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Maker Faireは世界への窓口——葛飾の町工場が「卓上真空成形機」を作った理由

プラスチックの部材を製造する手法のひとつ「真空成形(バキュームフォーミング)」は、私たちの生活をさまざまな場面で支えています。ラヤマパックは1962年の創業から真空成形を専門としている企業。数百~数十万以上のロットを基本とする大規模な業務を手掛けていますが、2014年に卓上サイズの真空成形機を開発すると、世界中のMaker Faireに出展し大きな注目を集めるようになりました。 BtoBビジネスからMakerを対象としたマシンの開発に至った経緯を伺うと、日本の町工場が置かれた現状と、ものづくりにかける思いが見えてきました。(撮影:越智岳人)

私たちのそばにある「真空成形」

皆さんはこんなかたちの透明なプラスチックパックを目にしたことはありませんか? 内容物に合わせた凹凸のある形状が特徴的なこれらのパッケージは、台紙に圧着された「ブリスターパック」やプラスチックの端を折り曲げて台紙を挟み込む「スライドパック」などとして日用品や食品など多くの商品に利用されています。これら凹凸のあるパックを作る際に用いられているのが、「真空成形(バキュームフォーミング)」という技法です。熱して柔らかくした熱可塑性プラスチックのシートを真空吸引し、型に密着させることで同じ形状を素早く作ることができます。

真空成形の基本的な仕組み(図は筆者作成) 真空成形の基本的な仕組み(図は筆者作成)

東京都葛飾区に本社を構えるラヤマパックは、この真空成形加工を専門としています。1962年の創業以来、親子2代にわたって真空成形を用いた受託生産や開発協力を行っています。

ラヤマパックの本社工場 ラヤマパックの本社工場

加工業者としての危機感とMakerムーブメント

加工のための生産力を拡大してきたラヤマパックに転機が訪れたのは2011年。代表取締役の羅山能弘(らやまよしひろ)氏は、中国に工場を作った際に「加工だけでは食べていけない」と衝撃を受けたと言います。

羅山氏「中国の製造市場を見て、量産規模や資本力では到底かなわないと感じたんです。ラヤマパックでは他社製の真空成形機を使ってプラスチック加工をしているけれど、それだけでは世界に通用しない。自分たちにしかできないことは何だろう? と考えたときに、我々自身で真空成形機を開発することを思い付きました。既存の真空成形機はあくまで機械メーカーの視点で作られているので、加工の現場では使いづらい部分などが出てきます。私たちも細かな改造やチューニングをしながら使用していたので、加工屋の視点から作る真空成形機があっても面白いのではないかと考えたんです」

長年の加工で培った技術やノウハウを強みにして、オリジナルの真空成形加工機を開発することを決めた羅山氏。その当時話題になっていたMakerムーブメントも、製品の開発方針に大きな影響を与えています。

羅山氏「クリス・アンダーソンの『MAKERS』を読んで、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデスクトップ型工作機械や小規模な工房の存在を知りました。自分たちに3Dプリンターは作れないけれど、真空成形機なら作れるかもしれない。他のデジタル工作機械と同列に扱える『卓上サイズの真空成形機』を作れば、このムーブメントに参加できると思って開発を始めたんです。真空成形機を新しいものづくりのツールとして扱ってもらえたら、頭の固い僕たちでは思い付かないような価値が生まれるかもしれないという期待もありました」

初めての機械設計、そして大反響

苦心の末に完成した卓上真空成形機「V.former」。

初めての機械設計に苦戦しつつも、中小企業振興公社の外部派遣制度などを利用し、専門家の協力を仰ぎながら何度も繰り返し試作が行われました。外付けのコンプレッサーが不要で、100Vの電源さえあれば使えるという手軽さと、縦横のサイズがA3に収まるというコンパクトさは、Makerによる利用を強く意識したものでした。

試作品の開発では5回以上のアップデートを繰り返した。 試作品の開発では5回以上のアップデートを繰り返した。

完成間近となった試作機を2014年に包装業界の展示会に出展したところ、機械メーカーや外国の業者から予想を大きく上回る反響があり、中には「いますぐ金を払うから売ってくれ」と言う人まで現れました。業界でもマイナーな真空成形の手法が分かりやすく伝わることで、多くの人の関心を集めたようです。

展示会の盛況で市場性を確信し、改めて販売に向けた準備を進めている最中の2015年9月、『Make:』誌を読んで興味を持ったMaker Faire New Yorkの視察に訪れ、その翌年にはなんと一人でMaker Faire Bay Areaに出展しました。

画像提供:ラヤマパック 画像提供:ラヤマパック

羅山氏「2016年の時点ではまだ社内で海外での事業展開について確信を持つ人が少なかったのと、予算の都合もあったので、僕一人でBay Areaに出展してみたんです。そうしたら包装業界での展示を上回る大変な人だかりで、とても一人じゃ対応できなくて困っていたら、見かねたお客さんが別のお客さんに説明してくれるようになったんです(笑)。説明するときの英語の使い方を聞いているのも面白かった。

日本とは違ってほとんどのアメリカ人は真空成形のことを知っていましたが、それを高いクオリティで実現したいという欲求がありました。ドローンのボディなんかを持ってきて、ウチの機械で試せないかと次々に相談してくるんです。出展者同士の交流も盛んで、『見本に使いなよ』とスターウォーズの石膏像を作って渡してくれることもありました。人生で一番“Cool”、“Super”と言われ続けた3日間でしたね」

画像提供:ラヤマパック 画像提供:ラヤマパック

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