最速でアウトプットするためのファブ——多様さを増すファブ施設の現状
メーカーエンジニアにFabが必要な理由
メーカー企業を中心に自社内にファブ施設を導入するケースも少なくない。
その中には製品開発や試作だけでなく、事業上、避けて通れない課題を解決するためにファブ施設を活用するケースもある。
福岡県と愛知県に開発拠点を持つトヨタプロダクションエンジニアリング(以下、TPEC)は、トヨタ自動車の100%子会社として、自動車の生産技術分野をデジタル技術でサポートしている。
3D CADやCAEなどコンピューター上で設計したデータやシミュレーションした結果を用いて、生産設備や工程をバーチャルで検証し、最適な生産環境をトヨタ自動車の生産ラインに提供するのがミッションだ。
自動車の生産ラインで稼働する機器に関わるTPECだが、デジタルデータで業務の大半が完結することや自社内に生産設備を持たないことから実際に設計した設備の使いやすさを検証する機会が限られていた。
その結果、PCのデータで全て完結したような感覚を持つ社員や、周りとコミュニケーションを取らないまま自席で黙々とPCに向かっている社員が増えつつあることを危惧していたという。
そうした中、社内にファブ施設を立ち上げたらどうかという提案が、経営企画を担当する関原氏の下に寄せられたという。
それまでファブ施設の存在を全く知らなかった関原氏は、有志メンバーと共に愛知県と福岡県にあるファブ施設の見学をした。
その際、ある施設で主婦がレーザーカッターや3Dプリンターを使いこなしている様子を見て衝撃を受けたという。
「デジタルデータを扱い、工作機械でものづくりをするのは企業の仕事だと思っていたが、まさか主婦の方が使っているとは思ってもいませんでしたし、知らなかった事実を目の当たりにして時代に取り残されているような危機感を感じました」
見学した施設の運営者からは、単純な機械利用だけでなく、その場に集まった人たち同士でコミュニケーションが生まれやすい仕立てにすることも重要だと教わり、人が集まりやすく、作業場としてのイメージがつきにくい休憩スペース内に機材を置くことにした。
また利用時間も朝8時から20時まで開放し、業務時間外でも気軽に利用できるよう、終業後はプライベートなものづくりにも利用していいことを社内に周知した。
社内ファブ施設の効果は想定以上だったという。社内のファブ施設プロジェクトに携わった友田匡氏の目には、ファブ施設に集まるエンジニアたちの雰囲気が変わり始めたことに気付いた。
それまで外注していた試作部品も、自分が作成したものをすぐにファブ施設の3Dプリンターで造形できるようなったことでコストが抑えられ、さまざまな試作や検証に進んで3Dプリンターを活用し、模型を活用したトライ&エラーが可能になった。
機材の順番を待つ間も、お互いの造形物を見せたりアドバイスをしたりするだけでなく、機械の使い方やテクニックを教えあうといった光景も見られるようになった。
「受け身の姿勢で仕事に取組み、創造力という言葉にもピンときていない社員が多く、組織を発展させていくためには想像力と実行力を向上させていくことが重要だと思い、思ったことをすぐに行動に移せる場としてファブ施設を作りました。最終的には新しい技術やビジネスを目指したい。それは今すぐできるものじゃないにしても、そういったことが生まれる風土や文化を、社内ファブ施設を通じて作りたいと思います」(友田氏)
愛知県豊田市にあるTPECのファブ施設には、トヨタ自動車の社員からの利用相談や見学も少なくない。そのため、今後は社内だけでなくグループ企業や関連企業への開放も検討中で、将来は自動車業界を志望する学生や地域住民にも利用のきっかけを作りたいと意気込む。
「セキュリティ面をクリアすることが前提ですが、自分たちのデジタル技術がどういったものか、多くの人に知ってもらいながら地域に貢献できる取り組みにつなげたいと思います」(関原氏)