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ものづくりベンチャー輩出を担うのは地方都市——政府によるベンチャー支援の課題とは

経済産業省は7月7日に「日本における『ものづくりベンチャー』発展の可能性と政策的課題」と題した調査報告書を公開した。

これは、経産省が委託した平成28年度製造基盤技術実態等調査の報告書で、ものづくりベンチャーと、彼らを支援するベンチャーキャピタル(VC)やアクセラレーターへの取材を基に、日本でものづくりベンチャーが発展していくための政策面の課題について33ページにわたってまとめられている。
日本から優れたベンチャーを輩出するために必要な施策や現状の課題について、調査をとりまとめた三菱UFJリサーチ&コンサルティングの北洋祐氏と経済産業省製造産業局の榊原風慧氏にお話を伺った。
(1枚目の写真:ロビットのオフィス。写真提供:ロビット)

経済産業省は2016年にも、ものづくりベンチャーを取り巻く課題と解決への道筋をとりまとめている。その際、量産化、資金調達、事業策定面で課題があるとし、ベンチャーとパートナーをとりまとめる仲介者的な機能や、ビジネスとして成立させるための事業計画をサポートする環境面の不足を指摘している。今回の調査ではベンチャーと、彼らを取りまくパートナーや投資家がWin-Winの状況を構築しながら、より発展していくための政策的課題を調査した。

調査にあたっては製品化までこぎつけた国内のものづくりベンチャー十数社と、ベンチャーを支援する国内外のアクセラレーターやVCなど投資家にヒアリングを行っている。

研究開発への支援が圧倒的に不足している日本

レポートの中で最もインパクトがあるのは、海外の主要国と比較して、国の支援がベンチャーまで行き届いていない現状に関する記述だ。

P31より P31より

日本は主要工業国の中でも民間企業の研究開発に対する政府の負担が小さい。税制優遇措置で控除された税額の対GDP比では中国や米国を上回っているが、その恩恵を受けるのは大企業が中心で、ものづくりベンチャーには行き届いていないのが実情だ。

政府だけでなく民間の支援についても課題がある。政府は「ベンチャー・チャレンジ2020」の中で、2022年までにVC投資額の対GDP比率を倍増する事を数値目標に掲げている。しかし、標準的なファンド運用期間は10年以下であり、実際には7年以内に成果を求められることも少なくないVCの投資サイクルと、イノベーティブな製品を送り出すために長期間の研究を必要とするものづくりベンチャーの事業サイクルは必ずしもマッチしない。 

イノベーティブなハードウェア開発には長期間の研究開発が必要

洗濯・乾燥した衣類の折りたたみを自動で行う「laundroid」を開発し、2017年5月に予約販売を開始したセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは試作機完成まで10年を要したが、6億円以上にものぼった開発費は別事業での利益から捻出されたものだという。

また、狭小空間でも安全に人と一緒に働くことができるピッキングに特化したロボット「CORO」を開発したライフロボティクスは、「人と協働するロボット」というコンセプトが投資家に理解されず、8年間もの間、事業化に必要な資金が確保できないまま研究開発を進めていた。既に海外では協働ロボット市場が生まれていた2015年になって、ようやくVCからの資金調達に成功し、現在ではトヨタ自動車やオムロンなどの大手メーカーや、吉野家といった外食チェーンでの導入が進んでいる。

研究開発の長期化は資金体力に乏しいものづくりベンチャーにとっては死活問題だ。運転資金が枯渇すれば開発を断念せざるを得ない。また製品化できたとしてもタイミングを逸すれば、海外企業に先を越されてしまい、市場シェアで大きく引き離されてしまうリスクもはらんでいる。

2016年のCEATECでのlaundroidのデモ動画。こうしたプレゼンテーションを実現するまでに長期間の研究開発を要した。

北氏によれば、投資が進まない背景には製造業に対する知見のある投資家が少ないことや、投資した資金回収までの期間がITやソフトウェア関連業と比較すると長く、製造業分野への投資を避けられやすいといった事情が挙げられる。報告書でも「長期化・高コスト化する研究開発・水面下での事業化準備期間を、国や公的機関がしっかりと支えていくことが重要である」(P33)と指摘している。

開発環境の支援が充実している海外

ものづくりベンチャー支援は資金面だけではない。試作・製造パートナーを早期に紹介し、量産フェーズでの失敗や手戻りを最小限に留める開発体制の提供や、大企業による技術協力や共同事業化といった形での支援、いわゆるオープンイノベーションによる製品開発も考えられる。

アメリカのハードウェアアクセラレーターであるHAXは中国・深センの電気街に拠点を構え、近隣の工場ともネットワークを築くことで試作から量産に至るまでスピーディーに進められる環境を構築している。製造の現場に近く製造プロセスを川上から川下まで理解できるといった点や、コストの制約を前提とした設計に慣れているエンジニアが多く、開発コストも安価に抑えられるといった点に深センに拠点を置くメリットがあるとHAXは自身のWebサイトで説明している。

日本でも京都の試作メーカー連合体「京都試作ネットワーク」と連携するMakers Boot Camp(京都)や、墨田区の中小企業と連携した開発支援を行うリバネス(東京)など、初期段階からサプライチェーンと連携して開発できる環境を用意するアクセラレーターが存在するが、大手企業からの出資や技術協力が今後の課題とされている。こうしたアクセラレーターを支援していくこともベンチャーへの支援につながると報告書では指摘している。

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