100度の高温と450回の充電サイクルに対応するリチウム金属バッテリー
2024/09/02 06:30
香港大学(HKU)機械工学科の研究チームは2024年7月18日、高温への耐性を持ち、安全性が高く、長期の充放電サイクルに耐えるリチウム金属バッテリーを開発したと発表した。
我々の日常生活のあらゆる場面で、バッテリーは広く普及している。なかでも、医療機器の滅菌、地下探査、熱反応器など、高温環境下で動作するバッテリーの需要が高まっている。
既存の市販バッテリー技術では、液体電解液と炭素質陽極を使用する。しかし、これには安全性への懸念があり、寿命が限られ、特に高温での出力密度に問題があった。多くの研究者が、理論上の電力容量が高く、リチウム金属負極に適合する安全な固体電解質を探していた。
この目標に向けて、HKUの研究チームは、新世代のリチウム金属バッテリーに不可欠な、マイクロクラック(物質内部に形成される微小な亀裂や割れ目)のないポリマー電解質を開発した。これにより、バッテリーの長寿命化と高温下での安全性向上を図った。
開発したマイクロクラックのないポリマー電解質は、一段階で目的の化合物を合成できる「ワンステップクリック反応」で生成できる。デンドライト(樹枝状結晶)成長に対する耐性や不燃性、5Vまでの高い電気化学的安定性ウィンドウ、高温下での3.1 × 10−5 S cm−1のイオン伝導性など、特筆すべき特性を示す。この特性は、マイクロクラックのない膜内のホウ酸アニオンが、Li+イオンの選択的輸送を促進し、デンドライトの形成を抑制することに起因している。
これらのアニオン性ネットワークポリマー膜により、リチウム金属バッテリーの高温での安全性が高まり、長時間の充放電サイクルに耐えるエネルギー貯蔵デバイスとして機能する。具体的には、100℃の温度で450サイクルにわたって、92.7%の容量保持率の維持と、平均99.867%のクーロン効率を達成した。通常、従来の液体電解質リチウム金属バッテリーの高温でのサイクル性能は10サイクル未満だ。
この研究を率いたHKU機械工学科のDong-Myeong Shin教授は、マイクロクラックのない電解質膜は、高温シナリオでの応用以外に低過電位による急速充電の可能性もあると説明している。さらに、この技術によりコーヒー1杯を飲む時間で電気自動車を充電できる可能性があり、クリーンエネルギーの未来に向けた大きな前進となることを付け加えた。
この研究成果は、『Advanced Science』誌に掲載された。
(fabcross for エンジニアより転載)