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DMM.make AKIBA×Makers’ Base×TechShop×fabcross共同企画

都内の大手3ファブ施設が連携——キックオフイベントレポート

2016年4月に日本1号店が誕生したTechShop。国内のIoTスタートアップが集結するDMM.make AKIBA。年間1万人以上の人が訪れるMakers’ Base。東京の大手ファブ施設が集い、新しいプロジェクトを発足。
8月12日に開催されたキックオフイベントでは、3社が初めて同じ場に集い、現状や今後のビジョンが運営者から語られた。ものづくりは個々の生活とビジネスに、どのように関わっていくのか——各運営者の展望をレポートする。

なぜ、手を取り合うのか

TechShop Japan代表の有坂庄一氏。メイカームーブメントを牽引する工房として知られていたTechShopが日本1号店を2016年4月にオープンさせたのは記憶に新しい。六本木一丁目というロケーションもあり法人会員の利用が多く、企業とのコラボレーションによるイベントも頻繁に開催している。 TechShop Japan代表の有坂庄一氏。メイカームーブメントを牽引する工房として知られていたTechShopが日本1号店を2016年4月にオープンさせたのは記憶に新しい。六本木一丁目というロケーションもあり法人会員の利用が多く、企業とのコラボレーションによるイベントも頻繁に開催している。

3社が連携する最大の目的はノウハウの共有や共同のサービス展開を行うことで、より多くの人に利用してもらうことだ。

「一番来てほしいのは『意識が高い系男子』っていうと語弊がありますが、20代後半から30代の企業で働いてる感度の高い人。僕も会社勤めをしていた頃、会社の中でできる限界を感じることがあって、それを突破するために会社の外にいる人たちとのコミュニケーションが大事だったりする。それは単に飲むだけじゃなくて、何かテーマをもって話したり、取り組むというのが魅力的な行為であって、デスクワークにはない体験がここでは提供できるのではないかと思っています」(Makers` Base 松田氏)

「パワーポイントでプレゼンテーションするよりも、プロトタイプや映像でプレゼンテーションした方が説得力もあって、メッセージとしても強いものが作れますよね。そういった武器を身に着ける場として使ってほしい」(有坂氏)

Makers` Base COOの松田純平氏。今回の取り組みの発起人でもある。 Makers` Base COOの松田純平氏。今回の取り組みの発起人でもある。

ファブ施設は大人だけでなく、学生など若年層にも利用するメリットがあると話すのは、スカラシップ制度を導入しているDMM.make AKIBAの橋場氏だ。

「DMM.make AKIBAは10代から70代まで会員様がいますが、スカラシップで来ている若い子たちが開発に行き詰って頭を抱えていると、周りのおじさんたちがいてもたってもいられなくなって、手伝いに走んですよ。これはこれですごく良いコミュニティだと思っていて、他にも17歳でスタートアップにジョインしている優秀な子もいますし、もっと若い子たちにも使ってほしいですね」(DMM.make AKIBA 橋場氏)

DMM.make AKIBAの総支配人、橋場光央氏。最近ではスタートアップの会員だけでなく、自社技術の応用先を探す大手企業の会員も増えてきているという。 DMM.make AKIBAの総支配人、橋場光央氏。最近ではスタートアップの会員だけでなく、自社技術の応用先を探す大手企業の会員も増えてきているという。

3施設ではこうした新しいユーザーのために、いくつかの計画を進めている。そのうちの一つが機材利用の共通化だ。例えば、DMM.make AKIBAの会員がTechShopでレーザーカッターを使う場合、初回講習を簡易なものにするなど、各施設で共通して保有する機材を利用する際の利便性を高めるサービスを検討中だ。他にも共同のイベントやコンテストの開催を行うことで、各施設の会員間の交流も図っていく。その第一弾が、UVプリンタを活用したコンテストだ。

3拠点ともに保有しているUVプリンタを使い、スポーツマーケットに向けた新しい試作品を披露しあうイベントで、優秀賞は賞金5万円。受賞作は展示会での出展も予定されている。詳細はオフィシャルサイトを確認して欲しい。

