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ものづくりベンチャー輩出を担うのは地方都市——政府によるベンチャー支援の課題とは

ベンチャーに集まる大企業OB

報告書の中では、諸外国と比較してものづくりベンチャー人材が不足していることも指摘している。

「HAXでは1回のプログラム※で10社程度のスタートアップを採用しますが、応募の時点で世界中から200社以上ものスタートアップが集まります。一方、国内でアクセラレータープログラムを展開している事業者に聞くと、1回につきせいぜい数十社程度です」(北氏)

とはいえ、国内に製造業人材の絶対数が少ないかといえばそうではない。主要国と比較しても製造業の研究者数は43万人と、中国、米国に次いで多い。
また、ITなど情報通信業における研究者の約60%が東京を中心とした1都3県に集中しているのに対し、製造業においては70%もの研究者が1都3県以外の地方都市に存在している。
ところが国内のVCから投資を受けているベンチャーの78%が関東に集中しているというデータもあり、地方の研究者・技術者は、ものづくりベンチャー人材としての潜在的な可能性があると報告書では指摘している。

ヒアリング対象となった、あるベンチャーによれば、エンジニアの人材募集をかけると大企業で経験を積んだベテランエンジニアからの応募が非常に多く、一瞬にして大企業OBがベンチャーに集まる状況が続いているという。

「新しいものを作り、大量に売る」バブル期を経験したエンジニアにとって、「いかにコストを抑えて作るか」という命題から逃げられない環境よりも、新たなものづくりにチャレンジするベンチャーの方を魅力に感じているのではないかと、調査に答えたベンチャー経営者は指摘している。

ベンチャーのための補助金がベンチャーに届いていない

では、なぜ地方の研究者・技術者らによる起業が少ないのか。政策面での課題として、現在実施されているベンチャー育成施策はITや大学発ベンチャーなどを想定したものが多く、ものづくりベンチャー向けの施策ではないことや、地方自治体との連携不足や地方発のベンチャー支援策の不足が考えられると北氏は指摘する。

「ベンチャー企業が関東に集中している背景には、ベンチャー企業政策も都市圏だけに向いていたことがあります。地方での起業創出は長年の政策課題ですが、決定的な打ち手が無く、地域の外に波及しづらいソーシャルビジネスやローカルビジネスが多少生まれる程度なのが現状です。その結果、各地域が伸ばしていきたい産業分野のための補助金が全く関係ない分野に回っている自治体も少なくありません。しかし、製造業という切り口で見れば人と技術が集積しているのは地方であり、政策面でバックアップしていくことで、競争力のあるベンチャーが地方から誕生するのではないかと思います」(北氏)

地方に眠るベンチャー人材を生かすためには「担い手の育成」「事業化しやすい環境の整備」が不可欠であるとレポートではまとめている。

「地方で有望な人材や企業を発掘し、地元サプライチェーンを巻き込みながら地域全体で支えていく仕組みが今後必要になっていくと思われます。具体的には長期間に及ぶ研究開発を下支えする補助金制度と、試作から量産、流通までをマネジメントするインフラ整備を進めていくことが政策面では重要です」

日本の中小企業とは価格面で折り合いがつかず、深センなど海外に量産を委託するベンチャーも少なくないが、その事例が全てのベンチャーに当てはまるとは限らない。独自技術に強みを持つベンチャーが最も恐れるのは海外への技術・製造ノウハウ流出だ。

調査したベンチャー企業の中では海外での量産も検討した上で、国内での製造を選んだケースもあったという。製品のコア部分をいくらブラックボックス化しても製造委託した時点で形骸化する可能性があると、技術流出リスクを最小限にする意味で国内生産にこだわる理由を説明するベンチャー経営者もいる。ジェネシスホールディングス(P17)のような日本人経営者によるEMSも深センで生まれているが、日本と海外のメリット・デメリットを見極めた上で製品化をマネジメントする人材や起業への支援は依然として重要な課題だ。

地方がものづくりベンチャー輩出を担う存在に

報告書では研究開発支援政策をベンチャーにも行き届く仕組みに変え、都市圏に集中していたベンチャー支援政策を地方にも分散することで、従来から存在する国内製造業のエコシステムと人材が噛み合う政策を推し進めていくことが今後の課題としている。

2017年6月に公開された製造基盤白書(ものづくり白書)では、オープンイノベーションを推進する仕組みの強化や、大学発ベンチャー創出の促進、地方創生に資するイノベーションシステムの形成を実施していくことがうたわれている。その政策をリードしていくのは都市圏の自治体や中央省庁の政策担当者、関東圏のベンチャーだけではない。むしろ手綱をにぎるのは地元経済と人材への理解が深い地方の政策担当者であり、彼らの支援の下、優れた技術を武器に地方で研究開発を進める研究者や技術者、起業家の卵たちだろう。

お知らせ

「ものづくりベンチャーと製造業の連携等に関する調査」には、fabcross編集部 プロデューサーの 越智岳人がアドバイザーとして協力した(編集部)。

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