Maker Faireは世界への窓口——葛飾の町工場が「卓上真空成形機」を作った理由
使い手のニーズが新製品を生んだ
海外のMaker Faireで特に大きな興味を示したのは、「プロップメイカー」と呼ばれる映画の小道具を作る職人達でした。ディスカバリーチャンネルの人気番組「怪しい伝説」出演でも知られるインダストリアルデザイナーアダム・サヴェッジらによるWebサイト「tested.com」の運営メンバーにも声を掛けられ、彼らのメイキング動画にV.formerが登場することになりました。
真空成形屋としてヒケの良さにこだわった性能がたいへん喜ばれ、その後も継続的にコンタクトを取るようになりましたが、ただ1点だけ不満を告げられました。
羅山氏「『お前の機械は最高なんだけど、作れるサイズが小さい。俺らは人の肩より上がカバーできるサイズまで作りたいんだよ!』と言われたんです。他にも、靴の加工に使おうとしている人から、アメリカ人は靴が大きいから入らないという意見もいただき、大きいサイズの需要があることを知りました」
当初はユーザーとして想定していなかったプロシューマ—から、映画の現場や工場での新たなニーズに気づくことができたと語る羅山氏。すぐさまもっと大きなサイズに対応した製品の開発に取り掛かると、2018年5月のMaker Faire Bay Areaにはサイズアップした新製品を展示し、再び大変な盛況になりました。
シンガポールや深センのMaker Faireでは、教育関係者からの関心が多く寄せられました。国内でも大学や教育機関からの問い合わせが多く、植物を培養するトレーの製作や、視覚障害者が手で触れて楽しむための教材開発など、多くの場面でV.formerが利用されるようになりました。もともと想定していたMakerを越え、HCI(Human Computer Interaction)分野における造形手法の研究や、企業内での作業効率改善など、V.formerをきっかけとして新たな分野で真空成形の利用が広がり始めています。
情報が集まり、人が集まり、仕事になる
2018年7月現在、ラヤマパックでは自社工場の一部を「具現化工場」と名付け、メイカースペースとして開放する計画が進んでいます。
自社製品であるV.formerはもちろんのこと、素材の伸びにも対応する特殊なインクを搭載したUVプリンターをはじめ、真空成形機との組み合わせを意識した工作機械や作品が多く並んでいます。
羅山氏「葛飾区はプラスチックを扱うおもちゃ業者が多かったのですが、どんどん廃業しているんです。うちもプラスチック屋ですし、葛飾をものづくりで活気のある場所にしたいという思いもあり、工房の開放を計画しています」
自ら動いて情報を集め、人が集まる場所を作ることで、そこから新しい仕事も生まれると語る羅山氏。V.formerをきっかけにして生まれたつながりを、より濃く広いものにするための場作りに挑み、多くのMaker Faireで経験したような活気が葛飾で生まれることを目指しています。
羅山氏「もともと地域の小学生を招いて成形を体験してもらっているのですが、彼らは自分がボタンを押して作ったプラスチックに目を輝かせるんですよ。ああいうまなざしは、海外のMaker Faireで見るまなざしと全く一緒。施設を運営することでものづくりに触れる機会を増やし、将来的に彼らが活躍してくれればそれでいい。僕らは彼らから真空成形の可能性のヒントやエネルギーを貰えるはずです」
町工場の置かれた厳しい現状を捉え、自分たちの強みを生かしたツール開発に踏み切ったラヤマパック。「町工場が世界と断絶されている」という危機感を打破すべく、積極的な展示を通じて世界とつながり、新しい使い方が開拓されていく様子からは、工作機械が創作意欲を後押しする力強さを感じることができました。より多くの人や機械と組み合わさることで、真空成形がどんな作品やビジネスにつながっていくのか、今後もとても楽しみです。