実証実験は、大阪府八尾市の八尾徳洲会総合病院にて実施された。薬事承認された手術支援ロボットと、安価で常用利用できる衛星通信サービスを活用し、世界で初めて実用レベルで遠隔ロボット手術の実現可能性を検証した。

実験では、リバーフィールドが開発した手術支援ロボット「Saroa サージカルシステム」のサージョンコンソール（操作側）を八尾徳洲会総合病院の手術室内、ペイシェントカート（患者側）を屋外に配置したトラック内に設置した。低軌道衛星通信には米スペースXが運営するスターリンクのサービスを利用し、クラウド上に中継用VPNサーバーを設置して接続のフレキシビリティを確保している。

実験には、外科医6名が参加。臓器の弾力性を再現したトレーニング用モデルを用いて、縫合や結紮（けっさつ）などの手技（傷口を縫い合わせたり、糸を結んで固定したりする作業のこと）を実施し、通常のロボット手術構成と遠隔のロボット手術構成で比較した。

なお、「Saroa サージカルシステム」は、日本国内で2023年5月に薬事承認を取得しているが、衛星通信やその他通信を用いた、地理的に離れた施設間での遠隔手術が薬事承認範囲に含まれていないため、実証実験には本実証専用機を用いている。

実証実験の結果、遠隔のロボット手術構成でも通常のロボット手術時と同様に、縫合や結紮などの繊細な手技ができることが医師6名全員から確認された。さらに、フルHD画質、4Mbpsの滑らかな映像伝送にも成功していることに加え、中継用VPNサーバーにより、固定IPアドレスのない環境でも安定した接続性の確保が確認されている。

低軌道衛星通信の低遅延、高速大容量通信により、手術に必要な即時性の高い信号伝達ができ、スムーズに4K映像などの大容量データも送受信できる。また、低軌道衛星通信用のアンテナが小型で軽量であることから、車載システムとの親和性が高く、手術ロボットを搭載したトラックを必要な場所へ迅速に移動できる。

空が見通せる環境があれば、従来の地上波通信インフラが整備されていない山間部や離島などでも通信できる低軌道衛星通信は、医療過疎地域や遠隔地でも都市部と同等の高度な医療サービスを提供できるようになるものと期待される。また、衛星通信は、自然災害で地上の通信インフラが損壊した場合でも影響を受けにくいため、災害時に大きな役割を果たすことが期待される。

実証実験を実施したシステムは、へき地、離島と都市部の医療格差の是正、災害時の迅速な医療支援、国境を越えた医療支援活動や、あらゆる地域の医師らのトレーニングに幅広く活用できる可能性がある。

（fabcross for エンジニアより転載）