作りたいものがない人が使うファブ施設

イベント後半では会場の参加者とのQAセッションも行われた。

——作りたいものはあっても、CADやIllustratorが使えない人も少なくない。そういった人たちの底上げをどう考えているか。

「よくあるのが『レーザーカッター、面白そう!』って来た人が、開始30分で顔がどんどん曇っていくんです。『ヤバい、データが作れない』って。それでIllustratorの講習も最近始めました。2Dにしても3Dにしてもそうですが、全部を覚えるのは難しいけど、自分に必要なところだけに限って覚えていくと、そこまでハードルは高くないということを、僕たちのような事業者が伝えていかなくてはいけないのかなと思います」(松田氏)

「TechShopで実際にあったケースで、書道をたしなむ60代の女性が、自分の書を布にプリントしたいって言って来たんですね。その方はパソコンは全く出来なくて、最初だけスタッフが全面的に手伝ったのですが、そのうちにご自身で出来るようになっていて、この間なんてペンダントトップやTシャツとかを一人で作っていたり、エアバッグとシートベルトの廃材でバッグを作ったりして、いつの間にかクリエイターになっていたんです。全員があまねくCADを使えるようになるには、もう少し待たなければいけないかもしれないけど、素養がある人で、使えてない、使えないと思っている人はまだまだいると思います」(有坂氏)

——街づくりの仕事をしていて、各施設が今の場所を選んだ経緯に興味がある。

「DMM.make AKIBAはIoT領域のハードウェアスタートアップが利用者の中心なので、電気パーツショップが充実している秋葉原以外には考えられませんでした」(橋場氏)

「TechShopは街で一番クリエイティビティの高い人たちが集まる場所を目指すという方針があり、六本木一丁目周辺はクリエイターやVC、企業などが多いので、相互の行き来があるだろうと思い決めました。ただ、TechShopのような工房がビルに入るってなかなか難しいんですよね。溶接できる機材を置きたいというと嫌がられますし、少なくとも50軒は物件を周りました。そうした中、アークヒルズを管理する森ビルさんは街づくりという観点で一緒にやっていきましょうと言って頂いて、あの場所に決まったという経緯ですね」(有坂氏)

「僕らは人が来る場所という基準で、山手線の駅の中で乗降客数も考慮して最初の店は目黒にしました。その後、所有者の意向で建物を更地にすることになったので、山手線以外の地域も含めて探した結果、ご縁があって今の都立大学になりました。ただし、街づくりという観点でいくと、地元の人は5%も来ていないと思います。モノを作るモチベーションと、人が集うモチベーションは近そうで、実はそんなに近くない気がしていて、単純にものづくりをテーマにした場所を作っても人は集まらなくて、どの街の人たちをターゲットにするかしっかり深堀りした上で、ものづくり以外も含めて何の場を作るか考えないと、3年後にはつぶれかねません」(松田氏)

地域の課題解決の場として

イベント終了後には参加者との懇親会が催された。 イベント終了後には参加者との懇親会が催された。

イベントの最後に、今後関わっていくテーマとして地方の課題解決というテーマが挙げられた。

クリエイターやベンチャーと、地方の加工技術や産業を積極的に繋げていくことが、日本のファブ施設ならできると思います。地方に施設を作って町おこしをするのではなく、地方と都市を繋げることも課題解決になると思います」(有坂氏)

「今、ものづくりに関わるプロジェクトが地方も含めて、いろんなところであって、そういうところにお金が流れているんだけど、そのお金を使って、使われるものをきちんと作ってほしい。素人同士が話し合って、誰も使わないってすぐにわかるようなダサいものを作るケースが多い。地方の優れた技術や素材を、地方にないリソースを活用して有機的に発展させていくような流れにお金を使ってほしいと思う。そして、どんどんそういったプロジェクトを僕らのような施設に振ってほしいし、クリエイターと交流する機会をこちらも作っていきたい」(松田氏)

3施設共同のイベントは今後も定期的に開催される予定だ。またfabcrossでも3施設による共同の連載企画も進めているので期待してほしい。

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