最速でアウトプットするためのファブ——多様さを増すファブ施設の現状
Makersムーブメントが一段落した今もファブ施設は日本各地で誕生している。
多くの運営者が収益化を最優先課題としながらも、後に続く施設は少なくない。最近では期間限定の施設や企業内施設など、一般には開放されていない形式も含め、さまざまな形態の施設が生まれている。
東京都に次いでファブ施設が多い福岡県では、大学や企業内など特定のユーザーに向けたファブ施設が立ち上がっているほか、行政のスタートアップ支援と連動した期間限定のファブ施設など、新たな取り組みが始まっている。
小学校跡地に誕生した期間限定ファブ施設
福岡市の中心市街地、天神に福岡市と民間企業3社による官民共働型のスタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」が2017年3月にオープンした。
2014年に閉校になった大名小学校の跡地を活用し、スタートアップ向けのオフィスやイベントスペースを設け、起業支援のほか、エンジニアやデザイナーの育成や地元企業とのマッチングなど、あらゆる形でスタートアップを支援することを目的としている。
2019年9月までの期間限定運営だが、オープン前からオフィスが満室になるなど滑り出しは順調だ。
建物の1階にはファブ施設「GOODAY FAB DAIMYO」があり、九州圏でホームセンターを展開する「グッデイ」と、ハンドメイド品のオンライン販売サイト「minne(ミンネ)」が共同運営する形を取っている。
グッデイはファブラボ太宰府を運営するほか、自社の店舗内にデジタル工作機械が利用できるファブ施設「GOODAY FAB」を2016年から展開している。
公募入札に採用された後、グッデイはこれまでのファブ施設運営ノウハウを生かし、2カ月弱で立ち上げ、minneとの共同運営を取りまとめた。
利用者はgrowth nextに入居する企業だけでなく、外部のユーザーも対象だ。
近隣に住む電子工作ユーザーだけでなく、minneを利用するハンドメイド作家がワークショップに利用するなど、ファブラボや自社のホームセンターとも異なるユーザーが訪れているという。
グッデイ代表取締役社長の柳瀬隆志氏は、採算性をある程度重視しながらも、GOODAY FAB DAIMYOをホームセンターではできない実験をする場と位置付け、現時点では「事業目標は走りながら考える」と話す。
現段階では機材利用だけでなくイベント利用での場所貸しや、入居する企業向けのオフィス用品販売など収益化につながる施策と利用のきっかけを複数用意しながら、多様な利用者が集いやすい場所ならではの運営方法を見出したいと考えている。
「3年間ファブラボを運営していることもあり、スタッフの技術や接客能力も含めて早く立ち上げられた点は良かったと思います。とはいえ、ファブ施設自体まだ知名度は低いので、使いやすい場所にしていきながら、DIYの延長としてデジタル工作機械になじんでもらうかが重要です。
一般の消費者がファブ施設を認知した時には、本当に価値のあるスペースしか残らない。そのためにできることに取り組んでいきたいと思います」(柳瀬氏)
ファブの発想が学生たちの創造力を加速させる
学びの現場でもファブラボのような発想を積極的に取り組む大学が増えている。
九州大学は2016年にファブラボの発起人であるMITのニール・ガーシェンフェルド教授によるオンライン講義「FabAcademy」を大学内で開講した。
受講する学生は世界各地から参加する学生らと共にオンラインでMITのオンライン講義に参加し、デジタルファブリケーションや電子回路設計、プログラミングなどを19週間に渡って学んだ。
この取り組みをきっかけにデジタル工作機械を導入し、ファブラボの活動を支援する活動にも参加。大学の授業にもデジタルファブリケーションの講義を取り入れ、3Dプリンターやレーザーカッターを学生が自由に利用できる環境を整えた。
もともと「作りながら考える・考えながら作る」というコンセプトのもと、工房教育を充実させていた前身の九州芸術工科大学の流れをくむ芸術工学部にとって、ファブラボの思想の根底にある「make almost anything(ほぼ、なんでも作る)」というコンセプトと非常に相性が良かったと富松教授は話す。
デジタルファブリケーションを導入することで、吸収力の高い学生は3DプリンターやCNCなどを短期間のうちに扱えるようになり、機材のレクチャーも学生同士で行うようになった。
また一定のスキルを持った大学院生にとっても、自分の作品専用の機構や治具を高い精度で短期間に試作開発できるといったメリットがあり、実験的なプロジェクトに取り組む学生も少なくないという。
以前に取材したいくつかの大学内ラボでも同様の事例があり、この傾向は理系だけでなく美術系や、経営学などの文系にも波及している。若いうちにラピッドプロトタイピングに必要な能力を総合的に身につけることは、ものづくりに携わる人材にとって必要不可欠なものになりつつある。