開されている。

電気自動車市場が拡大するに伴ってLiに対する需要も増大し、世界のLi生産は過去10年間で3倍以上になっている。今日、経済的なLi資源は、鉱石系とかん水系が主流となっており、鉱石系では採掘されたLi鉱石を重機によって破砕した後、酸処理によってLiを分離する。一方、かん水溜り資源では、大量の水を用いてかん水を地表に圧送し、1年以上かけて水を蒸発させてLiを得ている。いずれもLi抽出速度は遅く、また多くのエネルギーを必要とするとともに環境コストが高くなっている。そもそも、リッチなLi資源は少数の国に遍在しており、カントリーリスクは高い。

シカゴ大学の研究チームは、海水や地下水、または地下資源開発における水圧破砕やオフショア掘削からの“逆流水”など、広汎に存在する溶液状の鉱物資源からLiを抽出する手法の研究を行ってきた。一次元状カンラン石構造のFePO4は電気化学的インターカレーション反応により、層状結晶構造の隙間にLiイオンを取り込むことができることが知られているが、溶液資源に共存するナトリウム(Na)イオンも同時に取り込まれてしまい、得られるリチウムの純度に大きな変動を生じることが問題となっている。

研究チームは「FePO4を製造する際、サイズと形状が著しく異なる粒子が得られる」ことに着目して、カンラン石構造のFePO4粒子の様々な形態が、抽出分離されるLi とNaの選択性にどのように影響するか調べた。さまざまな方法によりFePO4を合成し、20~6000nmの範囲に分散する粒子サイズを得た。そして、サイズごとにいくつかのグループに分けて、希薄な溶液資源からLiを抽出できる電極を作った。その結果、FePO4が大き過ぎたり小さ過ぎたりする場合、より多くのNaが構造中に入ってしまい、純粋なLiの抽出が抑制される傾向にあることを発見した。そして「中間サイズに最適条件があることがわかり、そこでは速度論的にも熱力学的にも、LiがNaよりも優位性を持って選択される」ことを見出した。適正な粒子形態のFePO4を用いることにより、Liがリッチな資源からは96.6%±0.2%の純度、Liが希薄な資源からでも95.8%±0.3%の純度が得られることを確認した。

研究チームは「今後、理想的なサイズのFePO4を量産する手法を開発する必要があるが、Li生産の環境的負荷を低減するとともに、Li資源を大幅に拡大できる」と期待している。

fabcross for エンジニアより転載)

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